ギフト、短編用 | ナノ




どうしようもなく…




「危ないっ!」


ファインダーにまで気を回せなかった私が悪いんだと言い聞かせた。

私は大怪我をしたが、そのファインダーの女の子は守ることができたから良しとしよう。


「ごめんなさい…!」


女の子は何度も私に謝っていた。


「気に…しなくて…大丈夫だから…」


遠のく意識の中で安心させたいと思って笑顔を作って言った。

それが約一週間前の出来事。

目を覚ましたのはついこの間。
私は3、4日眠ったままだったらしい。
頭がぼーっとする。


「暇だなぁ」


絶対安静と婦長に言われ、天気の良い空を窓越しに眺める毎日。

目が覚めてからリナリーやアレンたちがお見舞いに来てくれるが、任務もあるし、そんな毎日ずっといれる筈がない。
それは仕方ないから文句は言わないが、一つだけちょっとこう、ね?
思うことがあるんだ。


「なんで彼氏が見舞いに来ないのよ」


私の彼氏、ラビは一度もこの病室に来てはいない。

任務でいないのかと思ったら、そんなことはなかった。
だってリナリーが言っていたんだもん。


「心配じゃないの…」


って思っても本人の前では口が裂けても言えません。
恥ずかしいじゃないですか!

そのせいでラビの前では可愛くない私が出来上がってしまってますが…。


「リナリーとアレンは任務かぁ…暇じゃ」


もうラビが見舞いに来ることは諦め、空を眺めながらため息を吐く。


「絶対安静…にできるわけないですよね!」


こんな天気が良いんだから出掛けるに越したことはないっしょ!
別に散歩したら偶然ラビに会えるかなとか思ってませんし。

こっそり病室を抜け出し、外に出ると、春らしい風が髪を撫でる。
うん、気持ちがいいね。


「…で…から…」


暫く歩くと、話し声が聞こえる。
私みたく散歩している人がいるのか。
こんな天気じゃ無理もないよ。


「付き合ってくれてありがとうございます」


やはり人間だもの。
気になってしまうもの。
これは盗み聞きじゃないよ。
断じて違う。

そーっと覗いてみると、あら吃驚。
久しぶりにラビくんを見ました。

しかも、近くにいる女の子ってこの間の任務で一緒だった子じゃね?


「大丈夫大丈夫!暇だったからさ」


かちん。


「なまえさんのところに行かなくてもいいんですか?」

「あー…あいつは強ぇから俺が行かなくても平気なんさ」


これは私が積み上げた結果だ。

恥ずかしいと言い訳して逃げて、可愛げをなくしてしまった私が悪い。

だがしかし。
一回ぐらい顔を見るだけ来ても良くないっすか!?


「アホらし…帰ろ」


考えれば考えるほどハマっていきそうで、その場を離れようと思った。


「っ!?」


変に歩き回ったせいで傷が開いてしまったみたい。

どうやら、罰が当たったようだ。
大人しく病室にいたら傷が開くこともなかったし、心が傷つくこともなかった。

でもやっぱりラビに会いたくて…。


「あぁ…馬鹿だ…わた、し…」


遠くでラビの声が聞こえた気がした。


「絶対安静って言ったのに!」


目覚めて一番。
私は婦長の説教を受けた。


「はぁ…」


結局、入院期間が伸びただけで何も変わらない日々になってしまった。

また暇な毎日がくる。

ただ一言、ゴーレムでラビに言えばいいだけなのに、どうしても言えない。

恥ずかしいのもあるが、第一迷惑でしょ?


「でも会いたいな…」


うっかり口にしてしまった言葉。
だが、それも空気に溶けてしまう。

誰にも聞こえない独り言。


「私は強くなんかないんだよ…。でもラビを守るには心も強くいなきゃ…」


いけないんだ。
ラビはブックマンだから。
別れる日が必ずやってくるから。

その時に笑ってサヨナラできるように。
強くいなくちゃ。


「だから…」

「だから、何さ」

「え」


声のした方に顔を向ける。

オレンジの大好きな色が見えた。
幻じゃない…?


「ラビ…?なんで…」

「絶対安静なのに出歩いたんだって?」

「う、うん…」

「で、外で倒れたって?」

「はい…」


怒ってる。
これは怒ってるぞー…。
声がいつもの数倍低いもん。


「あんとき、近くに俺らがいなかったら…どうなってたか、わからなかったさ」

「近く…?」

「運んだのは俺さ」

「嘘!?」

「ここで嘘ついてどうする」


あの時運んでくれたのがラビだったなんて…。
あぁ、そう言えば見た気がしたもの。


「あ、ありがとうね…」

「なんで出歩いたん?」

「…暇だったし、天気良かったもので…」

「ふーん」


この空気、気まずいぞ。

なんだいなんだい。
私が悪いみたいだけど(実際は私が悪い)、ラビがお見舞いに来てくれなかったのが…。

言えないのが現実。


「じゃ、元気そうだし病室出るさ」

「えっもう!?」

「へ?」


とっさにポロリしてしまった本音に、ラビも私も目を丸くしてしまった。


「いいいいや!なんでもないの!ご、ごめんね?じゃっ」


ここでおねだりするような言葉を言ってもいいのだろうが、とても言えません。

布団を被ってラビに背を向ける。
そうすれば、暫くしたら出て行くから。


「俺…そんなに頼りねぇ…?」

「…は」


今までに見たことがないラビの顔に戸惑った。

どうして、そんな辛そうな顔をしているの…?


「なまえの支えになりたいのに、ちっとも頼ってくれねぇよな」

「ラビ待って」

「ごめん、出るわ」

「待てって!」


勝手に言い逃げるラビに腹が立った。


「じゃあ言わせてもらうけどね、なんで一度も見舞いに来なかったのよ!」

「それは…」

「みんなにお帰りって言われたのは凄く嬉しかったけど、一番お帰りって言ってほしかったのは…一番、顔を見たかったのはラビだったのにっ!」


興奮しすぎて、また傷が開いてしまった。
駄目だなぁ…止まらないや。


「なまえっ血が…!」

「でも…ラビはいつか、離れてしまうでしょう…?」

「!」

「ごめん…言えなくて…弱くてごめん…」


いつか離れることを恐れて深入りできなかった、弱虫な私を許して…。

どうか私を嫌わないで。


「嫌うはずなんかないさ…本当はずっとなまえが陰で傷ついてること知ってた…。強気にさせていたのは俺さ…っ」

「ラビ…」


婦長たちが病室に慌てた様子で入ってくる。
バタバタと一気に騒がしくなった。


「俺こそ…嫌わないで…」


それこそ嫌うはずがないよ。
だって私は…。


「そんなラビを愛してる」

「なまえ…」

「…ラビ、キスしてくれますか…?」

「そんなんっ…お安いご用さ」


唇と唇が触れ合った瞬間、私の意識はどこかへ飛んだ。

次に目が覚めた時には側にラビがいて、どうしようもなく幸せだった。





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素直じゃない+素直じゃない=書きづらい。
でもこういうの好きです。

(2012.4.13)









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