『暖』+『冷』百合注意 「千鶴、知ってる?手が冷たいのは心が暖かいからなんだよ」 だから千鶴は心が暖かい人なんだね、って私の手を握りながらなまえちゃんは笑った。 儚く、悲しげに。 「俺の手は暖かいから心が冷たいんだ」 そんなことない。 私は知っている。 屯所にあった小さな花に毎日お水をあげていたことを。 お腹空かせた隊士に大好物のお団子をあげていたことを。 私の仕事を毎日手伝ってくれていたことを。 「だからさ、千鶴はちゃんと幸せになって」 「なまえちゃん、は…?」 「俺は…心が冷たい奴なんかに幸せなんて不必要なんだよ」 「そんなこと…っ!」 だんだんと霞んでいく視界。 耐えきれなくなった雫が袴に小さな跡を残していく。 「ごめんね、泣かないで千鶴」 「そんなこと…言わないで、くだ、さい…」 「千鶴…」 「生きて…生きて戻ってきてください…!また平助くんと原田さんと永倉さんと遊んだり、沖田さんや斎藤さんと稽古したり、土方さんに怒られて…いつも通り一緒に仕事して…っ」 「…うん…必ずとは言えないけど…帰るよ…」 やっと笑ってくれたなまえちゃんの瞳からは、綺麗な綺麗な涙が一滴こぼれ落ちていた。 そして夜の闇へと消えていってしまった。 「必ず…帰ってきてください…」 後日、瀕死状態のなまえちゃんが運ばれてきたとき、血の気が引くかと思ったほど。 羅刹になってしまった彼女の下へ、大好きなお団子を持って行けば、月をぼーっと見ていた。 「なまえちゃん?」 「あぁ…千鶴か。どうしたの?」 「お団子貰ったので一緒に食べようかと思って」 「それは嬉しいなぁ」 どうぞ、と渡せば、遠慮なく、と言ってお団子を頬張る。 「おいしい」 ふにゃり。 なまえちゃん頬が緩んでる。 その姿が可愛くて、つい笑ってしまった。 「何笑ってんのさ」 「いえ、あまりにも可愛らしい姿だなって」 「可愛らしい…か…なんか久しぶりに言われた気がする」 千鶴も食べなよって言われたので一つ口に入れる。 思ったよりも美味しく、これは頬も緩んでしまうと納得してしまうほど。 「これはすごく美味しいです!」 「でしょ?」 あぁ…。 そうやってまた綺麗に笑う。 この笑顔が見たくて、お団子を持ってきたと言うのに。 心臓が忙しないなぁ…。 「あ、」 最後の一本。 ついつい私も食べてしまっていた。 触れた手が、なまえちゃんの手がとても冷たい。 「団子食べていいよ」 「いえ…なまえちゃんが食べて下さいっ!なまえちゃんの為に持ってきたんですから!」 「い、いいの…?」 「はい!」 「後悔しても知らないからね」 そう言いつつも心配そうに顔をのぞき込む。 「大丈夫ですって!それより、手…冷たいですね…」 「ん?あぁ…外にいたからね」 「知ってました?手が冷たい人は心が暖かいんですよ?」 「ぷ…っ!それ前に俺が言ったことだよね…!」 「そうです!あの時は心が冷たいと仰ってましたが、今はこんなにも心が暖かいじゃないですか」 「!!」 だから幸せを諦めないでほしかった。 「これは一本取られたなぁ」 はははって苦笑気味のなまえちゃんが突然私の目を真っ直ぐに見据えて、 「幸せを考えてみるのもいいかもしれない」 私はどうしようもなく彼女が愛おしかった。 ********* 百合が書きたかっただけなんですごめんなさい。 (2011.10.29) |