ギフト、短編用 | ナノ




屋上の君




「あ、またいる。」


つまらない授業を抜け出して(みんなは真似しちゃいけないよ!)屋上のドアを開けると、心地よい風が私を包む。
暖かな日差しに誘われてフェンスの近くまで行くと隣の学校の屋上へと自然に目がいった。

視力が両目とも2.0の私は隣接している薄桜学園の屋上がばっちり見える。
最近、その薄桜学園の屋上に1人の男子生徒がいるのに気がついた。


クラスメイトのお千ちゃんを通して知り合った薄桜学園の千鶴ちゃんにその男子生徒の特徴を言うと、
あれが誰なのかはすぐに分かった。


「2年の沖田総司先輩…か。」


毎回私が屋上に来る度に向こうの屋上にいる沖田先輩は
気持ち良さそうに昼寝をしていたり、
何かが書いてあるノートを見てニヤニヤしていたり(あんなに黒い笑みもなかなか見れないと思う)、
そして…


「あっ」


たまにこちらを見ていて、私と目が合うのだ。

最初のうちは名前も知らなかったし、
何より男子生徒というものはこちらの学園内にはいないから(女子校だから当たり前なんだけど)、
恥ずかしくなって、向こうからは死角になる位置に逃げていた。

だけど、千鶴ちゃんから名前を聞いてからは何となく逃げるのが惜しくなって
逃げずに見つめ返すようになった。

…たぶんだけど、
初めて見たときから私は沖田先輩のことが気になっていたんだと思う。
…その、恋愛感情的な意味で。

実際に会話したことはないから声も知らないし、
性格だってよく分からない。

だけど、あの綺麗な翡翠色の瞳を見ていると顔がどんどん暑くなるのがわかる。


「(えーっと、)きょ う も さ ぼ り で す か」


口をなるべく大きく動かして、沖田先輩に話しかける。
声は届かないけど、これが私と沖田先輩の唯一の会話方法なのだ。


「う ん だっ て こ て ん の じゅ ぎょ う だ し」

「こ の ま え も こ て ん さ ぼっ て ま せ ん で し た か」

「た ん と う の きょ う し に い や が ら せ し て る ん だ よ」

「い や が ら せっ て…あ、先輩後ろ!」


何気ない会話をしていると、
沖田先輩の後ろに見えるドアが開いて、スーツを着た綺麗な男の人が屋上へとずかずか入ってきた。


「(絶対あれが古典の先生だよ…!!)」


私の焦った顔に気がついたのか、
背後の気配に気がついたのかは分からないけど、沖田先輩が振り返る。

それとほぼ同時くらいに、
沖田先輩は古典の先生に胸ぐらをつかまれて怒鳴られている。

声は届かないけど、あの先生がめちゃくちゃ怒っているのが伝わってきた。


突然の出来事に固まっていたら、ふと沖田先輩から先生の視線がこちら…に…


「げっ」


 目 が 合 っ た 。


それと同じくらいのタイミングで授業終了のチャイムが鳴る。
私はその音と同時くらいにダッシュで屋上から逃げ出した。



「もうっ、なまえったら!また授業抜け出して屋上行ってたでしょう!?」

「あ、お千ちゃん
別に自習の時間だったし、抜け出しても…って、それどころじゃないよ!!
どうしよう、薄桜学園の先生に見つかった!」

「はぁ!?」


教室に駆け込むとお千ちゃんがお叱りモードで近づいてきたけど、
正直私はそれどころじゃない。

一応、
この島原学園ではそれなりの成績を収めてるから多少授業を抜け出しても何も言われないけど、
薄桜学園にそんな理由が通る訳がない。

さすがに他校から指摘されちゃったら、ここの学園長だって何らかの処置をとるはずだよね。


「最悪、退学かなー!?」

「馬鹿なこと言わないの!
そんなことで退学になるわけないわ!」

「で、でもさーっ」

「…お話の途中申し訳ないのだけど、いいかしら?」

「「君菊先生!!」」


お千ちゃんに泣きついていたら、
我がクラスの担任、君菊先生が立っていた。


「なまえさん、放課後隣の薄桜学園に行ってもらえるかしら?
何でも、土方さんがお話があるみたいよ」

「は、はいぃ…」




「失礼します。島原学園、1年1組の…「入れ。」…ひゃぃ(はい)」



あっと言う間に放課後。
私は君菊先生に言われた通り、薄桜学園の国語科準備室に来ていた。

職員室じゃなかったから少しほっとしたのはここだけの話だ。

自己紹介する前に冷たい声に遮られてしまった。逃げ出したい気持ちをなんとか押さえて、
中に入ると屋上で見た先生と、沖田先輩がいた。

いつも屋上で遠くに見ていた先輩が目の前にいる。
近くで見ると格好良さが増す気がするのは私が先輩に恋をしているからだけではないはずだ。

「(…背、こんなに高かったんだ)こ、こんにちは」

「こんにちは。」

「!!」


初めて聞く声。
変かもしれないけど、沖田先輩にぴったりな声だと思った。


「おい」

「は、はいぃ!!」


先生に呼ばれて思わず一歩下がってしまった。


「くすっ そんなに怯えなくても大丈夫だよなまえちゃん。」

「へ?…え?なんで名前…」

「ね、土方先生。僕たち、今回はお咎め無し。…ですよね?」


いきなり名前を呼ばれて驚く私に軽く笑いかけた後、
沖田先輩は土方先生にこれまた驚くような内容をサラっと言った。

土方先生は苦い顔をしながらも頷く。


「今回だけは、な。
お前も、授業にはしっかり出ろ。
間違ってもこんな2年にはなるなよ。」

「は、はい…?」


土方先生は言うことは言った。
という感じで深いため息をつきながら準備室を出て行ってしまった。

これ…どういうこと?


「僕がね、とある人の大切なノートを持ってたの」

「?」

「ホウギョクさんっていうんだけどね。
土方先生はその人の大ファンなんだ。」

「えっと、その作家さん?のノートを渡す代わりにお咎め無しってことですか?」

「そういうこと」

「…じゃあ、私がここに来る必要は?」

「んー、それはさ、
僕がなまえちゃんの声を聞いて、直接お話したかったから。」

「え?」

「なまえちゃん、これからは屋上じゃなくて直接、声の届く近さでお話しようか?」

「え、と。それは…つまり?」



屋上の君に恋をした。

「というかなんで名前…」

「千鶴ちゃんに聞いたんだ」

「え?」




**********
ひよこ様から相互記念に頂きました!!
もう終始ニヤニヤしっぱなしで読まさせていただきました←
沖田さんも夢主ちゃんも可愛い…///
ひよこ様、ありがとうございました!!
これからも宜しくお願いしますっ><



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