長編不器用な青春 | ナノ




01




「落としましたよ」


レースをあしらった可愛いピンクのハンカチ。
私には絶対に縁のないハンカチの落とし主は、これまたふわふわとした可愛らしい子。


「あ…ありがとうございます…」


仕草も女の子らしい。
男っぽいと言われる私とは正反対だ。


「いえいえ「なまえはやくー」じゃあね!」


初対面だろうと、年上だろうと敬語を知らない私に対して、女の子はペコリと頭を下げた。
なんと礼儀正しい子なんだ。
あの子モテるだろうな。

この出会いが後々あんな事態になるなんて、そんな未来のことは誰も知らない。

女の子が見えなくなったところで、我が親友千鶴のもとへ猛烈ダッシュ。
いくら遅くても待っていてくれている千鶴とは裏腹に、少々膨れ気味の平助。


「おせーよ!」

「女の子のことぐらい文句言わずに待ってなさいよ」

「誰が女の子だって?」

「平助…それはどういう意味?」

「そういう意味だろ」


バチバチバチと火花を切らす私と平助。
こいつ…今日こそ許さん!


「はいストーップ」


苦笑いの千鶴が間に入ると、私たちの喧嘩は幕を閉める。

私も平助も千鶴には全く勝てる気がしない。
特に平助は好きな子の言う事だから絶対に守るだろう。

そんな平助のことを、私は昔から密かに想っている。


「そういえば、明日数学で小テストあるよね」

「は!?何それ!」

「俺も知らねぇよ!」

「今日言ってたでしょ…」


呆れ気味の千鶴は、やっぱりというように冷たい眼差しを向けている。

だって数学とか寝るための授業でしょ?
数字という名の呪文を見せ付けられるんだもん。
やってられないわ。


「最悪だ…わかんねぇよ・・・」

「みんなで勉強しよっか」

「さんせー!千鶴先生お願いしまーす!」


千鶴はいつもちゃんと授業聞いてて偉いなぁ。
「はいはい」って笑顔で答える彼女は色々な人に愛されている。
私も千鶴激愛だし、こんな親友を持てて嬉しいなんてものじゃない。


「千鶴大好きよー!」

「私もなまえ大好きだよ!」


このやり取りが始まると後ろで平助が千鶴を取られて悔しいのか、複雑な顔をする。

私は平助が千鶴のこと好きなのは知っているが、当の本人千鶴には気づかれていないみたい。
千鶴が鈍感なのは知ってるけど、これはあまりにも鈍感すぎやしませんか。


「ちゃんと平助も好きですよー!」

「な…っ!何言ってんだよ!」


本音だけどね。
冗談でしか伝えられない想いなんて苦しくて仕方ないけど、絶対に想いを打ち上げるようなことはしないと幼い私は誓った。
この関係をもう二度と壊したくなんかない。

この時私は、自分のことで精一杯で、あの女の子が恨めしそうに睨んでいるなんて全く知らなかった。


「雪村千鶴…みょうじなまえ…」


さて、幼馴染の特権である登下校はいつまで続くのかな。
もしも二人が付き合い出したら…私は…。

あんまり、考えたくない…。

不安を笑顔で隠していつも通り。


「藤堂平助が…好き…あいつら邪魔ね…」


瞬間。
背中に走った寒気。


「え、」

「なまえ?どうしたの?」

「いや…なんでもない…」


身の毛もよだつとはよく言ったもので、まさしく言葉通りの殺気を受けた気がした。
気がしただけ…かな。
今のなんだったんだろう。

そうしている間に、千鶴の家に到着した。
千鶴がポストの中身を確認している隙に、家の中へ上がりこむのがいつものパターン。


「あ!薫から手紙!」


だったのだが、この一言で私も平助も即座に千鶴の近くに駆け寄る。

千鶴の双子の兄、南雲薫(苗字が違うのは、色々大人の事情のせい)は今、留学中。
成績優秀の彼は、海外でも優秀らしい。
この歳で留学ってだけでもすごいのに、優秀とか雲の上の人だ。

昔はいつも四人で一緒にいたから、少し寂しくもある。


「さて勉強がんばろっか」

「ぅ…頑張る…平助には絶対負けない」

「お、俺だってなまえには負けねぇからな!」


(2012.4.3改正)










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