過去短編 | ナノ




素直になれなくて




『真弘ー』

「先輩つけろ先輩を!」

『暇ー』

「んなこと言われてもな、こっちは勉強してんだよ!」


夕日が差し込む教室で、ロマンチックなムードにはならない私と真弘。

仮にも付き合ってるんだけどね、なんか延長線上って感じ。


『そんなのちょちょっとできちゃうじゃん』

「なまえの頭と一緒にすんな…」


真弘は目の前の数式に夢中だ。
私が親切に教えてあげようか?と聞いても意地を張って断る。
だから必然的に私は暇人。


『学校探検してくる』

「んー」











「みょうじなまえだな?」

『なんですか』


いきなり現れた三年の女子ども。

やな予感しかしない。


「お前鴉取くんと付き合ってんだってな」

『そうですが…』

「私らの方が先に好きだったんだよ」

『…はぁ…だからなんですか』

「別れろよ」


やっぱりか。
好きに時間とか必要なのかな。
あっちの事情も知らないくせに。


『意味がわからないです、では』

「てめぇ!一年のくせに生意気なんだよ!」


降ってきた拳を避けることは不可能だった。












「よっしゃ!終わった!帰ろうぜーなまえー…なまえ?」


数式に夢中になっている間にどこかへ行ったのか…。


「ったく、またどっかで寝てんだろ…」


教室を出て、なまえを探していると叫び声が聞こえた。
声の下へ行ってみると、案の定なまえの姿が。
相手がなまえに対して手を上げた。
殴る気か…っ!


「何やってんだ」

『ま、ひろ…?』

「あ、あ鴉取くん…えと、じゃねっ」


おーおーまさしく“風のように”去っていったよ。

「お前、こんなこと初めて、か?」

『何が?』

「上級生にいじめられんの」

『ただ話してただけだよ』

「嘘だろっ!」


叫ばなくたっていいじゃん。

私のことなんて知らんぷりだったのになんなんだ、いきなり。


『嘘じゃねぇし。真弘うるさい』

「あぁそうかよ。心配して損した」


怒らせちゃった。
私を置いて先に行ってしまった。


『あぁ…駄目だなぁ…』


目からは涙が流れていて、こんなにも好きなのになんで伝わらないかなって。

とりあえず、1人でうじうじしてても仕方ないので鞄を取って玄関へ足を運ぶ。

真弘の靴箱をみたら上履きが入っていて、先に帰ったんだと示している。


『馬鹿真弘…なんで、私だけこんなに好きなんだ…』

「お前だけ、じゃねぇよ」

『は…?』

「俺だって、好きなやつ目の前にして冷静でいられるわけねぇから」

『好きなやつ?私が?』


そんなの初めて聞いた。
ずっと好きじゃないと思ってたから。


「なまえ以外に誰がいんだよ」

『珠紀先輩』

「んなアホな話しはどうでもいいんだよ」


結構本気だったのに…。


「お前だけじゃねんだ。好きで仕方ないのは」





素直って


難しい。
そんなこと考えてたら唇に柔らかくて甘い何かが当たった。


『…ーっ!?』

「帰るぞ」


お互い真っ赤だ。











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