過去短編 | ナノ




知りたくて




私は走っていた。


『はぁはぁはぁはぁ…っ』


放課後の学校は幻想的だが、どこか怖い。
こんな魔窟から早く逃げ出したくて、でも玄関で見たくないものを見ちゃって。

《立ち入り禁止》のプレートが下げられた屋上へ逃げた。

屋上への重たい扉を押しのけると、腹が立つぐらい綺麗な、いや本当に綺麗な夕陽が広がっていて。

金色に光っているそれは、私の頬を伝う何かも照らした。


『うぅ…そ、じの馬鹿…』


今から数分前。
総司からのメールに気づいたのは委員会での最後の作業が終わってからで、内容は“玄関で待ってる”といった普通のもの。

それでも、私の好きな人&彼氏でもある総司からのメールはどんなものでも嬉しい。

最後まで残ってくれていた千鶴ちゃんも出て行き、いよいよ残ったのは私だけ。
急いで帰る支度を終えて玄関へと早足で行く。

ここまで残っていた生徒は私が最後らしくて、周りに人の気配など微塵も感じない。

と、玄関に見知った栗色の髪の毛を見つけた。


『え…?』


見えてきた光景は総司と千鶴ちゃんがキスをしているもので。


『何やって…』


信じたくない、裏切りのワンシーンだった。


そして、今。
私の後ろには総司がいて、息づかいが荒いことから私を追いかけてきたのだろう。

私はフェンスに手をかけて落ちていく夕陽をただ眺めていた。


「なまえ…ごめ『聞きたくない』…っ」


なんて我が儘なんだろう。
でもこの言葉の先はきっと私を絶望へと落とす。

そんなの耐えられなくて。


『総司は…なんで…わた、私を…選んだの…?』


でもやっぱり真実を知りたかった。


「それは好きだから」

『じゃあ!さっきのは…っ』


後ろから抱きしめられて、私を抱きしめる腕には力が入っていて、右首に総司の顔があって、そして、全身が震えていて。


『そ…じ…』

「ごめん…ごめん…っ…僕はわからなかったんだ…この感情が恋なのか…」


いつも一緒に居すぎていて、これが恋と呼ばれるものなのか、それとも…ただ勘違いしているだけなのか。

この疑問は少なからずとも私の中にもあったわけで。
でも恋だと信じたくて。


「だから、僕は…千鶴ちゃんに聞いたんだ…」


「僕はなまえのことが好きだと思う?」

「自信ないんですか?」

「うん…これは恋心、なのかな…」

「じゃあ私にキスしてみてください」

「千鶴ちゃん…大胆なこと言うね…」

「それが一番手っ取り早い方法ですよ」

「…っ…」



「結局僕はできなかった…なまえ以外の女の子とキスなんでできるわけないってわかって…」


「それが、好きだっていう証拠ですよ」


頭は考える機能をとっくに止めて、私は放心状態になっていた。

誰も悪い訳じゃない。

千鶴ちゃんは私に嫌われる覚悟で言ったのだろう。
総司が私を好きなのを信じて。

総司を身体から離し、ちゃんと総司の顔を見る。
今までに見たことのない、余裕のない顔でこの話しは本当なのだと覚る。


『私は…信じていいんだね?』

「勿論っ!」


その必死さに安心し、笑みが零れる。

その瞬間、総司の顔はみるみる真っ赤になり、


「…反則だよ」


と口を手で隠しながら言った。




勘違いから伝わる想い
『総司…左頬どうしたの?』
「…千鶴ちゃんに叩かれた」
『ぷっばーか』



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ひよこ屋さまからお題を借りしました。










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