メーデー、



「メーデー、メーデー、メーデー、こちらは琴葉、琴葉、琴葉。メーデー、こちらの位置は地球。あなたを探している内に遭難しました。救助を求む」


 花京院がエジプトで亡くなったと聞いたのは彼が亡くなってからひと月が過ぎた時だった。突然転校してしまった彼と連絡する術を持たなかった私は、突然家にかかってきた電話で訃報を聞いた。花京院のお母さんが私の事を覚えていてくれて、なんと電話番号を書いたメモ用紙を偶然見つけて電話をしてくれた。
 あまりにも現実離れした死に方をしたらしい。腹に大きな穴を開けて、それが直接的な死因だったとか。どんな死に方をしてるんだ、とツッコミも入れられなかった。

 元々、花京院とはそんなに親しい仲ではなかったように思う。少なくとも花京院はそう思っていたんじゃないだろうか。彼は常に他人と一線を引いて生きているように見えた。
 それに私も例外ではなく、どこか距離を感じさせる接し方だった。じゃあ何で電話番号を花京院が知っていたかというと、その実私にもよくわからないのだけど、ふとしたきっかけでゲームの話になって、それからゲームの貸し借りをするようになって……それで電話番号を教え合った、ような気がする。
 きっかけすら曖昧であるのに、花京院の顔もぼんやりとして中々思い出せない。思えばお互い目を合わせて喋ったことなんてほとんどなかった。地面を見ているか、どこか明後日の方向を見ているか。他人から見たらまるでお互い空虚に向かって話しているように見えただろう。

 顔が思い出せない。考え始めると、彼がどんな声で話していたのかも思い出せない。どんなゲームを好んでしていたかは覚えている。レースゲームが得意で、RPGはまるで作業のようにノルマを達成していった気がする。彼のゲームに関する事だけは何となく覚えていた。
 これではまるで花京院がゲームの塊のようだ。でも、私の中での花京院はきっとゲームなのだ。それ以外に何もない。形ですら曖昧なひと。
 何か、彼の人間らしい部分を思い出そうと思っても何も思い浮かばない。『思い浮かばない』という時点で何も覚えていないのだろうと、自覚する。
 彼は何だったのか、誰だったのか、どれだったのか。私は何を言って、何を共有して、何をどうしたのだろうか。何もわからない。

 果たして私は本当に花京院典明と仲が良かったのだろうか。

 ……と、そのような事ばかりをここ最近ずっと考えている。学校の勉強もままらない。友達の話も上の空。終いには友達に「恋でもしてるの?」と聞かれる始末。これはひどい。でも一方でそうなのかもしれないと思う私もいる。
 今更、顔も声も思い出せない相手、しかも死んでいる人に恋をしているのなんておかしいけれど。必死に思いだそうとしている私は、やっぱり恋をしているのだろう。
 さて、私の中の何処に花京院典明は存在する?


「メーデー、メーデー、メーデー、こちらは琴葉、琴葉、琴葉。メーデー、こちらの位置は地球。あなたを探している内に遭難しました。救助を求む」


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