花京院典明は恋をする。



花京院典明は女の子と話したい。
 もちろん、女の子なら誰でもいいというわけではなかった。正確にいうならば、あるひとりの少女に話しかけたい。会話をしたい。
 花京院典明はスタンドを持っている。
 それを見ることができない人とは友人にはなれないと思って生きてきた。ある少女も、スタンドを持っている。能力は知らない。何故ならば会話をしたことがないからだ。何故少女がスタンドを持っていると知ったのかというと、承太郎が話しているのを聞いたからだ。
 花京院典明は女の子に想いを寄せている。
 一言も会話を交わしたことがないにも関わらず、はっきりと自分が恋をしていると自覚を持ってしまった。気付いてからはそれはもう苦悶の日々だった。一言も会話をしていないのに恋をするだなんて、まるでストーカーじゃあないか。もちろん誰にも相談できるはずもない。
 花京院典明は今日こそ女の子と会話をしようと試みる。

「……、……ッ、…………」

 試みる。

「……あっ、……その、……ッ、……」

 花京院の声は女の子には届かず、女の子は目の前を通り過ぎて承太郎の元へと行ってしまった。彼女は承太郎と仲が良い。承太郎もまんざらではなさそうな様子であった。

「…………ぼく、何やってるんだろ」

 独り言すら誰にも拾って貰えず、ただただ承太郎と仲良さげに会話をしている女の子を見ているしかなかった。
 笑顔で承太郎に話しかけている女の子が、承太郎に何かを言われきょとんとした表情になる。その表情にすらときめいてしまう花京院は誰がどう見ても恋愛末期である。
 ふと女の子が花京院を見る。そして、なんと近づいてくるではないか!
 花京院は一瞬何が起こっているのかわからずに思考停止し、気づいた時には女の子が目の前に居た。

「あ、っえ?」
「花京院くん、だよね?」
「え、あ、あぁ……うん。そ、そうだけど」
「承太郎がね、『花京院ならゲームに詳しいからそいつに話を聞け』って言ってたんだけど、花京院くんはゲーム得意なの?」
「も、もちろん! あ、でもその、全部のゲームをやってるわけじゃないから……」
「うーん……格闘ゲームなんだけど、やったことある?」
「っそれなら、大体のゲームはやってるから、大丈夫だよ!」
「そう? じゃあ、色々と教えてもらおうかな」

 まるで夢のようだ。花京院は頬をつねってこれが現実なのか確かめそうになった。
 しかし確かめるまでもなく、これは現実なのだ。承太郎がこっちを見て笑っている。なるほど持つべきは友人だと花京院は改めて友情を噛みしめた。

「あ、私は琴葉っていうの。これからよろしくね、花京院くん」
「こ、こちらこそ、よろしく。琴葉、さん」

 花京院典明は恋をする。
 その道のりは、案外遠くはないようだ。


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