規則は守るためにある | ナノ
愉快な仲間たち



 朝の風紀委員の当番も無事に終了し、私は自分の教室にやってきた。

 私が教室に入るとみんなさりげなく自分の身なりに注意されるところがないかチェックする。すっかり恒例となってしまったこの光景。私が校則の番人なんて呼ばれるようになってからは尚更酷ひどくなった。ひどく、といってももちろん良い意味で、私のクラスは一部を除いては良いクラスだと評価されている。

 そして目の前にはその一部。

「仁王、ワックスつけすぎ。ネクタイ緩い、いい加減学校指定のセーター着て、ケータイを堂々と使わない、腰パンしない、ポケットからスパナはみ出させない。
…は? スパナ? ――学校にスパナ持ってこないでよ」
「ピヨッ」
「誤魔化せてない」
「プピーナ」
「ぶっ飛ばすよ?」
「すまんすまん」

 しぶしぶと身なりを直し始めた仁王は私にニヤニヤと笑いかける。私はこいつが大の苦手だ。そんな仁王を尻目にもう一人の問題児、丸井へ目を向ける。

 席について私たちのやり取りを見ていた丸井とばっちり目が合う。

「まーるーい」
「俺はガム喰ってるだけだぜぃ」
 
 何も悪いことしてない、と私にその身なりの乱れのなさを見せた。ガムなら問題ない。
 本当は校則上罰したいところだが、柳から集中力アップのため、という申請を受けているのでここは見逃すしかない。

「授業中にはガム食べないでね」
「りょーかい」

 朝、注意したネクタイもちゃんと直ってたし今日の丸井は比較的良い状態だ。

「みょうじ」

 名前を呼ばれ、横から現れたそいつに肩に腕を回され、肩を組む形になった。

「直したけ、構って欲しいぜよ」

 低い声が耳元でそう囁く。それが仁王だと分かった途端ぶわっと全身にトリハダが立っち、拒絶反応が出てしまう。そんな私の変化を見て仁王は楽しむ。嫌な性格だ。

「…ひっ、そ、そう…。…うん、いいんじゃない…?」

 声を震わせ視線を外す私を見て、仁王はクツクツと笑う。

 笑ってないで早く離れろ。
 内心そう思いながら、私は振り払おうと肩を前後に振る。けれど、流石はテニス部。相当な力で掴んでいるのかびくともしない。



「仁王くん」

 聞き覚えのある声が教室のドアの方から聞こえた。見ればそこには険しい顔をした柳生。「何やっているんですか」といってからスタスタとこちらにやってくる。ほっとした。これでやっと解放される。

「お邪魔虫」
「誰がお邪魔虫ですか。いい加減その手を離したらどうです? 仁王くん」

 柳生は私の肩に手をかけている仁王の手を簡単に私の肩から離してくれた。 あまりにもあっさり仁王の手が離れてしまったので私は驚いた。テニス部の握力は一体どうなっているんだ。

「ちぇー、俺となまえちゃんのラブラブタイムを邪魔するんじゃなかよ」
「おふざけが過ぎます」

 柳生は仁王の手を本格的に払うと反対の手に持っていたプリントを私に渡した。

「こちらに用事があったので、真田くんから預かったプリントをついでに届けに来ました。どうやら今度行う大規模な校紀検査の詳細だそうです」
「あー、どうもありがとう」

 プリントの中身を簡単に確認してバッグの中にしまった。柳生は私たちのやり取りを一通り見ていた丸井の所に向かう。用事というのは丸井にあるらしい。

「丸井くん、昨日貸した辞書。借りっぱなしでしょう?」
「んあ? あ!悪ぃ比呂士。返すの忘れてた!」

 柳生は貸していた辞書を返してもらいに来たらしい。丸井は机の中から辞書を取り出して柳生に渡す。

 私もいい加減席に着こうとバッグを担ぎ直した。そうしたらたまたま仁王が手首をさすっているが目にはいる。

「仁王、手どうかしたの?」
「ああ、いやなんでもないぜよ」

 そういって隠した仁王の手首が若干赤くなっていたのが見えた。

「手首、赤かったでしょ?痛くない?」
「……痛くはないんじゃが、まさかあんなに強く掴んでくるとはのう」

 新しいおもちゃを見つけた子供の様に、いや、それよりもたち悪く、柳生を見てにやりと笑った仁王。そんな仁王を見て私は自分の腕をさすった。気のせいか寒気がする。






20120405
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