私が見惚れたあなたの瞳
「比呂士、好きだよ」
「私もです」
私たちは私の部屋で与えられた長期休みの宿題をやっていた。
彼と私は学校は違えど、通っている映像授業の塾が同じで知り合った。恋人になったのは随分前のこと。
きりのいいところで宿題を止めた私がにっこり笑って彼に笑いかけてそう言った。
彼も私同様一段落したようなのか、微笑みを顔に浮かべ、私の頬に利き手の左手で触れて、優しく撫でながら返事をした。
指先があまりにも冷たいので少し驚いてしまう。
「ずっとね。聞こうと思っていたことがあるの」
あ、でもどーでもいい話だから聞き流してくれていいよ? そう付け足して私も彼の頬に手を添えた。
彼は「あなたの話にどうでもいい話などありませんよ」と甘いセリフを私にくれる。傍から見れば仲睦まじいカップルなのだろうか。
「比呂士の学校のダブルスパートナーの仁王くんと比呂士って似てるよね」
「ええ、容姿のみで言えばそっくりらしいですね」
仁王くんには何度か会ったことがあった。始めは彼から声をかけてきてくれて、立海の試合を見に行った時の比呂士とのペテンプレーはすごく印象に残っている。
「うん。それでね、私たまに比呂士が仁王くんに思えたりするの」
「…ほう。それは大変興味深い話ですね」
「あはは。そんなことありえないのにね」
「そうですよ。私は柳生比呂士なんですから」
彼は私から目を逸らして私の頬から手を離した。私はその手を逃さないように、がしり、と素早く捕まえて握る手に力を込める。やっぱり手は冷たい。あなたの心が温かいとでもいうかのように。
「ねぇ」
彼は突飛な私の行動に少しびっくりしたのか私の顔を見つめた。
「今日も比呂士のフリは面白いの?仁王くん」
にやり、
そう聞こえそうな程に彼の口元が大きく歪む。
あぁ、やっぱり。
彼の瞳が色を変えたようにギラギラ輝く。そうよ、その瞳がたまらない。
「私は比呂士のことが好きなんだよ。仁王くんは私のことが好きなんだよね」
彼は何も言わない。けれど、瞳は私を捉えて離さない。
「好きだよ、比呂士のフリをした仁王くんが」
彼はやっぱり何も言わない。一瞬、少しの憎しみが彼の瞳の中に映える。それだよ、その瞳が見たくてたまらないの。だから、この遊びはやめられない。
「じゃあ、宿題の続きやろっか、比呂士」
私は何事もなかったかのように、終わった教科書を片付けて新しい教科書の問題を解き始めた。彼も同じように鞄から教科書を取り出した。
「――…プリッ」
眼鏡の奥の瞳はギラギラと輝いている。
―――――
20120321
20120327.加筆修正
title by:コランダム
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