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暗くて狂ってる
みょうじなまえは他人と同等に扱われるのを酷く嫌う女だった。
だからなまえは努力を惜しまない。平凡から脱却するべくして何事にも時間をかけ完璧にこなせるように己を鍛えた。
なまえには嫌いな種類の人間が二つある。一つは努力もなしに非凡であり、自分の目の前から努力して得た技能や能力を簡単に披露し、易々と名声を勝ち取る輩である。そういう人間を見るとなまえは酷く機嫌が悪くなる。そういうやつは大抵誰からも慕われるような所謂いい人なのだ。ああ、しんでしまえばいいのに。
そしてもう一つは、偽善者だ。善を装い悪を滅しようと奮闘する。人は善にはなれないし、悪にもなれない。そもそも誰が善悪を決めつけていいと決めた。個人の主観であろう。そんな曖昧なもので避難されてしまう、悪と呼ばれるものをかわいそうだとなまえは常々思っている。
だが、どういうわけかなまえ惚れた男というのがなまえの嫌いなものを具現化したような男で、名を柳生比呂士という。
柳生はなまえと同じクラスで、初めてまともな会話をしたときに発した言葉が「あなたとは相入れないと思います」という紳士と呼ばれるには余りにも失礼な発言だった。なまえはそういう時の対応策を知っているにも関わらず、その鋭い視線にやられて一言も言い返してやることが出来なかった。柳生の瞳は日本人として特徴的な黒色などではなく美しい透明度をもつ琥珀色だったのだ。
一目惚れだったわけではないのだが、このことでなまえが柳生に興味を示し出し、彼に愛されたいと願うようになったきっかけになったことは否定出来ない。
なまえにはたくさんの課題があった。のっけからあなたは苦手だ、と云われてしまった手前、スタートラインはとうの先。そこに辿り着くことさえままならない。なまえは自分の鍛え上げてきた脳味噌をフル回転させ、打開策を考える。嫌われた人間にどうすれば好かれる?私はどうやったら愛される?
疑問は渦を巻き、やがて大きな溝を作る。その溝は努力で何でもこなしてきたなまえに不可能という文字をちらつかせ、終いにはその精神さえも脆く崩れ易いものにしてしまった。
なまえはおかしくなった。
だから、平気で今、
――柳生の自由を奪っている。
「な、なぜこんなことを…?」
ずれた眼鏡姿でそんなこと言うものだから、なまえはふふふと笑う。酷く、憐れで、滑稽で、あいらしかった。
「あいしているから」
「嘘だ、愛しているならば、私をこんな目に合わせたりしないはずです」
嘘という言葉になまえは敏感に反応した。肩が大きく揺れ、身体が震え出す。それを見て後悔の念に駆られた柳生だったがもう遅い。
「あんたに!!あんたに私の気持ちの何がわかるっていうのよ!」
なまえは泣き出していた。
「初めて好きになれた人に気づいた時には突き放されてて、どんなに頑張っても全部何にも為さない。そうかと思えば、みんなに向ける笑顔と同じものを私に向けて、気にかける素振りを見せる!この辛さがあんたにわかる!?今までにない経験、しかも全部悪いもの続き。ねえ柳生。私、どうしたらいいの?」
柳生はひくりと咽を鳴らした。狂っている、か細い声がそう言葉を紡いだ。
「知ってる」
恍惚と笑うなまえは美しい白い首に手を添えた。
―――――
20120910
20120916修正
清らかな人じゃないと柳生とは付き合えない、というあまりにも認めたくない現実からから派生
ごめんなさい、
続きました
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