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心の裏返し



たとえば転ぶ。

「うわぁ…だっさー」

ぱしゃり、携帯のカメラがシャッターを切る音が聞こえる。

たとえば泣く。

「ああ、先輩。泣かんといてください。
――ブスがばれるんで」

さらに涙で視界が歪む。

たとえばはしゃぐ。

「いい年して恥ずかしくないんスか?金ちゃんだってそんなにはしゃぎませんよ」

上げていた手がしゅんと下がる。

たとえば笑う。

「先輩先輩、ココ。頬の所。くっきり豊齢線出来てますよ。辛いっすねー歳とるっちゅーんは」

私は笑えなくなる。

たとえば、

――告白してみる。

「あ、すんません。無理っすわ」

フラれる。

あまりにもあっさり。明日の天気が晴れから雨に変わったことを伝えるかのように軽々と。
こっちはユウジが小春のことをあきらめたレベルですごいことをやってのけたのに。

「そ、そっか…」

私は成るだけ平静を保って、財前から視線をずらした。

どういうことだ。これ。
財前は基本的に人当たりがあまり良いとは言えない。何かと一言多かったり、心にグサりと刺さるような一言を平気で言ってのける。でも、心優しい少年であるのは確かで、よく気を遣い、口では貶しながらも、仕方ないといって自分で厄介ごとを引き受ける、次期部長に相応しい人物。のはずだった。
なのに、どうしてこうもあっさりと人の告白を踏みにじる? 確かに私自身も意図していない、急な告白だったことは認める。
普段から財前の私への当たりは人一倍ひどかった。それはもう心がめげそうな位に。
だからこそ、フラれるも同然で告白した。いやまあ、フラれるのは覚悟しいましたとも。でも、こんなフリ方ってある?

「先輩?」

おいばか話しかけてくんな。キズだらけの私を気にするな。というかさっきの告白忘れろおお。

「なに…?」

思いの他声が震えた。やめろやめろ。なんも話すなよ、財前。お前の言葉は今私をぼろぼろに切り裂く鋭い刃物なんだぞ。

「うわぁ…」

やめて、本当に。今、そういう反応されると、多分、私、泣く、から。
財前は私の涙が落ちそうな顔に自分の顔をグッと近づける。

「いつからっすか?」
「さあ…」

また声が震えそうなので短く答える。うつむいた顔になおも財前は顔を近づける。


「答えてください」

どうして私の傷口をえぐるの。もういいじゃん。明日から私のこと無視してくれてもいいから、もうやめてよその話題。

「去年の秋頃…」
「はあ?それって先輩が転校してきてからだいぶ後やないっすか」
「それがどうしたって言うのよ」
「俺、先輩のそういうところ嫌いです」

だから、もうやめてよ。

「だったら何!!ずっと好きだったけど何がいけないの!?アンタにとっては迷惑かもしれないけど、私が好きになっちゃったんだから仕方ないでしょ!!」

バカ!!と大声で叫べば驚いた財前の顔。もう嫌われようと知らない。

「人を傷つけるのも大概にしろ!!」

私の涙がはらりと落ちる。またブスだなんだと文句を言われる。

「なんで、あんたがキレるんすか」
「だって、アンタさっきから…」
「俺が言うてんのは、たった半年ちょっと俺のこと好きなくらいで告白せんといて欲しいってことっすわ」
「はあ!?」

「俺なんかもう先輩のこと、一年以上も好きなんスけど」



「うえ…?」

突然の告白に涙も引っ込む。

「なんちゅー声出しとるんですか」
「だ、って今…」
「好きですよ。なまえ先輩」

財前が、財前じゃないみたいだ。

「告白は俺からするって…―全国大会きっちり優勝してからしようって…決めてたんすよ、俺」
「だとしても…さっき…」

なんであっさりと告白を断ったのよ。

「ああ…あれはつい、いつもの癖で…まあ条件反射っすわ」
「はあ?」

財前はすんません、と短く謝ってから続けた。

「だって先輩が可愛くて。俺の知っとるアホな先輩じゃなかったんすもん」
「あ、あほって…」
「ま、そのアホらしさと一生懸命さを好きになった俺は、もっとアホっすけどね」

財前は今日はじめて笑った。照れくさそうに、だけど安心したように。

「今までのは愛情の裏返しちゅーことで勘弁してください」

それは私と財前の想いが一致した瞬間だった。




―――――
20120812
アンケート3位ツンデレ財前
ベッタベタな話だな、はは…
ツンデレってなに(∵)

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