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 しかし、普通で考えればそのようなことがあるはずもない。彼は人間に仇なす人外の存在を狩ることを生きているハンターと呼ばれる存在の一人。その彼が少女にしか見えない相手に気圧されることなど考えられるはずもない。そんなことになれば、いつも彼が相手にしている人外の存在の放つオーラに簡単に負けてしまうではないか。

 それは死神が持つ死の鎌にさらわれることと同じこと。だが、彼がここで息をしているということは、そのようなことになっていないという何よりの証拠。それならば、ただの少女のもつ気迫に負けることの方がおかしいのだ。

 そのことが彼にはよく分かっているというのに、感情はそれを正面から否定しようとする。その理由が、件の少女と対峙した時に感じた謂れのない感情のせいだった。

 ふわりとした柔らかい色の金髪がゆるやかなウェーブを描いている。上品な仕立てのドレスは少女が上流階級に属しているということを物語るもの。陶磁のようになめらかな白い肌と紅の必要などないのではないかと思わせる真っ赤な唇。一言で表現するならば『動いている人形』というのが適切ではないかと思える存在。

 だというのに、彼はその少女にそれ以外のものを感じていた。少女の視線を感じた時に首筋がちりちりと痛くなるような感覚に襲われる。これは今までにも何回か体験したことがある。だが、その相手はどれもが圧倒的な存在感を放つ、人外の中でも特別といえるような存在だったのだ。

 どうして、こんな少女にしか見えない相手からその時と同じ気迫を感じる。そう思った彼は彼女の顔を正面から睨みつけることしかできなかった。その視線に気がついたのか、少女は柔らかな微笑を彼に向けている。だが、その姿にどこか背筋が凍るような思いしか彼は抱くことができなかった。

「お前は一体、何者だ」

 使い込まれた剣を一気に引きぬくと、彼は少女の首元を狙った一撃を放つ。いつもであれば外すことのない間合い。だというのに手ごたえはまるでなく、どこか嘲笑うような雰囲気の声が降り注がれる。

「そんなものをわたくしに対して振りまわすというの?」

 その声と同時に手首を掴まれる感覚が襲ってくる。いつの間に息がかかるほどの距離に詰められていたのかさえ把握できていない。そして、少女の細い指が彼の手首をしっかりとつかむのを振りほどくことができない。なんとかしてその手を外そうともがく彼に馬鹿にしたような声が投げかけられる。

「わたくしにそんな物騒な物を向けるなんて、身の程知らずもいいところね。このままで終わると思っているのかしら?」



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