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「貴方はどうして、私に肉を食べさせてくれるの」
「お前が食べたがっているから」
「不死身でも痛いでしょ。私にそこまでする意味が分からないの」
「お前には言えないな」
「……そうなの」


 おや、と男は拍子抜けする。いつもなら苛烈な言葉を並べるのに。今日は大人しいものだ。
 男の真意が分かったのだろうか。


「もし私が、貴方以外の人を食べると言ったら」
「俺はお前を止めるよ」
「どうして」
「それも、言えないな」


 決して男は適当にあしらっているわけではない。榛色の瞳には光がさし、牙のように鋭い眼光で少女を見つめている。銀色の瞳で少女は見つめ返すがそれ以上言葉は帰って来そうにはなかった。
 握った手のひらに爪が食い込み血が滲む。手が真紅に染まろうとも、痛みが自分を襲ってもそれは少女にとって些細な問題だ。


「私は貴方の魂も食べてしまいたいの」
「それは無理だ。俺に魂はない」


 いつか問うた答えと同じ。迷いの無い、真っすぐとした言葉だった。
 それでも少女は諦めることができなかった。何十年経っても。いや、多くの年月が流れたからこそ思うことだった。
 男の関心は少女よりも人間に向いていた。自分だけを食べろと言うのは、人間に傷を負わせないため。
 魂がないと言うのは、愛した女性に、魂を渡したから。

 それでも、男の血肉よりも、男の魂が、男の──想いが欲しかった。


「私に貴方を頂戴。肉片じゃない、魂を」
「無理だって言ってるだろ」


 この答えはいつまでも続くだろう。少女は男の手を持ち上げると、それを唇へと近づける。鋭く伸びた牙を男の指に突き立てる。ぶつりと肉が切れる音がした。口内に広がる血の味にはもう慣れたものだ。第一関節から上が無くなってしまったが、すぐに再生するのだろう。
 再生される体を見ていつも思う。この男の体は不変のものでどの時代にも変わらずにあるもの。
世界にただ誰のためでもなく存在し、そこに意思や思いはないのだと。
 男の存在は曖昧なものなのだと。


「こうやって体の一部がなくなっても、貴方は何も言わない」
「慣れたことだ」
「そういうことじゃない! 貴方は、自己犠牲の塊よ……! 私に縛りつけられて、弱い人間の味方をして! 永遠を生きるのに、魂さえも人間に渡して!!」



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