学パロ | ナノ


▽ 隣の席の神永くん3


日曜日、街を歩いていたら人混みの中に隣の席の彼を見つけた。一人、では当然なくて、その横には知らない女の子がいて楽しそうに笑い合っている。彼女いるんだ、まあそりゃそうだよね、あれだけモテモテだもん。向こうはこちらに気付いている様子はなくて、私も声をかけるつもりなんてないから特に気にも留めずに視界から彼らを外した。


「おはよー若宮さん」
「おはよ……ねえ」
「ん?」
「昨日デートしてたでしょ?見ちゃった」
「マジで?あれ見られてた?」
「彼女いたんだね。知らなかった」

当たり前だけど神永くんはモテる。だから彼女がいること自体は全然意外じゃない。でも、それが噂にならないのは不自然だと思った。皆の憧れの神永くんに彼女がいる、なんてことになったらきっとそんな大スクープはたちまち学年、どころか学校中に広まるはずだもん。一応同じクラスの私の耳にも普通なら届くはず。それに、彼の本質はまだよくわからないけど、この数日間で話した印象から考えると彼女がいるならその存在を隠してこそこそ付き合ったりなんてことはしなさそうなのに。

「ん、違うよ?」
「え?」
「昨日の子。彼女じゃないよ」
「え。そうなの?」
「デートは何も彼女じゃなくたって出来るだろ?」
「……私今日からあなたのこと軽永くんって呼ぶ」
「え、ひでーな」

酷いあなたを受けて言っただけなのに私が冷たい様な言い方をするこの人に何でよ、と突っ込みたい。のを引っ込めて。

「彼女作ればいいじゃない。本命の子とデートしたら」
「簡単に言ってくれるねー」
「だってきっとほんとに簡単だもん。神…軽永くんならすぐに、それも選び放題でしょ」
「軽永くんはそうでも神永くんは違うんだよ」
「同じでしょ」
「違うよ。若宮さんは知らないから」
「……どっちを?」
「どっちも。ね、だから知ってほしいな。てわけで今度は若宮さんともデートしたいから早速今日の放課後とかどう?」
「……軽すぎ」
「何、じゃあもっと神妙に誘えば良いの?んー……あ、じゃあさ、」
「ダメ、嫌。今まで自覚なかったけど、私軽い人苦手かも」

神永くんの言葉を遮るとえー?とへらりと笑う。だからそれが嫌なんだってば。

「じゃあ何、若宮さんはあーいうのが良いわけ?」

あーいうの、で逆隣の席でぱらりと参考書を捲っている小田切くんを指差す。共に学業優秀だけれど、おそらくその本質には結構な相違がある、と私は勝手に思っている二人。

「聞こえてるぞ」
「ま、だろうな」

そりゃあそうだ。参考書から目を離さずに答える小田切くんにずっと会話を聞かれていたことに多少の気まずさを感じながら何故か私がごめんと謝る。と、若宮のせいじゃないだろとそれまでこちらを見ていなかったのにわざわざ顔を上げて答えてくれる小田切くんに少しだけときめいた。

「で、どうなのさ、若宮さん?」

ん?と小首を傾げる神永くんのアイドル並の完璧なその仕草と表情に少したじろぎながらも何の話をしていたんだっけ、とほんの数秒前の会話を思い起こす。と、そうだ小田切くんを失礼にも指差してこーいうの呼ばわりしたあのくだりか。

「ああ……」
「……」
「ていうか、」
「……いや、やっぱりストップ若宮さん!その先は聞きたくない」
「えぇ……」

自分から振っておいて何を言うんだろうこの人は。そして片手で耳を塞ぎながらもう片方の手は私を制止するように手のひらを突き出してみせるのが相変わらずのオーバーリアクション。 「ていうかそんなのわからないよ、巻き込まれる小田切くんも迷惑でしょ」と答えようとしたのを遮られたら、もう溜め息しか出ない。

「若宮さんは俺を傷付けて楽しいの……?」
「……楽しくないしほんとは大して傷付いてないでしょ」
「いーや傷付くね。俺ね、女の子には優しくされないと死んじゃうから」
「……」

ぞわっとした。イケメンじゃないと今頃本当に死んじゃっててもおかしくない台詞だと思う。だって多分この人が言うからきっと今まで許されてきたわけで、こんな台詞普通なら逆に全校女子を敵に回してもおかしくない。ほんと、イケメンで良かったね……。

「でもね、だからね?そのお返しに俺もうんと優しくしてあげたいんだよ」
「……だったら好きでもない子とデートなんてしない方が良いんじゃない?」
「何で?ていうか好きじゃない子とはさすがにしないよ?」
「わかったもういいや……」

本当はまっっったくわからないけれど。何とかと天才は紙一重、とは言うけれどこの神、じゃなくて軽永くんは純度百パーセントの天才だと思っていた。もはや過去形。多分、何とかの方の要素もこの人には入っている。


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