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▽ 彼氏の友達の波多野くん



「あ、どーも」

職員室を出たところでばったり遭遇したのは、実井くんの友達の波多野くんだった。この波多野くんと、三好くん実井くんの三人で良く一緒にいるからひとりでいるのが何となく新鮮で二人は?と聞いたら実井じゃなくてすいませんと言われ慌ててそんなつもりじゃないと否定する。

「はあ、でもやっぱすいません」
「ほんとにそんなつもりじゃ……私こそ何かごめんね……」
「……」
「な、何かな」

気だるそうな目で無言で見つめられて反応に困る。もうひとりの三好くんもだけど、いまいち何を考えているのか良くわからない。

「いや……とりあえず歩いていいですか?何なら教室来ます?実井いますよ」
「や、授業あるし……」
「ですよね」

波多野くんなりのジョークなのか何なのかわからない……けど、結局二人で歩き出す。実井くんのことを好きにならなかったら当然話すこともなかった相手で、特に話題が思い付かない。会話らしい会話もなく暫く歩いたところで波多野くんがあの、と口を開いた。

「ん?」
「……若宮先輩と実井って」
「うん」
「二人でいるときってどんな話してんですか」
「え?ええとね……別に普通のことだと思うよ。その日なにがあったとか、あと友達の話とか。どうして?」

私の勝手なイメージで波多野くんって他人の色恋沙汰……というかそもそも他人に対して淡白そうだと思っていたから聞かれたのは少し意外だった。無理して話題を振ってくれたのかと、少々申し訳なさを感じる。

「……この間先輩達が二人で話してるとこ見たんですけど」

そこの渡り廊下のとこで、と言われたらああ、確かに身に覚えがある。けどその時は特にこれといった話をしていたわけでもなくて、ただ偶然会ったから少し立ち話をしていただけだったんだけど。

「そん時、実井のやつ俺が見たことない顔してたんで」
「……そうなんだ」
「はあ、まあ」
「それって、どんな……」
「……言っちゃって良いんですか」
「お、お願いします」
「なんていうかこう……黒くない笑顔?的な……」

言いづらそうに答えた波多野くんは多分、私に気を遣ってくれている。実井くんのその、黒い部分?に触れて良いのか迷った故の彼なりの濁し方らしかった。私のいないところでは黒い部分しかないですよ、とは直接言えないと判断したんだ。……いやでも、全然遠回しではないよね、それもう言ってるよね。少し複雑な気持ちになったけどおかしくもあってふふっと声が漏れた。

「それなら大丈夫、そういう部分なら私も知ってるから」
「ああ……そうですか」
「ていうか私の前でも君たちのことになると結構厳しいこと言うしね。仲が良いからこそだとは思ってるんだけどね」
「厳しい……ですか。そう言っちゃうとこがもう既に甘いっつーか……微妙に違う気もしますけど」
「じゃあ何て言えば良いと思うの?」
「腹黒」

即答だった。被せる様な返答に、本当はむしろそれを言いたいが為にわざとこの話題を振ったんじゃないかと、先程までの気を遣ってくれたんだなんて考えが吹き飛ぶ程には速くてあはは……と乾いた笑いしか返せなかった。
その後の会話に多少の花が咲いたのは実井くんの腹黒い面を吹き込むのが楽しいからではなくて、あくまで私と少しは打ち解けたから……だと思いたい。

「じゃ俺こっちから行くんで。実井に何か伝言あります?」
「ん……大丈夫。じゃあね」

階段に差し掛かる波多野くんの足取りは軽くて、たんたんとまるでリズムを刻むように上っていく。数段そうして掛け上がったところで不意にこちらを振り向いてにやりと笑った。

「先輩頑張って下さいね。あいつ結構モテるんで」
「わ、わかった。ありがとう」

じゃ、と短く告げて再び軽快に階段を上がっていく波多野くんを見送って、最後の言葉は叱咤激励なのかそれともただの煽りなのか考える……けど、まだ良くわからない彼のことだから判断がつかなかった。


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