学パロ | ナノ


▽ 後輩彼氏の実井くん2


「鳴ちゃんの彼氏って可愛いよね」

実井くんと別れて教室に向かう廊下で友達から出た言葉は結構聞き慣れた台詞だったりする。可愛い後輩彼氏くん羨ましい、とにこにこ……というよりにやにやしながら告げられて、言われること自体には慣れていても相変わらず上手い返しは出来なくて戸惑ってしまう。結局、そうかなと多分少し引きつった笑顔しか返せなかった。
確かに実井くんは可愛らしい顔つきだと思う。色白で童顔で目はくりっと大きくて、何よりいつもにこにこと柔らかく笑っている。もし私が今と違う立場で実井くんを初対面の人として紹介されたら、きっと第一印象は“可愛い”になると思う。……けど、そんなのはいくら考えたって意味がない。事実、私が彼を好きになった瞬間はそうじゃなかった。
図書室の、カーテンが微かに舞う窓際に座って本を読む姿はとても可愛いなんて言葉では言い表せなかった。さらさらと揺れる髪に、伏せられた瞳に、その凛とした横顔にただ惹き付けられた次の瞬間には、きっともう好きになっていたんだとそう思う。


放課後日直の仕事を終わらせて図書室へ向かう。二つある部屋の奥の方の、いつも実井くんがいる辺りに目をやるとすぐにその姿を見つけた。静かに近付くとゆっくり顔を上げてお疲れ様でした、と本を閉じる。帰りますかと立ち上がるからもういいの?と問うと丁度きりがいいところだからと笑った。

「今日は朝から会えて良かった」

門を出てはじめに言われた言葉にこの人は……なんて思ってしまうのは舞い上がりそうな自分を何とか抑制したいから。私もそう思ったよ、とか本当は伝えたいのだけれど、そうしたら返ってくるだろう台詞はきっと私の心をどこか遠くに連れていく。
先輩として、そして彼女としてあまりみっともない姿を見せたくない一心で何とか話題を捻り出す。

「あのね」
「ん?」
「あの、男の子が可愛いって言われるのってどうなのかな」
「可愛い……ですか。んー……」

目線を上げて考え込む素振りを見せる実井くん。暫くそうして唸った後にそうですねえ、と呟いてから今度はくるりと横を向いて私を見つめる。

「何故?」
「え」
「いや、急にどうしてそんなこと聞くのかなって。何か理由があるんでしょ?」
「あ、ええと、ね」
「うん」

……折角捻り出した話題だけど結局墓穴を掘ることになりそう。実際のところ、外見からは如何にも柔和で優しそう、そんな印象を受ける実井くんだけれどその中身は私なんかよりずっと頭が良くて鋭い。じっと見つめる大きな瞳に、隠し事なんて出来ないと思った。

「……あの、友達がね、皆実井くんのこと可愛いって言うの。でも私は実井くんのかっこいいところ、が……すき……で……」

言いながら、何て恥ずかしいことを、と冷静になって誤魔化すようにか、可愛いところも好きだけど!なんて口走ってしまう。発言の矛盾にますます恥ずかしくなって、きっと今真っ赤になっているに違いない。
そんな私を実井くんはくすりと笑う。わ、笑われた……と少なからずショックを受けた。

「成程」

うんうんと頷いた実井くんに鳴、と優しく呼ばれる。実井くんは二人きりのときは先輩、じゃなくて名前を呼んでくれる。

「可愛い、でも嫌な気はしませんよ?少なくとも僕はね」

けどそうですね、彼等なんかはそう言われたらむっとしそうな気もしますね、とまた空を仰ぐ。彼等、とはきっと実井くんといつも一緒にいる三好くんや波多野くんのことで、けどまあそもそもあの二人は可愛くないから言われないか、なんて呟いた笑顔はたまに見せる黒いところ。

「鳴からみたら可愛いと思います?あの二人」
「え、うーんどうだろ……二人とも大人びてるから特には……けど顔は可愛いと言えば可愛い、かも?」

事実二人は学年が違ってもその名前が知れわたっている程に、私の周りでも人気がある。頻繁にかっこいいとか可愛いと騒がれているのを耳にする。だからあくまで客観的な意見として出た言葉だった……のだけれど、それを聞いた実井くんはただでさえ大きな目を一層丸くした。そしてふう、と小さく溜め息を吐く。

「……駄目ですね。やっぱり可愛いって充分褒め言葉になりますよ」
「そうかな」
「そう。だから僕以外にそんなこと言うのは今後一切禁止です」
「は、はい」
「勿論かっこいいも駄目ですよ?僕って結構嫉妬深いんですからね」
「そう、なんだ」

そうなんだ、嫉妬してくれたんだ。……あ、駄目だにやけてしまう。頬が緩むのを必死に堪えながらどうにか平静を装って実井くんを見ると、にこりと笑顔を返してくれてけどそっか、鳴はそうなんだと呟いた。

「ん?なに?」
「鳴は僕のことそう思ってるんだなって」
「うん?」
「かっこいいし可愛いって、そう思ってくれてるんですね」
「あ、ええと、うん……」

先のやり取りを思い出したらもう無理だった。やっとの思いで何とか冷静になろうとしたのに、実井くんの笑顔と言葉で完全に恥ずかしさがピークに達する。ああ、駄目だ。やっぱり。

「じゃあ今度は僕が鳴の好きなところを言おうかな」
「いっ、いい!やめて!」
「可愛いところに優しいところにわかりやすいところに、」

構わずに話し出す実井くんの口元を押さえつけてもなお口を動かそうとする。明らかに私の反応を見て楽しんでいて、後輩に良いようにされて悲しいやら情けないやら……けれども自慢の彼氏であるのも揺るがない事実なわけで、いまだにもごもごと楽しそうな姿にやっぱり敵わないと思った。


[ back ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -