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▽ 後輩彼氏の実井くん1


窓際で目を伏せて文字を追う姿に、先に好きになったのは私だった。名前も知らないその人に一目惚れしてからはとにかく精一杯で、自分で言うのもなんだけどこれまでの人生で一番頑張ったと思う。はじめに話し掛けたのも私、連絡先を聞いたのも私から。 年下だと知った時は驚いたし、何なら先輩だと思っていたから少し戸惑ったけれどそんなのは最早どうだって良かった。行動を起こすたびに勇気を振り絞って、けどその全てが良い結果に繋がるわけでもなくて後悔したこともあった。それでも諦めたくなくて、むしろそんなことがあるたびに好きな気持ちはますます大きくなっていった。
だから実際に付き合えることになったときは夢なんじゃないかと思ったし、今でもたまにそれが行き場のない不安になって襲ってきたりするくらい。きっとこれが惚れた弱みとかいうあれなんだ、なんて実井くんには言えないけれど。

一年前、つまり彼と出会うまでは月曜日ってただ憂鬱だった。親しい友人がいないとか、勉強についていけないとか何か特別な理由があったわけでもなく、ただきっと誰もが感じる学校めんどくさいなあ、程度の気持ちがあった。今だってそれが完全になくなったわけではないけれど……。

「若宮先輩」

ふと呼ばれた声にどきりと心臓が跳ねる。振り返るとそこには今や見慣れた顔。

「おはようございます」

にっこりと微笑む実井くん。おはようと返すと隣に並んでくるその大きな瞳に見つめられる。

「今日は帰りは?」
「特に何も……あ、違う。確か日直だった……はず」
「じゃあ図書室で待ってますね」

一年前には有り得なかった会話に、やっぱり前ほど月曜日嫌いじゃないなと感じる自分って単純だなと思う。何より週明けの朝から会えるなんて幸せすぎて、折角並んで歩けているというのに心はどこか宙をさ迷っているみたいにふわふわとはっきりしなくてそれが勿体無いとすら思ってしまう。

「土日は家に居たんですよね。何してたんですか?」
「えっと……掃除とか」
「そっか。じゃあ今度また遊びに行きたいな」
「ど、どうぞ」
「お邪魔します」

終始笑顔で会話を広げてくれる実井くんが年下であるというのはやっぱり不思議な感覚がある。それも今に限ったことではなくいつものことだから尚更。
そうやって他愛ない話をしながら歩いていくとすぐに玄関に着いて、靴を履き替える友達がこちらに気付きおはようと声が掛かる。私もおはようと返しながら上履きを手にする横で実井くんも彼女におはようございます、と丁寧に笑った。

「じゃあまた」

さっきまで話していた時の声より少しだけ高いトーンで爽やかにそう言って、私の横でにこにこと笑う友達にもぺこりとお辞儀してから下級生のロッカーに歩いていった。


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