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▽ 隣の席の神永くん10


神永くんと一緒に帰った翌日、登校して席に着くのとほぼ同じタイミングで神永くんも教室に入ってきた。

「おはよ。昨日はありがとね」

相変わらずさらっと爽やかな笑顔が目に眩しい。「こちらこそ」と答えるとその表情が一層柔らかく綻んで、改めて顔立ちの良さを思い知らされた。
その日の校内にはどこか浮わついた雰囲気が残っていて、私も例外ではなくなんとなく授業に集中出来なかった。
放課後は手の空いた数名で後片付けをすることになっていて、無論その中心は帰宅部が担うことになる。準備期間中も特別切羽詰まっていたわけではないけど、それよりもっと和やかな時間の中での活動になった。
こういう時の神永くんはというと結構黙々と手を動かすタイプみたいで、誰かの会話にたまに相槌なんかうちながら自分の席で効率良く作業を進めていた。隣の私がたまに手こずるのに気付いてはスマートに手を貸してくれて、やがて幾つかの袋がいっぱいになると「捨てに行こうぜ」って、自分は私の倍以上を率先して持ってくれた。
全ての作業は滞りなく終わって最後に焼却炉へ向かう途中、神永くんが「次は試験だなぁ」って呟いた。

「神永くんはばっちりでしょ?」
「まあ、対策はそれなりにね」

そうは言ってるけど、彼のそれなりは実際のところ抜かりなくしっかり努力してるんだろうなって、それこそ"それなりに"ずっと隣で過ごしてきた今ならわかる。あの時隣の席にならなければ、きっと今も私は神永くんのことを誤解したままだったんだろう。元々の素質というかもはや生まれ持った性能とでも言うべきか、優れているであろうことはそれとして、軽々しく見えても根は真面目でちゃんと積み重ねた成果が今の神永くんの優秀さなんだ。「神永くんはすごいね」そう告げるといやいや、と満更でもなさそうな顔してみせるのがおかしかった。
教室に戻ると疎らに残るクラスメートの他に、クラスの違う友達が私のことを待っていた。一緒に帰る約束をしていたからだけど、私と、それに隣にいる神永くんに気付くと先に彼に会釈して、そうしたら神永くんもにっこりと笑顔を返してる。そんな神永くんにじゃあねって告げると、笑顔で手を振って見送ってくれた。
帰り道では早速昨日神永くんと帰ったことを突っ込まれた。「有名人と随分仲良くなったのね」なんてからかわれると何て答えれば良いのかわからない。「なんか、うん。良い人だよ」って自分でも少し文脈の違和感に引っ掛かるような、だけどとりあえずはそんなこと言って誤魔化した。それより誰に聞いたらそんなに情報が早いの?と私から尋ねるより先に「噂ってほどじゃないけどね。やっぱり有名人は目撃談も回ってくるのね」って笑われて、思い知るのは彼の影響力の大きさとでも言えば良いのか。

「何かほら、青春もののドラマとかでは良くあるじゃない?学校でアイドル的な男子と仲良くなってファンの子から呼び出し受けるみたいな。神永くんってああいうストーリーに出てきそうな、ほんと物語の中の人ってレベルで人気あるけど、そういうどろどろしたことは不思議と聞かないの、すごいよね」

言われて、ああ確かにってなんとなく納得する。多少仲良くなったとはいえ彼の人間関係を全て把握しているわけではないけど、少なくとも女の子との付き合いで揉めているようなことは聞いたことがない。

「ああ……うん、なんかやっぱりそういうところも器用なんじゃないかな?要領が良いっていうか」
「ふぅん」

思い返してみれば確かに、隣の席になって暫くはこんな軽い調子で色んな子と遊んでるなんて、そのうち誰かの恨みで自業自得の痛い目に遭うに違いないなんて思ったりもしていた。けど一向にその気配はないし、相変わらず男女問わずその人気は揺るぎない。今はその事実に対して素直にすごいと思うし、神永くんの振る舞いを考えれば当たり前にそうなるべくしてなっている気がする。さっき本人に面と向かって「すごいね」と言ったのは話の流れから勉強に対する姿勢として告げたものだったけど本当はもっと色んな、神永くんって人そのものに対する想いだったのは自覚している。

「なんか、うん。本当にすごい人だと思う……うん」

まるで自分に言い聞かせるみたいについそんなことを呟く。すると「すっかりファンの一人みたい」なんて笑われるから、何だかいたたまれない気持ちになってしまった。


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