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▽ 隣の席の神永くん9


文化祭当日、校内は朝からまさにお祭り騒ぎだった。賑やかな音楽がそこらじゅうに溢れ、浮かれた生徒達の声と相まってもはや不協和音でしかない。けど、この日のために皆がいろんな創意工夫を凝らして準備してきたんだって思ったら、こうして明るい雰囲気に包まれていることが純粋に嬉しくて楽しくなってくる。仲の良い数人で前もって遊びにいくねと約束していた子のクラスで喫茶店気分で甘いものを食べたり色んな展示や舞台を見て回っているうちに、二日間のうちの初日はあっという間に時間が過ぎていった。
二日目も同じメンバーで、前日回りきれなかったところを気ままに巡った。大体見たいものは見れたかなって時、少し離れたところに同じように友人達と笑い合う神永くんを見つけた。何気なく視界に入って見たくらいだったけど、気配を感じ取ったのか向こうも私に気付いて、目が合った瞬間ひらひらと手を振ってくれた。とはいえたくさんの生徒が行き交う空間で、あれが私に向けられたものか自信がなくて反射的に周りを見回して確認してしまった。反応している子はいないみたいだったから再び神永くんの方を見ると、声は出さずに「君だよ」って動いた唇が告げているのがわかって、何だかむずむずした。
丸々二日間も使うなんて考えてみれば太っ腹だななんて思っていたけど、いざ始まれば終わってしまうのが惜しいと思うくらいには時間の経つのが早かった。準備期間にはそれまであまり関わりのなかったクラスメートとも話したり、何より帰宅部だから、何か特別なことでもない限り放課後を教室で過ごすことがそもそもなかった。そんな中で成り行きとはいえ学校一の人気者と自転車二人乗りという経験まですることになったり、あれはなかなか、高校生活を通してみても貴重な出来事になる気がする。
予定されていた全ての催しは特に大きな問題もなく、文化祭は大成功の形で幕を閉じた。


各クラスの役目を終えた展示物や看板で彩られた廊下を歩いて教室に向かう。扉を開けると、神永くんがぽつんと自分の席に座ってた。

「おー、おつかれ」
「何してるの?」
「一人後夜祭」
「なにそれ」

ふふってつい吹き出してしまった。神永くんにそういう若宮さんは?と聞き返されて荷物置いてたから、答えるとそっかと軽い調子で笑う。

「盛り上がったよなあ」
「ね。楽しかった」

話しながら校庭に目を向ける。いつもなら部活動生が練習している光景が広がっているけど今日は違う。お祭りの名残を感じさせる浮かれた格好した生徒が自由に騒いでいたり、制服姿のまま走り回ってる子とかいたりして。それを見てる神永くんも、同じように楽しそうに笑ってた。
さて、と荷物を手にして、ふとそういえば、ととある考えが浮かぶ。

「神永くん、もしかして誰かと待ち合わせしてる?」

そういえば神永くんだ、と浮かんだのは、こんな絶好の機会だしこのモテ男のことだ、きっと放課後までデートの予定がきっちり組まれているんだろうってことだった。でも神永くんは「ん?別に誰とも約束ないよ」ってあっさりそれを否定した。

「けどそうだな、若宮さんが来てくれたから、君さえよければ一人後夜祭のつもりがもっと楽しくなるんだけどな」

出た、って思うけど、もはや慣れすぎたのか「はいはいそうだね」って答えながら既に私もどこか楽しくなってきていて、つい神永くんって家はどの方面だっけなんて考えた。暫くして神永くんが「そろそろ帰ろっか」と言った声に対してものすごく自然に「うん」と答えて、一緒に教室を後にした。
帰り道、並んで歩きながら色んなことを話した。二日間の楽しかったことから準備期間中の出来事まで、思い思いに話すだけで会話が途切れることはなかった。どこに寄るでもなく、ただ話しているだけで楽しかった。
ふと、今私達二人は端から見たらどういう関係だと思われるんだろうって考える。神永くんはいつもみたいに笑っているから、こんなシチュエーションには慣れてるんだろうな。良く話すようになってから冗談みたいに何度と誘われては断ってきたけど、何も特別なことはない今みたいな状況で良いならわざわざ遠ざける必要なんてなかったなって思ってしまう程には心地よい。……なんてまんまと思わされてしまうところは流石神永くんだって、変なところに感心せずにはいられなかった。



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