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▽ 隣の席の神永くん6


昨日の夜のこと。部屋で数学の課題をしていた21時過ぎ、スマホの画面がメッセージの受信を知らせた。帰宅してからだらだらとやり取りを続けている友人からだと思ったそれは予想に反して隣の席の彼からだった。
約一週間前に連絡先を交換して以来初めてだ、こうしてメッセージが送られてきたのは。実のところ、連絡先を教えたその日の夜にはけたたましく着信音が鳴らされるのではないかと内心怯えていたりしたんだけどそんなことはなくて、自分は自惚れていたのか、浮かれていたのかと少し情けなさを感じたりしていた。まあでも良く良く考えてみると学校では常に隣にいるわけだし、家にいるときまでわざわざメッセージを頻繁にやり取りする必要も確かにないなと気付いた。
画面に触れて神永くんからのメッセージを開く。と、そこにはこの間話した本を持っていくから明日は荷物軽くしてきてね、と書かれていた。そういえばそんな約束をしたんだと思い出しながら、学校での軽薄な口調からすれば意外すぎる簡素な画面に少し驚いた。登録の際に勝手にハートマークの絵文字を入れるようなことをされたものだから、てっきりもっとがやがやとうるさい画面だと予想していたのだ。こちらも簡単にわかったありがとう、と返事を送ると、今何してるの?とまた簡単な一文のみのメッセージを受信した。数学の課題をやっていることをありのまま伝えて、結局そのまま何通かやりとりが続いた。
そして今、私は昨日の課題で解けなかった問題を神永くんから教わっている。というのも昨日、ちょうどやり取りをしている内に課題でわからない問いに直面したのでそのことを伝えると、じゃあ明日答え合わせをしようと神永くんが申し出てくれたのだ。答え合わせ、というか恐らく彼は何の問題もなく解答を導き出せたのだろうから、私に教えてくれるという意図でそう提案してきたのだと思う。案の定、神永くんは解りやすい説明を交えながらすらすらと問題を解いていく。結局一方的に教わっている現状は予想通りなわけだけど、それでもわざわざあんな言い方をしたのはきっと彼の優しさなんだと思うと、何だか無性に可笑しくなって笑ってしまった。ふふっと漏れた声にさらさらと流れるように動いていた神永くんの手が止まる。

「あれ、若宮さん今笑った?」
「ん……バレた?」
「何、どしたの」
「ちょっと思い出しただけ」
「何を」
「秘密」
「えー?」

出た、軽永スマイル。プリントに目線を落としたままで彼の顔は見えないけど、ゆるりと軽さを含んだ声色だけで良くやってみせるあの表情を浮かべていることがわかる。それこそ答え合わせをするみたいに目線を上げて横にいる彼を見ると、ほらやっぱりあの笑顔だ。……あれ?と、いうか……

「……ちょ、ち、」
「ん?」
「近い……!」

神永くんは私の机に椅子を向けていて一枚のプリントに二人で取り掛かっているので、いつもより距離が近いということにすぐ真横にいる彼と目が合って初めて気付いた。

「うん。俺はずっと思ってたんだけどね」

ニヤリ、軽永スマイルとは別のニヒルな笑みを浮かべた表情はこれまで見てきたものとは違う。そのせいか余計にどくどくと鼓動が速くなっていく。

「もう少し離れて欲しい、ん、だけど、」
「そう?残念だなあ」
「も……、からかわないで!」
「や、無防備な若宮さんって貴重じゃん?」

ついさっきまでのどこか皮肉めいた表情は消えて、いつものにっこり笑顔で言ってくれるけど何となくこわい。というか今の神永くんの台詞で、そういえばいつも隣にいて彼を見ているのは何も私だけではなくて、神永くんだって私を見ているのか……なんて今更過ぎることがふと頭を過る。それに私の勝手な見解では、神永くんのことだ、私がぼうっと隣を眺めているのとは違って彼の場合はきっと常人以上の視野でありとあらゆる情報を得ているに違いない。何だろう、草食動物的な?いやでも何ならそれより広い気がする。人間なのに。天才だから?天才は見え方すらも平凡な人間のそれとは違うんだろうか。まあ常人の見え方しかわからない私が考えてみたって仕方ないんだけど……というかそもそも全て私の勝手な憶測に過ぎないけど。下らなさすぎる思考を振り払うようにふるふると軽く頭を左右に振ると、とりあえずこれ終わらせちゃおう?と神永くんはまた一つ爽やかに笑顔を浮かべたのだった。


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