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▽ 隣の席の神永くん5


今日の神永くんは登校してきてから空いた時間はずっとスマホを触っている。授業が終わる度にすぐに取り出してたたた、と手際良くおそらくは文字を打ち込んでいて、多分誰かとメッセージのやりとりをしている。ていうか指の動き速!

「神永くん」
「んー?」

いまだに忙しなく指を動かしながら答える神永くん。どうやらこの状態でも話し掛けるのは大丈夫みたい。

「今何してるか当てていい?デートの約束でしょ」
「お!正解ー」

メッセージを無事送り終えたらしく、スマホを机の上に置いてこちらに顔を向けた。

「だって画面見ながらずっとにやにやしてるんだもん、わかるよ」
「え、若宮さん今日そんなに俺のこと見ててくれたんだ?」
「そっち……?」
「まーそれはそれってことで。いや、他校の子だからさ、こーやって連絡取るしかないんだよなー」
「ふうん」

他校の子なんてどうやって知り合うんだろう。ナンパでもするんだろうか……きっと百発百中だ、改めて見るまでもなく文句のないイケメンだもん。声を掛ける手際もさぞかし慣れてるんだろうな……なんて本人を前に考えていたら、何故かみるみる内にその表情を明るくする神永くん。

「何、どうしたの」
「……若宮さんもしかしてやきもち、」
「勘違いです」

一変、今度は唇を尖らせてちぇっ何だよと険しい顔をして見せる。そんな表情すら相変わらずイケメンだけど無性にいらっとするのは何でだろう。

「そうだ、若宮さん連絡先教えてよ」
「ん?……ちょっと待って、」
「……えっ」
「え?」

鞄に入れているスマホを取ろうと机の横に手を伸ばすと、何故か隣から素っ頓狂な声が上がった。

「……や、ごめん、まさかこんなにあっさり教えてくれると思わなくて……」
「何それどういう意味」
「いや、だってさ若宮さん俺に冷たいからてっきり嫌がられると思ってたからさ」
「嫌がるって……別に断る理由もないでしょ。それにどうせ知ってたって連絡取り合わないと意味ないし」
「冷めてんなー」
「何、そんなこと言うなら教えたくないんだけど」
「わーごめんごめん!教えて、ね!」
「だからちょっと待って……あった、はい」
「ん」

取り出したスマホを神永くんに手渡すと、彼は自分のと二台手にして器用にそれぞれ打ち込んでいく。やっぱり打つの速!両手打ちにも関わらず私が利き手で入力するよりおそらく素早いその動きに目を丸くしていると、何故か私のスマホを自分の顔の位置まで持ち上げる神永くん。一体何を、と思ったら次の瞬間パシャッと小気味良い音が響いた。……え、写真撮った?え、自撮り?

「な、何してるの?」
「んーとね……出来た、はい」

そう言って返されたスマホの画面を確認すると、神永くんの番号とアドレスが並んでいた。……のは良い、ここまでは分かる。問題はその後で、着信時の画像まで既に登録されていて、それは間違いなく今彼が自らを写したもの。……引いた。
見慣れた軽永スマイルじゃない、その顔付きはキリリとしていて正直ものすごくかっこいい、なんならそこらの芸能人よりずっとイケメン。けど同時におぞましくなった、この人どれだけ自分の撮り方知ってるの……?そしてもう一つ、登録されている名前。【神永くん】と彼が自分で打ち込んだことに何故か私が少しもどかしさを感じてしまったわけだけど、この際そんなことはどうでも良い。気になるのはその【神永くん】の後に付けられたハートマークの記号……最早絶句するしかなかった。
そんな私なんて構わずにまた素早い動きでスマホをいじる神永くんが若宮さん、と不意に呼ぶので顔を向ける、向けてしまった。
パシャリと乾いた音が耳に届いて、一瞬何が起こったのかわからなかった。けれどすぐに理解する、こちらに向けられたカメラと、その奥の満面の笑顔が物語っていた。

「……消して!」
「やだね。大丈夫、他の奴に回したりなんかしないよ?俺だけの宝物にするからさ」
「……もう!そういう問題じゃない……」

頭に血が上りかけたけど、きっと怒ってみたところでどうせのらりくらりと交わされるだけだと気付く。結局、既に彼のペースに乗せられているのだ。俺の方にもこれで登録しとくね、と語尾に音符でも付きそうなテンションで笑う神永くんにもう何も言い返す気なんて起きなかった。

「オッケ、可愛い」
「……」
「若宮さんも見る?」
「見ない……」

何が悲しくて自分の絶句している時に不意打ちで撮られた写真を見ないといけないの。大体私はあなたと違って写真を撮られることにそこまで慣れていないんだから。もうやだこの人。

「若宮さんの都合もあるし返信は急がなくて良いけどさ、傷付くから無視だけはやめてね?」

そう言うなら今こちらの都合を考えて欲しかった。わざと?わざとなの?私の中でのこの人の完璧な天才像がまたひとつ崩れていくのを感じてはあ、と小さく溜め息を吐く。
新しく登録されたばかりの連絡先、いっそのことまるっと削除してしまおうかと思ったけれど、それはそれで後々面倒なことになりそうな気もしたからとりあえず名前の後ろの忌々しいハートマークを消して、軽永くんで登録し直した。


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