――ポツリ。
空を見上げた少年は、額に当たった雫に一瞬眉を寄せた。次第に強くなり、小さな身体に打ち付ける。
広い公園。閑散とした場所でたった一人、けれど彼はそっと笑みを浮かべた。
「……雨だ」
空を仰いだまま、固く目を閉じる。待ちわびていたように両手を高く伸ばして、一身に浴びる。
すると、ピチャリ、弾くような足音が近付いて。
「ここで何してるの? 濡れるよ?」
優しい声色に瞼を上げて、ゆっくりと振り返る。そこに立っていたのは、赤いレインコートを来た少女。不思議そうに少年を見つめ、小さく歩み寄る。
少年も、一歩踏み出した。
「また会ったね」
「ん? はじめまして、だよ?」
「ううん」
君と、夢で、会ったんだ。
瞬きを繰り返す少女に、にっこりと笑いかける。手を差し出せば、彼女は条件反射のように握り返した。
「じゃあ、行こっか」
「どこに、」
最後まで綴られなかった言葉は、激しさを増した雨音に飲み込まれた。
バサリと不気味に広がった黒い翼が、少年の背から伸び。
「いいところ」
そして不敵に笑んだ小さな悪魔は、軽々と少女を抱えて静かに飛び去った。
(馬鹿な天使とは違って、太陽は苦手なんだ)