運命なんて言葉じゃ足りない。もっと必然的で、もっと奇跡的。
一人と一体を繋ぐのは、少し不確かな絆。
『あした晴レタラ』
「待て、この泥棒娘! 今日という今日は、」
「捕まらないよーだっ!」
走る、走る。土砂降りの中、びちゃびちゃと水溜まりを踏む。避ける余裕など、無い。
きつく瞬きをして、少女は貼り付いた前髪を左手で分けた。右手には、ロボットの部品。彼女は大切だということしか知らなかったが、それは意識を生じさせる為には必要不可欠だった。
売れば金になる。それだけが、少女を動かしていた。
「おーにさーん、こーちらー!」
「このクソガキ!」
走る、走る。雑多な町を抜け、目指すは我が家。
今日も近道をしよう、と迷わずスクラップの山へ向かう。腕や足が突き出していて、小柄な少女位が比較的楽に登れる場所なのだ。
「逃がすな!」
雨音に紛れて、足音が聞こえない。山の頂上でやっと振り返った少女は、目の前に現れた青年に驚いて、思わず足を滑らせた。
こける、と身構えたが、全身に訪れるはずの痛みは右手首だけに襲った。恐る恐る不安定な姿勢のまま見上げると、青年がニヤリと笑いかけた。
「つーかまーえた」
糸のように細い目が、意地悪く吊り上がる。少女は乱暴に掴まれた手を上下させたが、力で敵うはずもない。
「離してっ!」
「やだね。お兄さん、これが仕事だから」
そう言って、胸ポケットから警察手帳を取り出す。硬直してしまった少女に追い討ちをかけるように、男は細い手首に手錠をかけた。
「村田アカリ、現行犯で逮捕する」
「……オマワリサン。チョット待ッテ下サイ」
ガシリ、冷たい金属が二人の手首を同時に掴む。自由な方の左手を振り回していた少女は動きを止めて、静かに呟いた。
「ポンコツ……」
初めて身体を起こしたロボットは、壊れた右腕で少女を抱き寄せた。そして器用に男の手だけを摘まみ上げる。
「いでででで!」
「オ帰リ願イマス」
そのまま、軽々と放り投げる。無様な悲鳴とともに転がり落ちてゆく。気を失ったのか、下の方で動かなくなった。
「大丈夫デスカ?」「……うん」
ありがとう、と。傷だらけのボディにそっと腕を回す。
雨に打たれながら、少女は静かに目を閉じた。
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