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「名字、お前のことが好きだ」

まるで「次の授業何だっけ?」と聞いてくるぐらい何気なく、あっさりとした告白に僕は一瞬呆けた後、思わず「ん?」と聞き返してしまった。



「好きだ名字。後、次の授業は何だったか」

あ、やっぱり前者の言葉と後者の言葉は同レベルらしい。



次の時間は英語だよ、と返事をしながら轟くんの言葉の意味を考える。

個性も強力で座学の成績も良い、まさに文武両道な轟くんだが、実は案外天然なところがある。先程の好きも、告白とかそういう意味ではなくクラスメイトとして友達として認めてくれたという意味なのかもしれない。


何せ彼が「好き」だと言った相手はこの僕だ。

実技も座学も平均的で、顔もスタイルも何処にだっている高校一年生。あまりにモブ過ぎるモブなせいで人から「えっと、誰だっけ?」と言われることなんてしょっちゅうだし、何気にこの間オールマイト先生に「おぉ君は!・・・えっと、んー、あぁ!名字少年じゃないか!」と言われた時はちょっぴり泣いた。オールマイト先生には全力で謝られた。


そんな僕に轟くんが告白?まぁまず有り得ないだろう。




「えーっと、有難う?」

「あぁ」


こくりと頷くとそのまま次の授業の準備を始めてしまう轟くんに先程の言葉の意味を聞くのは何だか少し憚られた。

お前のことが好きだ。その言葉が授業中もずっとぐるぐる頭の中を廻り、授業どころではなかった。







「名字、一緒に食堂に行くぞ」

「あ、うん」


昼になってすぐに声をかけてきた轟くんに驚きつつも頷き席を立つ。その時クラスメイトの梅雨ちゃんと目が合ったけど、何か言いたいことでもあったのだろうか。

轟くんと一緒に食堂にくると、轟くんは蕎麦セットを注文した。僕は中華だ。




「・・・中華、好きなのか?」

「辛いのはあまり得意じゃないから、辛さ控えめのだけどね」


少し辛いだけで殆ど甘いエビチリを食べながら返事をすれば「美味いか」と問われる。もちろん、クックヒーロー ランチラッシュが作る料理が美味しくないわけがない。



「美味しいよ」


「・・・ん」

え?何でこっちを向いたまま口を開けるの?

僕はぱちぱちと目を瞬かせながら手元のエビチリと轟くんの口を見比べる。もしかして、食べたいのか・・・?


ごくりと息を飲み、蓮華でエビチリを掬う。そして恐る恐るそれを轟くんの口へと運んだ。

ぱくりと轟くんの口が閉じ、静かにエビチリが咀嚼される。その様をぽかんと見つめていた僕に、轟くんは「確かに、美味いな」と言った。




「名字も、これ」

「えっ」


「美味いぞ」

大体一口分の蕎麦を箸で掴み汁に付け、僕の方に差し出してくる。




「早くしろ、汁が垂れる」

「あ、あぁ、うん」

慌てて口を開けばちょんっと蕎麦が口に当たり、轟くんがしたように口を閉じて蕎麦を啜った。慌てて啜ったから汁が撥ねてしまい、口の端が汚れる。




「お、美味しいね」

「だろう」


これは所謂『あーん』とやらをした後のはずなのに、轟くんは何時も通り。いや、天然な轟くんのことだ。大した意味なんてなかったのだろう。




「名字、顔が汚れてる」


さっき跳ねてしまった汁のことを言っているのだろう。慌てておしぼりを探すと「ほら、こっちだ」とおしぼりが差し出される。

有難う、それを受け取ろうとした手は空振り。あろうことか轟くんがそのまま僕の顔を吹いた。僕はぽかんとするしかない。




「名字は、意外と不器用なんだな」

「そ、そう・・・かも?」

いや、どういうことだ。今日は轟くんの天然が爆発してるの?僕は一体どうすれば良いの?


お昼はそんな驚きの連続で終った。

あまりにパニックになり過ぎて折角の昼食の味もあまり覚えていない。勿体ないことをした。





午後の授業も進み放課後になると、お昼の時と同じくすぐに「名字」と声を掛けられた。声の主はやはり轟くんが、真っ直ぐと僕を見ながら「一緒に帰ろう」と言った。

思わず「う、うん」と返事をして席を立つと、お昼の時と同じように梅雨ちゃんがこちらを見ていた。いや、よくよく周りを見れば他のクラスメイトもこちらを何とも言えない表情で見つめていた。何がどういうことだ。




「名字、早く帰ろう」

クラスメイトの妙な表情の意味を聞きたかったけれど、轟くんが急かすもんだから聞くことは出来なかった。明日必ず聞こう。


「名字の家はどっちだ」

「えっと、校門出て右」

「俺も右だ」



昇降口で口に履き替えて一緒に門を潜って外に出ると「初めて一緒に帰るな」と轟くんが呟く。


「そ、そうだね。普段はお互い別々に帰るし」

「これからは、毎日一緒に帰っても良いか」

「え?う、うん。良いよ」


「お昼も」

「うん?」


「俺の姉さんは料理が上手いんだ。だから、そのうち、弁当作ってくる」

「えっと・・・」


「初めて恋人のために弁当作るから、ちょっと照れるな」

照れるな、と言いながらも真顔な轟くんに思わず「ん?」と聞き返した。好きだと言われた時と同じだ。



え?恋人同士ってどういうこと?何時そうなった?何がどうしてそうなった?




「えっと、轟くん?こ、恋人同士って言うのは・・・」

「告白して、有難うと返事を貰った」


「そ、そうだね」

「断られてない。だったら恋人同士だ」


あまりに真っ直ぐとした目で見つめられ、僕はついついたじろぐ。



極論だ。極論過ぎるよ轟くん。しかもあの時の好きはやっぱり告白の意味だったんだ。訳がわからず「有難う」と言ったけど、どうやら轟くんはそれを完全に了承と捉えているらしい。

だから轟くんはあんなにも妙な行動を取っていたのか!


・・・さて、そうとわかれば僕はどうすれば良いのだろうか。正直な話、僕にとって轟くんは天の上の人・・・あまりに僕との格差があり過ぎて、そういった対象として考えたこともなかったし、そもそも轟くんは男だ。

どうして轟くんは平々凡々なただのクラスメイト、しかも男な僕を好きになったんだろう。





「轟くんはさ、どうして僕の事好きになったの?」

「入学したての頃・・・」

「うん」


「プレゼント・マイクの授業中、うとうとしてた名字を見て、胸がきゅっとなった」

「うんう、ん・・・?」


「で、最後らへんに一瞬だけ完全に意識を飛ばして・・・その時、好きかもってなった」

待って。ちょっと意味がわからない。




「えーっと・・・それは、寝顔が気に入ったってこと?」

「起きてる時も気に入ってるから大丈夫だ」

何が大丈夫なのかよくわからないけれど、流石はド天然の轟くん。理由が斜め上過ぎる。




「名字はどうなんだ」

「えっ」


「何で、あんな返事をくれたんだ?」

いや、別に告白に対しての返事はしていない。意味もわからずお礼を言っただけだ。でもまさかこんなことになるなんて。





「えっと、轟くんは僕にとって雲の上の存在っていうか・・・僕はやっとこさA組でやっていけてるって感じだけど、轟くんは何度も涼しい顔で熟してて、とても尊敬してるよ。戦闘能力ずば抜けてるし、頭だって良いし、もう将来楽しみ過ぎるし・・・でも、何でそんな凄い人が僕なんかを好きなのか、今凄く疑問。正直、混乱してる。だって僕、轟くんのこと、クラスにいる轟くんしか知らないんだ。轟くんには悪いけど、僕――」


成り行きで恋人同士なんて轟くんに失礼だ。そう思ってお断りをしようとした。

けれど言葉は続かない。轟くんが、僕の手を両手でがっしりと掴んだのだ。





「これから知れば良い」


「え、えーっと」

「俺は蕎麦が好きだ」

「うん、それは知ってる」

知ってるのか、と轟くんはちょっとだけ嬉しそうな声で呟いた。



「名字が俺の何を知ってて何を知らないのか俺も知らないから、これからちょっとずつ教えていく」

「う、うん?」


「・・・名字が何時か、誰よりも俺の事に詳しくなる未来を想像すると、何か楽しみだ」



今までまるで世間話するみたいにあっさりとした表情だった轟くんが、最後に小さくはにかんだ。

初めて見る表情に動けなくなる。それと同時に、ぶわりと顔に熱が溜まった。


あ、その顔もきゅってなった、と言う轟くんに返事をしてあげられる程僕は冷静じゃない。






「帰ろう、名字。まずは、俺の幼稚園の時の話からする」

「えっ、そこから!?・・・えっと、よ、よろしくお願いします」


「あぁ、沢山教えてやる」

また小さくはにかんだ轟くんに、僕はもう「うん」と頷くしかなかった。



胸が、何だかきゅってなってる。






翌日クラスメイト達から「轟が突然お前のこと好きだって言い出すから驚いた。挙句に蛙吹が『好きなら告白してみれば?』って言うし・・・」と事のあらましを説明された。

僕は「そ、そうだったんだ」と返事して右手で頬を掻いた。



左手はがっつり轟くんに握られていた。







まずはお付き合いから







「名字の手の方が、俺より少し大きいな」

「そ、そうみたいだね」


「一つ知ったな」

僕が轟くんのことを一つ知る度に何処か満足そうに笑う轟くんに、胸がきゅっとなった。




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