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それは授業中に突然訪れた。
「消太くん見て見てぇ!」
黒板の前に立ち、教卓の上に載った教科書を読みあげていた相澤とそれを静かに聞いていた1-A組の生徒達。
比較的静かに授業を進めていたその教室に、不釣り合いな幼い声が響き渡った。
誰かが思わず「え?子供?」と呟き、教卓へと目を向けた。
そう、教卓の上に子供がいる。
教科書を見下ろしていた相澤が視線を上げると、教卓の上に立っていたその子供と目が合った。
子供はにーっこりと笑いながら、手にある画用紙を相澤へと突き出す。
「名前、何しに来た」
相澤に『名前』と呼ばれた子供はその顔に浮かんだ愛嬌たっぷりの笑みを更に深める。
「あのね!幼稚園でこれ描いた!先生に、名前くん上手ねって言われたから、消太くんにも見せに来たの!」
さも当然のように名前という子供への対応を始める相澤に生徒達はどんな反応を示せば良いのかわからない。
取りあえず、突然この子供が現れたのはこの子供自身の個性によるものということだけは確かだ。
「・・・何度も言ってるだろう。幼稚園を抜け出すんじゃない。あと、教卓にのるな」
「見て!これ消太くん!イレイザーヘッド!かっこいい!」
「よく描けてるな」
「プレゼント!」
褒められたことが嬉しかったのか名前のテンションは高い。
「おぅ、ありがとな。で、何度も言ってるが幼稚園を抜け出すんじゃない。そもそも今は授業中だ」
差し出された画用紙を受け取りつつも注意をする相澤の口ぶりからして、名前がこんな風に個性を使うのは初めてではないのだろう。
「お昼なら良い?」
「ちゃんと飯食ってきたらな」
「うん!食べてから来る!」
素直にこくこくと頷き、そこで漸く相澤以外の人間にも意識が向いたのか、名前が生徒達を方を見た。
相澤も取りあえず生徒達に説明するべきだと思ったのか、教卓から名前を降ろして「ほら、挨拶」と名前の背をぽんっと軽く叩いた。
「もも組の相澤名前です!消太くんカレシです!」
「甥っ子の名前だ。見ての通り、瞬間移動の個性持ちでよく幼稚園を脱走する癖がある。たまに見かけるだろうが、気にするな」
何やら爆弾発言をした気がするが、相澤が特に気にすることなく冷静に名前についての説明をし出したため、生徒達はやはりどう反応して良いのかわからない。
生徒達の微妙な反応に子供の名前が気付けるはずもなく、しかも彼は既に相澤の方へと意識を戻してしまっているらしい。きらきらした目で相澤を見上げている。
「消太くん消太くん!今度ね!幼稚園で劇する!僕、王子様!」
「俺の彼氏なんじゃなかったのか?他の女と浮気か」
「ち、違うもん!浮気じゃないもん!えっと、えっと・・・」
「俺の事は遊びだったんだな」
あーあ、悲しいなー。と声を上げる相澤は完全に棒読みだが、名前は慌てたように首を振る。
「ちーがーうー!消太くんとのことはホンキなの!遊びじゃない!」
「はいはい。良いからさっさと幼稚園帰れ。幼稚園の先生心配するだろ」
「消太くんの馬鹿ぁ!遊びじゃないのに!」
ぽかぽかと足を叩いてくる名前に「はいはい、わかったから」と返事をしつつ名前の小さな頭をぽんぽんと撫でるが、名前は納得していないようだ。
「信じてくれないなら此処で誓う!えっと、辞める時もすこ・・・すこぶる時も?」
「病める時も健やかなる時も、だ」
「んー、あ!じゃぁ、どんな時も消太くんを守ります!」
「何からだ」
「えっとね、敵!消太くんをね、僕が守ってあげる!危ない時に、パッ!と消太くんの傍に来て、パッと連れてってあげる!あとねあとね、消太くんの嫌いな食べ物食べてあげる!」
えっへん!と胸を張る名前に生徒の何人かが「可愛い」と呟いた。
「俺の嫌いなもの食べる前に、お前は人参食べれるようになろうな」
「人参きらーい!」
「食べないとデカくなれねぇぞ」
「別に良いもん」
「俺はチビを彼氏にするつもりはねぇぞ」
相澤の言葉に名前はハッとして「!た、食べる」と頷いた。
「幼稚園サボるヤツを彼氏にするつもりもねぇ」
「幼稚園行く!」
こくこくと素早く頷く名前に「じゃぁ行って来い」と相澤も頷く。
「あのねあのね消太くん!人参食べるし、幼稚園行くからね!だからね!大きくなったら、僕のお嫁さんになってね!」
その言葉を最後に名前はパッと消えた。
「・・・よし、授業を再開するぞ」
何事も無かったかのように授業を再開させる相澤を、生徒達は少しだけ好奇心の籠った目で見つめる。
それに気づいた相澤は呆れたような顔でため息を吐いて一言。
「少なくとも今のところは俺の旦那候補らしいから、会った時は遊んでやってくれ」
冗談としか取れないその台詞に、生徒達はこくこくと頷いた。
婚約者は幼稚園児
「消太くん!婚約指輪上げる!」
「・・・おう、有難うな」
その日の夕方、職員室でビーズとモールで出来た指輪を差し出された相澤は、案外大事そうにその指輪を指にはめた。
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