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中学の頃、軽い虐めにあった。

根も葉もない噂なのだが、俺が『男が好き』という噂が流れてしまった。

たぶん出どころは当時俺が告白を断った女子なのだろうが、俺はその噂に対して肯定も否定もしなかった。

殆どの人間は噂は噂と片付けてくれたが、一部の人間は本気にして「気持ち悪い」と俺を罵った。


始まった虐めは虐めといっても本当に軽いもので、一部のクラスメイトから無視をされたりこそこそと噂話をされる程度。何かを壊されたりするわけでも、クラスから迫害を受けることもなかった。

まぁ、俺自身は大してその虐めを気にしていなかったし、実を言うと俺の『男が好き』という噂は、あながち嘘でもなかった。

正確には男『が』ではなく、男『も』なのだが。

男も女も、好きになれればどちらでもいい。当時女子からの告白を断ったのは、単純にその女子が好みじゃなかったからだ。


噂のせいで無視をされたり、知り合いからからかわれたりしたものの、それは中学の頃まで。

高校の頃は親の都合で他県に引っ越して、その土地の高校へ通うことになった。

高校を卒業し、大学も卒業した俺は、その土地の企業に就職。その数年後、何の因果か中学まで住んでいた土地の支社に転勤となった。



「・・・お前、もしかして名字か」

日曜の昼頃、転勤が決まってすぐに借りたマンションに荷物を運びこんでいたところ、中学の頃の同級生 相澤と再会した。

相澤は俺が借りたマンションの隣の部屋に住んでいて、今はヒーロー兼教師として活動しているらしい。

まさかの同級生との再会。部屋が隣同士ということもあり、俺と相澤が仕事終わりや休日に互いの家で宅飲みをするような仲になるのも、そう時間はかからなかった。


「悪かった。中学の頃、俺はお前を助けてやれなかった」

「助けてって・・・あぁ!あの噂か。俺は特に気にしてなかったさ。まさか相澤、ずっと気にしてたのか?ありがとなー、流石ヒーロー」

相澤は酔うと必ず、俺に中学の頃のことを謝罪した。

噂は耳にしていたし、俺がそのせいで一部の生徒から無視や誹謗中傷を受けていたことを知っていた。けれども当時どうすれば解決できるかがわからず、結局解決することなくお互い中学を卒業。俺が他県に引っ越したことを知り、相澤は俺が気を病んだせいで引っ越したと思っていたらしい。

実際は全然そんなこともなく、俺は元気に学生生活を謳歌していた。まさか相澤が俺を助けられなかったと気に病んでいるとは思わなかったし・・・こういってはなんだが、学生時代俺と相澤はそこまで仲の良い友人同士ではなかったはずだ。せいぜい、クラスメイトの一人で、たまに喋る相手・・・という程度の認識だった。


「悪かった、本当に」

「いいっていいって。まぁ相澤の気が済まないって言うなら、これからも俺と仲良くしてくれ。社会人になってからこうやって友達と宅飲みするって、結構贅沢だし、これからも続けていきたいんだ」

「・・・俺でよければ、いくらでも」

「ははっ、よろしく」

当時相澤が俺のことを相当心配していたのはよくわかった。流石、現在ヒーローとして活躍しているだけはあると思う。

俺は全く気にしてないのに、相澤が俺に対し後ろめたく思っているのは逆に申し訳なく思うが、俺を想ってくれる友人がいることが俺は誇らしかった。



「・・・名字、あの噂のことなんだが」

ある日の宅飲みで、酔った相澤が中学の頃の噂の真偽について問いかけてきた。当時俺は否定も肯定もしなかったため、相澤的にももやもやしていたのかもしれない。

俺は笑って「実は、半分正解なんだよなー。俺、実は男も女もどっちもいけるんだ」と正直に告げた。


相澤は・・・ぽかん、とした顔で俺を見て、それから元から酒のせいで赤かった顔をより一層赤く染め「そ、そうなのか?」と再度問いかけてきた。

俺が「嘘じゃない。実はそういうことだったんだ」と頷けば、相澤は「そう、だったのか」とこくこく頷き、そして黙った。

どうかした?と俺が首を傾げれば、相澤は「あ、あのな」震えた声を上げる。


「俺がお前の噂を聞いた時、びっくりしたが・・・実を言うと、嬉しかったんだ。あの噂が本当だったらいいのに、と思っていた」

「ん?えーっと、つまり?」

新しいビール缶を開け、一口飲んでいると相澤が真っ赤な顔のまま笑った。


「名字が男が好きなら、俺にもチャンスがあるかも・・・なんて」

そこまで言うと、相澤は空き缶だらけの机に突っ伏した。疲れがたまっていたのかそのまま眠ってしまった相澤。今日の宅飲み場所が俺の家だったため、相澤は俺の寝室のベッドに寝かせた。



相澤を寝かせて再び酒飲みに戻った俺は、相澤の言葉を思い出し「なるほどなー」と独り言ちた。

相澤が俺のことを長い事気にしていたのは、単純に助けられなかった相手だからというだけでなく、当時好きな相手だったからだろう。

当時の相澤のことを思い出すが、うむむっ、あの頃の相澤に告白されてたら、間違いなくOKしていたはずだ。今?今も、実は結構アリだ。

しかし所詮は当時の恋心。相澤が今でも俺のことを想っているなんてことは、まずないだろう。

現在俺はフリーだが、相澤がそうとは限らないし。

ま、酔っ払いの言葉として、あの言葉は忘れておくか。

そう思い、それからしばらく酒を飲んだ俺はリビングの床で寝ることとなった。



「名前、昨夜のこと、だが・・・」

翌朝、相澤の顔色はとても悪く、どう見ても二日酔いのせいだけではなさそうだった。

対する俺は単純に二日酔いで、思考力もあまり戻っていなかったせいで「うんうん、相澤が昔俺のこと好きだったってのは聞いた聞いた」と軽く流し、インスタントの味噌汁でも飲むかとよたよた立ち上がった。

「昔、じゃない」

「はえ?」

お湯を沸かすために電気ポットに水を入れていると、背中に相澤の声がかかる。


「・・・俺がお前のことを好きなのは、昔じゃなくて・・・今も、だ」

俺はぽかんとした顔で相澤を見た。相澤は、一晩経ったのにまだ酔っ払ってるみたいに顔が真っ赤で、俺はうっかり電気ポットを落としそうになった。


「まだ俺にも、チャンスはあるだろうか」

「・・・チャンスというか、よ、喜んで?」

何とか落とさずに済んだ電気ポットをセットし、電源を入れた俺は「と、とりあえず相澤も味噌汁飲むだろ?」と話を逸らした。

いやまさか、中学の頃を青春が今頃になって開花するとは。相澤も想像していなかったことだろう。

思わぬラッキーな出来事に、俺は孤独な転勤生活をエンジョイできる気がした。




噂話はたまに真実も含まれている




「ヒュー!あんたがイレイザーの想い人か!?」

「わっ、プレゼントマイク・・・しょ、消太ー!同僚さん来てる!」

「・・・おいマイク、冷やかしにでも来たのか」

「親友が長年の恋を成就させたとあらば、その恋人を一目見る権利は俺にだってあるだろ!」

相澤改め、消太の家で恒例の宅飲みをしていると、メディアで有名なプレゼントマイクがワインやシャンパンの瓶を手にやってきた。

突如としてプレゼントマイクとも一緒に宅飲みをすることになった俺は、中学の時のことや付き合うようになるまでの流れを根掘り葉掘り聞かれ、消太は時折プレゼントマイクを小突きながら、俺の身体に軽く身を寄せていた。



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