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僕のお父さんはヒーローでした。

優しくて強い、僕にとって一番の憧れでした。幼稚園の友達は皆オールマイトが一番だと言ってましたけど、僕にとってはお父さんが一番だったのです。

素晴らしいヒーローでした。


けれどヒーローは死んでしまいました。

爆弾を生み出す個性を持った敵がバスをジャックし、その乗員と乗客全員を人質に取ったのです。

誰より早く現場に急行した僕のお父さんは人命救助に全力を尽くしました。でも、全力を尽くしたって報われないことはあるのです。

追い詰められた敵は、乗員乗客、果てにはお父さんまでを巻き添えに、自身を一つの大きな爆弾に変えて大爆発を起こしたのです。

当然敵は死亡。一番傍にいたお父さんも、バスに乗っていた乗員乗客も、偶然その場に居合わせた一般人も、大勢が死にました。


世間は嘆きました。でもそれ以上に憤りました。

敵に?いいえ・・・お父さんにです。

何故もっと敵の個性に注意しなかったのか。何故誰も救えなかったのか。被害者家族がお父さんを責めました。もう死んでしまった、帰って来ないお父さんを責めました。

マスコミはそれを大きく取り上げて、一時は社会全体がお父さんを責めました。お父さんが全部悪い、全部全部悪いんだと。


それから僕の生活は一変しました。

優しかった近所のおばちゃんも、まるで蛆虫を見るような忌々しいと言いたげな表情で僕等家族を見るのです。

親戚、友達も、先生も、皆みんな変わってしまいました。

お父さんというヒーローの死は、僕の人生から光を奪ったのです。


何故世間はお父さんを責めるのでしょうか。お父さんは頑張ったんです、皆を助けるために、敵に立ち向かったんです。

誰も助けられませんでした。沢山死にました。けど、役立たずの烙印を押されるためにヒーローとして頑張ってきたわけではないはずなのです。

世間は残酷です。誰もお父さんの死を悲しんではくれません。誰も僕等家族のことを理解してはくれません。誰も僕等家族を守ってはくれません。


この世は何て醜いのでしょうか。

ヒーローに守られるのが当たり前だと考えて、守られなければヒーローを激しく攻め立てて・・・まるで王様気分殿様気分。




「弔さん、お菓子作って来たんです。一緒に食べませんか?」

ヒーローも、ヒーローに助けられるのが当然だと考える人々も、等しく醜悪だと僕は思います。

だから僕は、幼き頃夢見たヒーローになることも、ヒーローに助けられるか弱い民間人になるのも、嫌になりました。だから『此処』に入ったんです。

敵連合のリーダーの弔さんは性格にだいぶ難があるけれど、なんだかんだ僕らのような『はぐれ者』には理解のある人で、僕はそんな弔さんを慕っている。


「あ?お前の作る菓子、甘すぎるから嫌いなんだけど」

「そう言うと思って今日は甘さ控えめですよ」

「はぁ?・・・甘さが足りねぇ」

「えー、我が儘ですね弔さん」

「手前が丁度良いの作ってこねぇからだろ」

「横暴ですよ弔さん。何様ですか」

甘すぎるだとか甘さが足りないだとか何時も言う癖に、何時だって全部食べてくれるのを僕は知っている。我が儘なくせに、微妙に律儀な人。まるで大人ぶった小さな子供のよう。


「うっせぇ、おい黒霧、酒。甘いヤツ」

「わかりました。名前くんはどうしますか」

「僕は年齢的にお酒は無理なんで麦茶で」

「餓鬼め」

「弔さん、あんま言葉が過ぎると悪戯しちゃいますよ」

僕の言葉に弔さんがにたりと笑う。


「悪戯、やってみろよ」

「そんな期待した顔しないでくださいよー。やる気失くしますから」

「はぁ?ふざけんな腑抜け」

「わかり易く煽らないでくださいよ」

黒霧さんから受け取ったグラスを口に運ぼうとすると、横から弔さんがお酒のグラスを近づけ、僕のグラスへと中身をこぼす。


「何するんですか」

「ちょっと入れただけだろ。飲めよ」

にたにた笑いながら僕がお酒入りの麦茶を飲むのを今か今かと待っている弔さんはやっぱり小さな子供のようだ。

僕はため息を一つ吐き、お酒入りの麦茶を飲んだ。味は大体麦茶なのに、やっぱり若干可笑しい。思わず僕が顔を歪めると、弔さんは心底楽しそうに笑った。


「酔ったら言えよ?腑抜け野郎」

「後悔しても知りませんけど?」

お酒入りの麦茶を無理やり煽って飲み干し、ニコッと笑ってみせた。正直ちょっときつかったけれど。

弔さんはそれに気をよくしたのか「後悔するほど悪戯してくれんの?」と挑発するように小首をかしげてみせた。あぁ、先程までの小さな子供っぽさが嘘のように蠱惑的。



「後悔しても、拒まないでくださいね」

手の平返しなんて御免な僕は、お酒のせいで少し火照った手で弔さんの手を握った。もちろん、その五本ある指のうちの四本だけ。

そんな僕に弔さんはまたにたにたと笑うと「拒ませねぇくせに」と僕の肩口の頭を寄せ、首筋へと口付けた。


ちくりと小さな痛みがした首筋には、きっとまた痕が残されていることだろう。






拒まないで、受け入れて





なんだかんだと僕を受け入れてくれる弔さん。敵連合のリーダー、僕らの理解者。素敵な人。

僕らを見捨てた世間より、此処はずっと素敵。

きっといつかはヒーローに捕まる運命だとしても、今だけはこの幸福を甘受したい。それを邪魔する人がいるなら僕はきっと容赦なくその人を壊すだろう。かつて世間の人々が僕ら家族にそうしたように。



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