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図書館で少し調べものをしていた出久は、外の景色がオレンジ色に染まっていたことに気が付いた。

あまり遅く帰ると母親が心配するだろう。すぐに荷物を手に校舎の外に出て雄英の門を潜ると、前で蹲っている男を見つけた。


「だ、大丈夫ですか?」

慌てて駆け寄ると、男は弱弱しく顔を上げる。出久よりは年上だが、見たところ二十代くらいの若い男だ。


「う、ううっ・・・君は、此処の生徒かい?」

「はい!」

「頼むっ、消太くんを・・・相澤消太くんを呼んでおくれ・・・」

「相澤先生を!?ちょ、ちょっと待っててください!すぐに呼んできます!」

頼んだよ、という言葉を最後に再び地に伏した男に出久は慌てて「すぐに呼んできますから!」と声を上げ走り出した。

門を再び潜り校舎に入ると職員室へ直行する。廊下を全力で走ってしまったが、事は一刻を争うのだから仕方ない。

勢いよく職員室の扉を開き「相澤先生!相澤先生はいますか!?」と声を上げる出久に中にいた教師陣はギョッとした顔をする。


「緑谷?どうした、そんなに慌てて・・・」

「よ、良かった!先生大変なんです!門の前に人が倒れてて、その人が相澤先生を呼んで欲しいって!」

全力で走って来たからか呼吸は乱れ、額にはじわりと汗が滲む。

出久のあまりの様子に教師陣はどよめき、その中で出久の担任である相澤消太はすぐに席を立ち出久と共に駆け出した。



校舎から出て、門へと近づく。そして門の外で蹲っている人物を見て、消太はぴたりと足を止めた。

相澤先生?と首をかしげる出久をよそに、消太は深いため息を吐く。

そのため息で蹲っていた男はゆっくりを顔を上げた。その顔にはパッと喜色の笑みが浮かぶ。



「消太くぅん」

「・・・何やってんだ、爺さん」

何処か甘えたような声を出す男に消太は呆れ顔で近づく。そしてそのままがしりと腕を掴んで引っ張ると、男は「おっとっと」と言いながら立ち上がった。

案外すんなりと立ち上がる男に一部始終を見ていた出久は目を瞬かせる。


「ううっ、老体は労わるもんだよ」

「あんたの見た目で老体扱いされると思うなよ」

「途中までは良かったんだよ。でも此処まできて、突然腰がね。もう痛くて痛くて・・・おんぶしてくれないかい?消太くん」

「断る。俺を待ってる間にちょっとは回復したんだろ。リカバリーガールから湿布貰えよ」

「うぅん、消太くんが冷たい」

しくしくとワザとらしく手で顔を覆う男を消太は呆れ顔のまま見つめている。



「あのっ、相澤先生!」

「・・・あぁ、悪かったな緑谷。うちの爺さんが迷惑かけた」

爺さん、という単語に出久は首をかしげる。

腰が痛いと言っている男に対する比喩だろうか。だが男も自身を『老体』と言っていたし、もしかすると本当に『おじいさん』の可能性もある。

男は腰を軽く擦りながら出久の方を見て、にこりと笑う。


「消太くんの生徒さんだったんだね。さっきは慌てさせてしまったごめんよ」

「い、いえ。その、お爺さんなんですか?」

「ん?あぁ、見た目はそう見えないかもしれないけれど、私は君よりうんとお爺さんなんだ。あ、酢昆布いるかい?」

「えっ、あ、有難う御座います」

「好きな食べ物は?私はね、冷ややっこが好きでね。あぁそうそう、昨日私の隣に住んでるウメちゃんが・・・」

「あっ、あの・・・?」

突然ぺらぺらと喋り始めた男に「爺さん、緑谷に絡むな」消太が注意する。


「あぁごめんよ。そういえば君の名前は?」

「み、緑谷出久です!」

「そうかいそうかい。私は名字名前。消太くんのお母さんのお父さんだよ」

名前、と名乗った男はよしよしと出久の頭を撫でる。突然のことで照れたように笑う出久に名前は「素直で可愛いねぇ」と目を細めてまた笑った。


「私の個性は年齢操作でねぇ。個性の影響なのか元々人よりも歳の取り方が遅かったんだが、二十代になったあたりからぱったり歳を取らなくなってしまってねぇ」

「す、凄い!じゃぁ、ずっと二十代のままなんですか?」

「そうそう。けどねぇ、これでも私は老人だからねぇ、気分的なものもあるのかもしれないけれど、どうも最近物忘れと腰痛が・・・」

「爺さんの物忘れと腰痛は昔からだろ」

「こう言うけど、消太くんは良い孫でね。一人暮らしの私をよく訪ねてくれるんだよ」

「あんたの娘から頼まれてんだよ。見た目は俺より若い癖に、すぐに詐欺に引っかかったりするから」

「昔から消太くんは爺さん思いの良い子でね。何年前だったかな、私が屋根の修理中に足を滑らせて骨折した時なんて、泣きながら病院まで来てくれてね・・・」

「何年前の話してんだ」

「そうそう、あの頃の消太くんはこーんなに小さくて」

手で腰ぐらい、今の消太の半分くらいを示す名前に消太は大きなため息を吐く。

マイペースなのだろう。そんな消太の様子を全く気にする様子がない名前は、出久を見て「でも良かったよ」と口にする。


「消太くんの生徒の緑谷くんがこんなに良い子なんだから、消太くんはちゃんと先生が出来てるんだね。私は安心したよ。これからも消太くんをよろしくね」

「こ、こちらこそ!これからも先生のもとで頑張ります!」

「うんうん、頑張ってね。きっと君は素敵なヒーローになれるよ。ヒーローになったら絶対フォローするからね」

「あっ、あ、有難う御座います!」

ぺこぺこと頭を下げる出久に名前は「じゃぁ私は帰るね」とその場を離れようとする。



「おい待て爺さん」

その肩を掴んで止めたのは、終始呆れ顔だった消太だ。



「どうかしたのかい?消太くん」

「どうしたもこうしたもない。リカバリーガールに湿布貰うんだろ。物忘れしてんじゃねぇ」

それだけ言うとさっさと行くぞと言わんばかりに歩いて行ってしまう消太。

「・・・ふふっ。ね?爺さん思いの良い子なんだよ」

嬉しそうに消太の後ろ姿を見て笑う名前に、出久も「はいっ!」と元気よく頷いた。






ゆるふわおじいちゃん





「治与ちゃん久しぶりー」

「あらあら名前じゃないの」

「消太くんの様子を見に来たんだけど、腰を痛めちゃって。湿布を貰えるかな?」

「全くあんたって人は。ほら、これが湿布だから、孫に貼ってもらいな」

「そうだ、今度の敬老会の件なんだけど、鈴木のおじいちゃんが温泉旅行はどうかって」

「あらいいねぇ」

「治与ちゃんの仕事の都合に合わせるから、わかったら電話くれるかい?そうそう、温泉と言えばこの間福留さんところのお孫さんが・・・」

「爺さん、さっさと湿布貼るぞ」

「孫を困らせるんじゃないよ、全く」


「ううん、消太くんと治与ちゃんも冷たいなぁ」



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