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何でも涼しい顔してこなす轟焦凍のことが嫌いだ。

元々A組は目立つのに、轟はあの有名ヒーローエンデヴァーの息子だ。将来は約束されているようなもんだ。

対する俺はヒーロー科の試験に合格できず妥協で普通科になった、ごくごく一般的なサラリーマン家庭に生まれた凡骨。


轟は沢山のものを持っている。氷と炎の複合個性、女子が黄色い声を上げるような整った顔、学力、運動能力、上げていけばきりがない。

僻みなのはわかってる。わかっているんだ。

それでもこのどろどろとした感情はどうしようもない。何とかして解消しないと、俺は本当に駄目になってしまいそうだ。


だからちょっと、轟にけして癒えることのない心の傷を与えてやろうと思った。

別に強姦してやろうとか、虐めてやりたいとか、そういうのじゃない。心の傷を与えてやろうとしている時点で言えたことではないが、これでも俺はヒーローを志した男なのだ。

たった一度だけ、そう一度だけでいい。俺は轟とあえて接触する。




「・・・この手紙、お前か?」

放課後の校舎裏、そんなベタな場所で待っていた俺の目の前に件の轟焦凍が現れる。俺を見ると少し驚いたような顔をした。それもそうだろう、と内心ほくそ笑む。

「うん。ごめん、まさか本当に来てくれるとは思わなかった」

「クラスの奴らが、行ってやれって・・・悪い、まさか男だとは思わなかったんだが、この名前はお前であってるか?」

「あぁごめん。本気で来てもらいたかったから、適当な女の子の名前を書いちゃったんだ。・・・ごめん」

申し訳なさそうな顔を作って謝る。


今朝、轟の靴箱にベタなぐらいベタな手紙を入れた。来ない可能性の方が十分にあったが、ヒーロー科は基本善性を持つ奴らの集まりだし、手紙の存在を知った誰かが轟を後押しする方の可能性に賭けたのだ。

手紙には適当に作った女子生徒の名前と『絶対一人で来てください』という内容の文章も添えた。あとはアレを実行するだけ。


「いや、いいんだ。だが別に話したいことがあるなら、本名でも良かったんじゃねーか?」

まさか男がいるとは思わず、流石の轟の困惑を感じているのかもしれない。俺の顔をちらりちらりと見ては目を伏せる。

「あー・・・で、話ってなんだ?」

「うん、それなんだけど・・・」

俺は一気に轟との距離を詰める。ちょっとびっくりしたような顔の轟に、俺はにやりと笑った。

そのまま俺は轟の頭を両手で抑え込み、その唇に自分の唇を押し当てた。轟が唖然としているうちにがっつり舌を絡めてから、口を離す。



「好きだ轟!性的に!俺と付き合ってくれ!」



さぁどうだ。どうだどうだ!

ショッキングだろう?女子生徒からの呼び出しだと思ってきてみればそこにいるのは男で、しかも突然ディープキスをぶちかまされて告白をされる。しかもがっつり性的にときた。

衝撃的だろう?思春期にはありえない衝撃と絶望感だろう?

この嫌がらせを考えるのに随分とかかった。正直俺にもダメージが入っているが、突然こんなことをされた轟はその比ではないだろう。


しばらく大きく目を見開き固まっていた轟が、自分の口を押えて「あっ、え・・・」と意味のない声を漏らす。よし、よしよしよし、困惑してる!

断られることはわかりきっている。むしろ断ってくれなきゃ困る。

俺は今にも爆笑してしまいそうなのを必死で抑え、何とか真面目な顔で轟を見つめた。おや?轟の顔がどんどん赤くなっていく。怒りが物凄いのか?・・・不味いな、もしも個性で攻撃されたら絶対痛い。氷も炎も俺の凡個性じゃ防げない。



「こ、こちらこそ、よろしく頼む」



もしも轟が個性で攻撃してきたら、死ぬ気で逃げよう。逃げ、・・・んん?

「・・・はい?」

「うっ、嬉しい。まさか、そんな風に言ってくれるヤツがいるなんて。しかも・・・他でもない名字からなんて」

あれ?何で俺の名前知ってんの?

「たまに、お前が遠くから俺を見てるのをクラスメイトから聞いて、それから俺もずっと気になってたんだ」

あ、恨みがましく見つめてるのバレてたっぽい。けれど完全に勘違いされてたっぽい。

あれ?やばくない?今の状況完全にやばくない?

いや、いやいや、まだ大丈夫。此処で「実は罰ゲームなんだ!」とか言えば、まだ心に傷を負わせられる!


「嬉しい、名字・・・これから、その、恋人同士だな」

ぽぽぽっと普段のポーカーフェイスからは想像出来ない照れ顔を晒した轟の腕が俺の方へと伸びてくる。気付けば俺は、轟に抱き着かれていた。

すりっと首筋に轟の顔が擦り付けられている。視界の半分が轟のふわふわヘアーで埋もれている。


「それに性的ってことは、その・・・俺、頑張る」

「あ、はい」

え?轟ってそんな性的な顔できんの?なんかエロ・・・待って待って、そんなつもりじゃないから!これはそういう計画じゃなくて、轟をいかに手を汚さずに傷つけられるかって話だから!

「んっ・・・名字は確か、親元離れて一人暮らしだったな。・・・いつでもいいぞ」

「ひえっ」

なんか太腿に擦り付けられてる気がするんですけど!

普段のクールさは何処に行った!?何でこんなエロいわけ!?







こんなつもりじゃなかった






「轟さん、またあの方が轟さんを見つめていますわ」

「・・・誰だ、あいつ」

「ケロ、普通科の人よ。あの子、結構前から轟ちゃんを見てたわ。とっても熱心に」

「そうなのか・・・ずっと、俺を・・・」

「まぁ!もしかしてそれって・・・!」

「名前、なんて言うんだろう・・・」

「ケロケロ、普通科のお友達に聞いておいてあげるわ」


彼等の勘違いは此処から始まる。



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