- ナノ -

同級生の天喰くんのお弁当が美味しそうだった。

席が近くて、彼がお弁当を食べていると見えるのだ。美味しそうなおかずの数々が。


「･･･どうか、した？」

「あ、ごめん。お弁当見てた」

視線に気付いた天喰くんに謝って、自分の昼飯であるコンビニのサンドイッチを頬張る。このサンドイッチも美味しいけれど、きっと天喰くんのお弁当には劣るだろう。

「名字は、昼それだけ･･･なのか？」

恐る恐るといった感じに問いかけてくる天喰くん。同級生なんだしそんな緊張することないのに、とちょっと笑ってしまう。

「そうだけど、そういう天喰くんは美味しそうなお弁当だね」

そう褒めると、蚊の鳴くような声で「有難う」という返事が返ってきた。彼とよくつるんでいる二人のうちの一人の波動さん曰く天喰くんは『ノミの心臓』らしいけれど、確かにそんな感じがする。


席は近いけれど今までそんなに話したことなかった。もちろん仲が悪いわけではないけれど、特に盛り上がるような話題もないからだ。

今だってこれ以上会話を続けられるような話題もないからと自分のサンドイッチをもう一口頬張っている。すると「･･･あの」と声がかけられる。見れば、天喰くんが真っ赤な顔でこちらに弁当箱を差し出してきていた。


「え？何？どうかした？」

「おかず、良かったら･･･」

「えー、そしたら天喰くんのが減っちゃうじゃん」

「いい、から」

本当に真っ赤な顔。よくよく見れば手がぷるぷると震えている。


くれると言うなら喜んで貰うけれど、俺今日サンドイッチだから箸とか持ってきてない。指でつまんでいいならそうするけど、それじゃちょっと失礼かもだし･･･

ちらっと天喰くんを見ると、俺が箸を持っていないことに気付いたのか、慌てたように自分の箸を掴んで「こ、これ」と差し出してくる。有難うとそれを受け取りお弁当を見る。焼き色が綺麗な卵焼き、見るからにジューシーそうな唐揚げ、豪華さを演出するエビフライ･･･うーむ悩む。


「･･･嫌いなの、あった？」

「ん？ううん、どれも美味しそうだから迷っちゃうなって。あぁそうだ、天喰くんがこれが一番おすすめっていうの食べさせてよ。折角だし」

「あっ、えと･･･卵焼き、今日のは綺麗に焼けた、かも」

その言葉に思わず「えっ」と声を上げてしまう。


「これ、天喰くんが作ったんだ」

「個性が個性だから･･･」

成程、天喰くんの個性は食べたものの特徴を自分の身体に再現することだから、そのために練習とかしたのだろう。それにしても意外だ、天喰くんがこんなに料理上手だったとは。


「でもそっか、卵焼きか。じゃぁこれを一つ貰おうかな」

「う、うん」

こくりと頷く天喰くんから借りた箸で卵焼きを一つ挟んで口の中に放る。すると天喰くんが不安そうな顔で「どう？」と尋ねてきた。

「美味しい。ふわふわだし、天喰って料理上手なんだね、尊敬する」

「･･･良かったら、エビフライも」

ずいっと弁当箱が更に差し出され、俺が「え？いいの？」と言いながらエビフライを口に入れた。うん、これも美味しい。


「有難う天喰」

「･･･うん」

ぽぽぽっと顔を赤くしたまま口元に小さく笑みを浮かべる天喰くん。俺は箸を返し、自分のサンドイッチを再び頬張りだした。

あっという間にサンドイッチを完食した俺に「あの」とまた天喰くんが声をかけてくる。



「お、美味しかった？」

「うん、とっても」

「そっか･･･」

嬉しそうな顔。天喰くんとはあまり話したことはなかったけれど、料理を褒められてそんなに嬉しそうな顔をするなんて、案外可愛い性格をしているのかもしれない。


クラスメイトの新たな一面を発見出来て何だか気分が良くなった俺は「本当に美味しかったよ、有難う天喰くん」と笑って天喰くんの背中を軽くたたいた。