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勝己は基本的に何でも出来る。

対して俺は、基本的に何も出来ない。



赤ん坊の頃から家が隣同士で、母親同士が仲が良かったために自然と一緒に遊ぶことが多かった俺達。所謂幼馴染だ。


俺が何も出来ないのは母親譲りで、母親は昔から何も出来なかった。洗濯物をすれば服をびろんびろんに伸ばし、料理をすれば必ず火柱を上げるか爆発させるかした。

掃除を始めた日には、会社から帰って来た父親が膝から崩れ落ち「修理業者さんを呼ぼう」と虚ろな目で電話を手にする程だ。


よくもまぁこんな駄目な女性を妻にしたなと思う。けれども夫婦仲は良好で、休みの日には父親が全力で母親の世話を焼いている。

平日?平日は実に申し訳ないが・・・お隣の爆豪家に世話を焼いて貰っている。



当時まだ赤ん坊だった俺のミルクを作るだけでキッチンを爆発させたのを偶然聞いてしまったらしい爆豪家の母親は、このままじゃ隣から死者が出てしまうと思ったそうで、その日からご近所付き合いを超える付き合いをしてくれるようになった。

物心つく頃には既にうちの母親は「爆豪さん家のお母さんのところに行こうねー」とへにゃへにゃ笑い、当然のように爆豪家にお邪魔していた。もちろん、俺と自分の分のご飯を食べさせて貰うためだ。


流石は爆豪勝己の母親と言うべきか、彼女も大体のことは何でも出来た。どちらかと言えば小食な俺の母親とまだ子供の俺を食べさせてやるなんて、彼女にとってはお茶の子さいさい。俺の中で『おふくろの味』とは『爆豪家のご飯』だ。

因みに爆豪家の母親の事を小さい頃に一度だけ「お母さん」と間違えて呼んだことがあるが、その時「どうしたの、名前」と普通に返事をされて、あれ?俺って爆豪家の子だっけ?と少し困惑したことがあるのは良い思い出だ。



爆豪家でお世話になるということは、自然と勝己と過ごす時間は多く、ある程度出来るはずの歳になっても何も出来ない俺と、その歳にしては人よりずっと出来てしまう勝己は、あべこべのようで実はピッタリだった。


爆豪母がうちの母親の世話を焼いている間、どうしても俺の事は疎かになる。疎かにされた俺は、自身の母親の『何も出来ない』と見事に受け継いでしまった問題児。・・・結果、何かやろうとして失敗するの連続。それをフォローしてくれるのが勝己だった。

食事をしようとして皿をひっくり返す俺を見かねて手ずから食べさせてくれたり、服を着ようとして後ろ前どころかズボンと間違えてシャツを着ようする俺を見かねて着替えを手伝ってくれたり、上げ始めたらきりがないが、これはうちの母親が爆豪母にして貰っていることでもある。親子そろって本当に申し訳ない。



だがしかし、これは俺にとって本当は良くないことだったのかもしれない。


もはや手遅れレベルの母親とは違い、俺はまだその時小さな子供。どうにかして自分で出来るように努力さえすれば、完璧とは言わずとも何かしら出来るようになったかもしれない。

けれどそれは果たされなかった。何故なら、俺の隣には常に俺の世話を焼いてくれる人が出来てしまったから。



最初は勝己も自分の母親の真似をして俺の世話を焼いているだけだった。本気で俺を心配して世話を焼いているわけじゃない。


ある日本当に何も出来ない俺にしびれを切らし「自分でやれよ!」と怒鳴って風呂道具を叩きつけてきた勝己に、俺だって「自分でやる!」と意気込んだ。意気込んで一人風呂に行って・・・溺れた。

爆豪母に救出された俺を見ていた勝己の顔は忘れられない。わかり易いぐらいの『顔面蒼白』だった。

まさか自分でさせたら死にかけたとか、笑えない。俺も笑えないが、一番笑えなかったのは勝己だと思う。



おかげ様で、勝己の世話焼きは母親の真似だけでとどまる事はなかった。

たぶん『こいつは俺がいなきゃ死ぬ』という考えが前提にあるからかもしれない。勝己は基本、俺に甘い。


朝は俺を起こしに来て、髪を整えたり服を着せたり朝食を食べさせたり、挙句靴まで履かせてくれるんだから普通に考えればドン引きものだ。

でもそれをして貰えないと、俺はたぶん冗談抜きで死ぬ。去年の夏、爆豪家が家族旅行に行ってしまった時に母子揃って死にかけたのはあまり良い思い出ではない。



俺は本当に何も出来ないんだ。やろうとはした。けど無理だった。

もう高校生なのに何かを食べようとすると必ず零して服を汚す。ちゃんと服を着たつもりでも、気付いたら服は後ろ前。酷い時は破いてしまう。走ったら転ぶし、勉強はある程度は出来るけどテストで解答欄を一つズラしてしまって赤点。



どうしようもないな、俺。

でもこのままじゃいけないんだ。勝己は将来ヒーローになるんだから、その足かせにだけはなりたくない。


俺は勝己とそのお母さんには感謝してるんだ。出来ることなら、早く親離れならぬ爆豪離れをしたい。







「なぁ、勝己」

「・・・あぁ?何だよ名前」


俺に向かって甲斐甲斐しくスプーンを差し出していた勝己に声をかけると「さっさと食えよクソが」と睨まれる。



「ごめん。・・・あのさ勝己、飯ぐらい、自分で食うよ俺」

「・・・前に自分で食って、喉詰まらせただろ」


「気を付けるから大丈夫」

だからスプーン貸して、と手を伸ばせばその手は叩き落され「ざっけんな、死ね」と怒鳴られた。叩かれた手が地味に痛い。




「それにお前、零して服汚したら、誰が洗濯すると思ってんだ?」

「でも、そろそろ俺も何か自分で出来る様にならないと、勝己が大変だし・・・」


「お前が余計な事する方が、後片付けが大変だ」

「ご、ごめん」

そう言われると何もいえなくなる。



「わかったら黙って食え。おら、さっさと口開けろ」

「・・・有難う、勝己」





「俺が世話焼かねぇと、お前死ぬだろ」

当然のようにそう言ってまたスプーンを差し出してきた勝己に、俺は曖昧に笑った。







離れられない








勝己にも、早く『俺離れ』をさせてあげたい。

じゃないとこのままじゃ、勝己の人生滅茶苦茶だ。




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