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ばきんっ、と鈍い音と共にドアノブはただの金属の塊へと変質した。


「またですか、名字名前」

「ごめんよ、黒霧」

眉を下げ、精一杯の申し訳なさそうな声で謝る。

今月だけでこのドアノブを捻じ切り折ってしまうのは何回目だろうか。片手じゃ足りない気がする。


「悪いと思うなら、個性の制御をしたらどうですか」

「生まれてこの方、制御なんてものをしたことがなかったからなぁ・・・この歳で個性の練習はちょっとキツいや」


「まったく・・・今月だけでいくら修理費がかかってると思ってるんです」

「ごめんよ、黒霧」

それでも一度だって俺に請求書が回ってくることはない。それどころか、こうやって怒るのは黒霧ぐらいで、此処の主である『先生』は俺に怒りはしない。



「いーんじゃねーの。名前は今まで『苦労してきた子』なんだからさ」

「別に苦労はしてないよ、弔」

俺と黒霧の会話に入ってきた弔がぴとっと俺の背中にくっ付く。腹に回された腕、指先は四本だけ触れている。


「先生だって言ってたじゃん。名前は苦労してきた可哀相な子だって」

「あんまり実感はないけどね」

弔の言うとおり、先生は俺の事を可哀相な子だからと『保護』した。先生は俺に一度だって怒ったことはない。何を壊しても、何を崩しても、何を潰しても。


「黒霧、さっさと名前に酒用意しろよ」

「あ、酒いらない。牛乳頂戴」

「お前は何時もソレだよな」

「牛乳飲むと強くなれるんだよ、弔」

俺の言葉に黒霧が「これ以上強くなってどうするんですか」と呟きながらグラスに紙パックの牛乳を注ぐ。


「どうぞ」

「ありがと」

差し出されたグラスを傾け一気にそれを飲み干す。

次の瞬間にはグラスはばりんっ!と砕け散った。


「・・・はあっ」

「ごめんよ、黒霧」

「名前の手に傷がついたらどうすんだよ黒霧、殺すぞ」

ぎゅうぎゅうと弔が俺に抱きつく力が強くなる。ちょっと苦しい。


黒霧が差し出すタオルで手を拭きつつ弔を見る。

ぐりぐりと俺の背中に頭を摺り寄せるのに夢中だった弔は俺の視線に気付いて「何だ」と俺を見上げる。


「ううん。弔は相変わらずの骨だなーと」

「うっせーよ」

そう言ってまた頭をぐりぐり摺り寄せる。


弔の身体は細い。骨と皮って感じで、不健康。

たぶん俺が触ったら、その骨は粉々に砕けてしまうんだ。そうなったら大変だから、俺は弔には触ったことが無い。弔は俺に滅茶苦茶触るけど。



「ほんと、触ったらばっきばきになっちゃいそう」

「触ってみろよ」

「やだよ。弔に怪我させたら、流石の先生も怒りそうだもん」

「俺が触れって言ったんだからセーフだろ」

「アウトだと思う」

ぐぐぐっと弔の腕の力が強まって、ちょっと吐きそう。でも抵抗はしない。したら弔怒るし。


「何でだよ。他の奴等には触るじゃん」

「先生が触って良いって言ったから」

でも触った奴等は全部壊れちゃった。少し触れただけで骨は折れて、握り込めば粉々になった。比較的健康な人間の身体でさえそんな有様なのに、不健康の弔に触れたらどうなるんだろう。たぶん触れただけで粉々だ。骨密度低そうだし。



「・・・触れよ名前」

「弔が壊れちゃったら駄目だから無理」

今弔を壊したら駄目だって俺も知ってるから触らない。


「名前は俺が嫌いなのかよ」

長い前髪の下から覗く目が俺を睨みあげる。俺は「ううん」と首を振った。


「弔の事は好きだよ。嫌いなヤツに触られたら、俺叩いちゃうもん」

そして叩かれたヤツはそのまま壊れる。ダンプカーに撥ねられたみたいに弾け飛ぶ。



「・・・好きなんだ、俺の事」

「うん、好き」

「じゃあ俺も名前好き。嬉しいかよ」

「うん、嬉しい」

弔が上機嫌になるのがわかる。だって口元ゆるっゆるだし。


「名前、椅子になれ」

「いいよ、弔」

バーカウンターの前にある椅子に座れば、膝の上に弔が座った。


「肘掛け」

「はい、どーぞ」

両腕を前に出せばそこに弔の腕が重なった。

そんなに座り心地は良くないはずなのに、弔は上機嫌のままだ。楽しそうな声で「黒霧、酒」と言っている。



「なぁ、今日一緒に寝ようぜ」

「寝相で弔を殺したくないから無理」

「ケチ野郎」

むっとしたのか、弔にべしりっと腕を叩かれた。痛い。







怪力くんは壊し上手







「全く、毎日飽きませんね」

カウンターの向こう側で黒霧がうんざりしたように呟きながら、弔の前に酒の入ったグラスを置いた。



あとがき

常に『火事場の馬鹿力』状態な個性の持ち主。
オールマイトに個性が若干似てるから『先生』に拾われた。

生まれ故郷は閉鎖的なド田舎。
村独特の『風習』があり、主は個性のせいで幼い頃から長年にわたり『処刑人』として頑張ってきた。
個性を常に発動してる癖がついてしまい、制御が出来ない。最近は黒霧が怒るからドアノブを捻る時は出来るだけ気を付けるけど、そのまま捻じ切ってしまう。

弔から懐かれてる。
割とイエスマン。現状に特に不満は感じていない。



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