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※エンデヴァー成代り。


「ごちそうさま」

そう言って手を合わせた焦凍は流しに食器を運ぶとそのまま自分の部屋へと戻って行った。




「・・・冬美」


「あぁ、お父さん。すぐにお父さんの分も用意するね」

それを見計らったように姿を現すのはお父さん。


「もぉ、一緒に食べてくれたら手間もかからないのに」

「・・・すまない」

軽く文句を言えば素直に謝られ、私は苦笑い。



「焦凍に気を遣ったんでしょ?でもちょっとズレてると思うなぁ、私」

「・・・夕食の時間ぐらい、ゆっくりしたいだろう」


「もぉ!そんな気遣いするぐらいなら、お父さんももっと素直になれば良いのに」

席に着いたお父さんの目の前に料理を運ぶとお父さんは小さく「今日も美味そうだ」と言って少し笑った。

焦凍の前でもこうだったら、たぶん焦凍もお父さんに歩み寄りやすくなる



「何で焦凍とは極力関わろうとしないの?そりゃ、お父さんは焦凍の前だと変に威圧的になっちゃうから喧嘩を避けるって意味では正しいと思うけど」

私の問いかけにお父さんはぎゅっと眉間にしわを寄せる。

この表情はとても威圧感があるけれど、実はとても困ってる時に見せる表情だ。主に焦凍の前だとこの表情が多い。あとオールマイト。


「・・・年頃になると、父親の姿を見るのも嫌だと聞いた」

「えー、それって誰情報?」

「ネットだ」

「お父さんネット見るのね」


「あと、一緒に洗濯物を洗うのも嫌だとか、加齢臭が嫌だとか・・・」

「それ思春期の女の子の話よね」

そう言うとお父さんは「そうなのか」と少し驚いた顔をした。うちのお父さんがネットの情報に踊らされてる・・・




「お父さん口下手だし勝手に自己解決しちゃうし、そんなんだから焦凍と距離出来ちゃうんじゃない?あのねお父さん、焦凍ね、この間から少しずつお母さんのお見舞い行ってるのよ。お父さんも気付いてるでしょ?あの体育祭から、前よりちょっと焦凍がお父さんにも歩み寄ろうとしてるの。だからお父さんからも歩み寄ってあげなくちゃ、何も変わらないわよ」


「・・・教員になっただけあるな。今凄く先生っぽかったぞ」

「その軽口が焦凍にもちゃんと言えるようにしようね、お父さん」


人が真面目な話をしてるのに、変なところで抜けてる人。

世間では少し怖い感じのNo.2ヒーローだけど、実のところお父さんは人見知りが激しいし喋るの苦手だし、いろいろ面倒臭い人だ。高頻度で焦凍に厳しい訓練をさせてるけど、それだって本人的には唯一息子と触れ合える時間だと認識してるから本当にお父さんは拗らせている。



焦凍は知らないだろうけど、お父さんもお母さんもとっくの昔に和解してる。お母さんが入院した直後に、お父さんが土下座しに行ったのだ。病室であのエンデヴァーが滑り込み土下座をした時の病院の人達の驚きようが一生忘れない。


個性を二つも持ってるからちゃんとコントロールできないと危ないと思った。訓練つけてみると「あれ?うちの息子強くない?」と思ってつい指導に熱を上げてしまった。でも訓練以外だと焦凍とどう接して良いのか分からなくってついつい威圧的になってしまった。

等々、お父さんがいかに拗らせているかわかる話を、お父さんは丸一日使って漸くお母さんに説明した。口下手も此処まで来ると一種の病気なんじゃないかと心配になる。


仕事が忙しくてそんなに頻繁じゃないけれど、暇があればよくお父さんはお母さんのお見舞いに行ってる。ヒーローエンデヴァーとしてじゃなくて、轟名前として。




「まぁお父さんが克服しなくちゃいけないのは、焦凍だけじゃないけどね」

「冬美、おかわり」

「相変わらず沢山食べるねー。で、どう?オールマイトとは」


「・・・アイツは一応日本国籍なはずなのに、何故ああもアメリカンなのか・・・ついて行けない」

「お父さん口下手だから、黙ってる間に話終わっちゃうんだよね。オールマイトさんに言えば?もうちょっとゆっくり喋って欲しいって」


「・・・No.1は喋りも得意なんだなと褒めてから、世間は俺がオールマイトをライバル視してると思ってるからな。下手に話しかけられない」

「それはお父さんが『流石はNo.1、口も達者なようだな』なんて言ったからでしょ」

「・・・褒めたつもりだった」

威圧感を出しながら実はしょんぼりしているお父さん。わかりにくいけど此処までくると逆にわかり易い。

口下手に加えて言葉選びも苦手なんて、本当にお父さんは面倒臭い拗らせ方をしていると思う。



「この間体育祭で会ったんでしょ?その時は喋れた?」

「あぁ。焦凍の自慢をした」


「どういう風に?」

「うちの焦凍は将来絶対No.1ヒーローになると思うからその時は宜しくという感じ」

たぶんだけどもっときつい言い方してるわよね、お父さんどう喋ったら良いかわからない相手の前だと極端に威圧的な言葉遣いになっちゃうし。



「10年前の対談の時とは違い、結構自分から喋れたぞ。母さんのおかげだな」

「そうかもねー」

お母さんのおかげって、お見舞いの時にお母さんがオールマイトのモノマネして、そのお母さんと会話するってヤツのこと?あれが練習になってるとは到底思えないけど・・・



「母さんのモノマネもクオリティーが上がってるぞ」

「私が来た!しか言わないけどね」

「いや、この間はHAHAHAと笑ったぞ」

「あ、お父さん待って。今のもう一回。録画したい」

お父さんのアメリカン笑いとかレア過ぎる。


「冬美、またおかわり」

「また!?今日は一段と食べるね」


「冬美の作った飯が美味い」

「もー、そんなこと言ったってデザートしかおまけしないからね」


焦凍相手にもこれぐらい素直になれたら良いのに。

でもたぶんお父さんにはお父さんのペースがあるから、私はアドバイスぐらいしか出来ないんだけど。





お父さんは人見知り





「お父さんはさ、とりあえず焦凍とちゃんと会話出来るようになろうね」

お米を沢山盛ったお茶碗を差し出しながら言えば、お父さんは「・・・努力する」と言いながらそれを受け取った。



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