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小さい頃、僕の両親は敵の手によって殺されたらしい。


らしいというのは、当時のことを僕は覚えておらず、すべては人伝に聞いたことだからだ。

まぁ人伝と言っても、教えてくれたのは今一緒に暮らしている、身元引受人のヒーローなのだが。



「消太さん、ご飯出来ましたよ」



「俺の分はいらないと何時も言っているだろう」

「ゼリーばっかりじゃ身体壊しますよ、ほら早く食べちゃってください」

ほらほら早くと背を押せば観念したようにリビングへと足を運ぶ消太さん。

彼が僕を引き取った、イレイザーヘッドの名で活動しているヒーロー、相澤消太さんだ。現在は雄英の教員も兼任している。



「美味しいですか?消太さん」

「・・・あぁ。お前、みるみる腕を上げてくな」

「そりゃもう、お世話になってる消太さんのために、いっぱい練習してますんで」

えっへん!と胸を張れば、消太さんは無言で僕の頭をぐりぐり撫でた。頭ががくんがくんと揺れたけど、撫でられたことはとても嬉しいから笑顔で受け入れる。



「お弁当にピッタリなレシピも覚えたんで、今度からはちゃんとお弁当も持って行って下さいね」

ゼリーなんて許しませんからね、と念を押す。

消太さんは自分のこととなると途端に疎かになるから、僕がしっかり管理しないと。


「俺の事はいい。それよりお前、時間は大丈夫なのか」

「今日は生徒会の仕事無いから。消太さんこそ僕の事は気にしないで、しっかり食べて今日も一日頑張ってきてくださいね」


消太さんがご飯を食べている間に自分の荷物をチェック。よし、忘れ物とかはなさそう。


「消太さん、消太さんの荷物の中にハンカチとティッシュ入れときますからね」

ついでに消太さんの分の荷物もチェック。よし、忘れものとかは無さそう。そういえば最近乾燥気味だから、リップとかも入れといた方が良いかな?まぁ入れてても消太さん使わないだろうけど。





「おい名前」

「はい?どうしました?」

呼びかけられ、消太さんの方を見れば既に食べ終わった消太さんがじっと僕を見ていた。


「お前もそろそろ高校受験だ。何処受けるか決まったか」

「うーん、まだ悩んでるんです」


「・・・そうか。まぁ、お前なら何処を受けても大丈夫だろう」

その言葉に消太さんからの僕に対する信頼を感じ、思わず口元を緩めて笑ってしまった。


「はい、相澤の名に恥じない様に精一杯頑張りますね」


「・・・別に変に気負いする必要はねぇぞ。お前らしくいけ」

「じゃぁ相澤名前として頑張ります」

笑顔でそう宣言した時、ふと時計に視線が行く。おっとそろそろ時間だ。



「消太さん、そろそろ時間ですよ。歯磨きしてきてください」

「あぁ」


「僕もそろそろ行かなきゃ。消太さん、戸締りチェックしっかりしてくださいね」

「わかったから。さっさと行け」

僕は「行ってきます消太さん」と言いながら荷物を手にし外へ出る。


ばたんっと閉まった扉。ご近所さんに挨拶しながら中学校への道を歩く。

今日の晩御飯は何にしようかな。帰りにスーパーに寄って、安そうなものがあったらそこからメニューを考えよう。

消太さんはヒーローと教師を兼任してるしそこそこのお給料があるけれど、無駄遣いは良くない。お世話になってる分、僕がしっかり節約しなくちゃ。

メニューは何でも良いけど、出来れば消太さんが美味しいって言ってくれるものが良いな。まぁ消太さんは何を作っても美味しいとか腕を上げたとか言ってくれるけど。



「・・・もう高校生か」

何処を受けるのか。数年前の僕だったら迷わず『雄英』と答えただろう。でも今の僕は、軽々とその名を口には出来ない。


「ごめんなさい、消太さん」


・・・本当は知っているんです消太さん。

僕の両親は、本当は敵に殺されたんじゃないんですよね。

本当は、僕の両親こそが敵だったんですよね。


何年か前です。かつての両親の仲間だと名乗る敵から聞いたんです。

僕の個性は両親の良いところだけは引き継いでいるから、とても良い個性で、だから是非とも仲間に引き入れたいと言っていました。


正直迷ったんです。

僕は本当は敵の子供で、ヒーローである消太さんとは対極で、でもそんな僕を引き取って育ててくれた消太さんの心を裏切りたくなくて、でも本当は消太さんのことが親としてじゃなくて個人として・・・恋の意味合いで好きで・・・

何が『相澤名前として頑張ります』だ!僕は何て醜いんだ!そうやって、消太さんへの恋心を自覚した時から、僕は長いこと自分を責め続けたんです。


・・・でも数年前のあの日、自分が敵の子供だと知って何か納得しちゃったんですよ。

あぁ、だから僕はまともな人間になれなかったんだ。

イレイザーヘッドという素晴らしいヒーローのもとで育ったのに、名前という人間はあまりに愚かしく浅ましく・・・






本当は胸を張って消太さんの息子であると言い切りたい。

でもそれは出来ない。僕は消太さんに息子として抱いてはいけない感情を抱いているのだから。


ごめんなさい消太さん。大好きなんです消太さん。

この気持ちが消太さんを裏切ることになることを知っています。でも好きです。我慢出来ないんです。

もし消太さんに拒絶されれば、僕は迷わず敵の手に落ちるでしょう。まるで脅しみたいですね、やっぱり僕はまともじゃない。




「おはよう、相澤会長!」

「おはよー生徒会長!」

学校に近付くにつれて声を掛けてくる同じ中学校の制服を着た生徒達が増えてくる。

僕はそれに笑顔で返しながら、胸に湧き出す真っ黒でどろどろした感情を必死で圧し留めた。





私は貴方に不釣り合い





もし僕が敵になるようなことがあったら、せめて消太さんの手で終らせて欲しい。

そう思うのは我が儘だろうか。



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