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とある日の休み時間、その人物はやってきた。


「焦凍さん、お久しゅう御座います」

「・・・名前」


和服を華麗に纏う黒髪美少女。突然A組にやってきたその人物に自然と生徒達の視線が集まる。

どうやら美少女は焦凍の知り合いらしく、その美しい顔に穏やかな笑みを浮かべ口を開く。


「お父様はお元気でしょうか」

「何しに来た」


一方焦凍の方の表情はあまりよろしくない。

眉間にしわを寄せ、睨む様に美少女を見る。

しかし美少女は全く臆することなく、むしろその口元に浮かんだ笑みを深くしそのまま言葉を続ける。



「母がご挨拶せよと。焦凍さんがお元気そうで何よりです。クラスの方々とは上手くやっておいでですか?」

「手前には関係ないだろ。帰れ」

「ふふっ、焦凍さんは相変わらず私のことがお嫌いなのですね。えぇ、焦凍さんがそう仰るなら大人しく帰りますとも。何かご用があれば何なりとお申し付けくださいませ、名前は普通科におりますから」

くるりと美少女が身を翻せば着物の袖がゆらりと揺れる。

優雅なその動きに何人かの生徒が思わず感嘆の声を上げる中、美少女は廊下を歩きその場を去って行った。



少女が去ると焦凍は迷うことなく自分の席へと戻り、少々乱暴に席に着く。相当苛立っている様子だ。


「な、なぁ轟、あの和服美少女、知り合いなのか?」

焦凍が苛立っているのはわかるが、それよりも先程の美少女が気になった上鳴がそそくさ近寄り問いかける。



「・・・小さい頃から一緒にいる、親父のサイドキック勤めてるヒーローの息子だ」

「へぇ!じゃぁ幼馴染ってヤツ・・・ん?息子?」

上鳴も、こっそり話を聞いていた他の生徒達も「おや?」と首を傾げる。


「え、え?えーっと、つまりさっきの和服美少女は、ん?は?おと・・・男!?女装した男!?っつーかそもそも何でさっきの子制服着てなかったんだ!?何で和服!?」

「さぁな。学校側に許可を取ってあの格好をしてるらしいが、興味ねぇ」

吐き捨てる様に言う焦凍。相当あの美少女、否女装少年の名前が嫌いなのだろう。


「あ、あの美少女が女装した男・・・昔からなのか?」

正直あの美少女が男だったのはショックだが今度は別の興味が沸いて来た上鳴。質問は止めない。




「出会ったのは幼稚園の時で、出会ってからずっとあんな感じ。・・・俺がアイツが男だって知ったのは、中学の入学式だ。男用の制服姿で現れたアイツを見て、初めて知った」

「そ、それまでは?」


「ずっと女だと思ってた」

ぐっと焦凍の拳が握りしめられるのを見て、上鳴も見守っていた生徒達も「まさか・・・」と口に手を当てる。




「もしかして轟ちゃんの初恋の相手なのかしら」


「うっわ直球!」

話を聞いていた蛙吹がこてんっと首を傾げながら問う。焦凍は押し黙ったが、それは肯定と同義だ。


「要するに初恋の相手が実は女装のした男だって知って、ショックのあまり嫌いになったってことかしら」

「う、うわぁ、轟どんまい」


「・・・別にそんなんじゃねぇ」

そんなんじゃないと言いつつ表情は酷い。手酷い裏切りに遭ったと言わんばかりの険しい表情だ。



「で、でもそれって名前くん?のせいじゃないよね。あんな風に邪険に扱うのはちょっと可哀相じゃない?」

「・・・・・・」

恐る恐ると言った風に声を上げた麗日。確かに、と生徒達が頷く。



「まぁ轟の態度が露骨に悪い一方で、あっちは全然気にしてない風だったけどな」

「・・・・・・」

「轟がどんな反応しようと大して気にしてないんじゃないか?」

「・・・っ」

生徒達が口々に言う言葉に、次第に焦凍が項垂れて行く。

それに気付いた蛙吹がまたはっきり言った。




「もしかして、それが気に入らないのかしら。自分はこんなに気にしてるのに相手は全然気にしてないし、意識してたのは自分だけだったってことを見せつけられちゃってショックとか」


「容赦ないな蛙吹」

「梅雨ちゃんと呼んで」

焦凍は声を発しない。いや、発することが出来ないのだろう。先程から遠い目をしている。

これはちょっと可哀相だな、と思った生徒達。今のままでは、名前を邪険にする度に焦凍のライフも減って行くだろう。



「一度ちゃんとお話しした方が良いわ」

「・・・そうだな」

消え入るような声で返事をした焦凍は、ふと思い出したように鞄の中に手を入れ、取り出した携帯電話を耳に当てた。



「あ、もしかして電話番号知ってるのか」

「・・・母親の方から教えられた。連絡するのはこれが初めてだ」

生徒達は行く末を静かに見守る。

繋がったのか、焦凍は「・・・よぉ」と声を上げる。



「・・・昼休みもう一度クラスに来い。後、女装はしてくんなよ」

言い方が酷いが再び話すチャンスは出来た。


一方的に喋って一方的に電話を切った焦凍。後は昼休みを待つだけ。

そこで問題が起こった。








「しょ、焦凍くん、来たよ・・・」

「・・・・・・」

「あ、あの、何か用、かな?その・・・」

名前らしき人物は来た。来たには来たのだが明らかに様子が可笑しい。


雄英の男子生徒用の制服を来た黒髪ショートカットの美少年。

美少年はがくがくと身体を震わせ、今にも泣き出しそうな顔で教室の入口に立っていた。


「・・・なんで怯えてんだ」

「じょ、女装してないと、そのっ、周りの視線が怖くて・・・」

「怖い?何でだ」

焦凍が近づくと更に怯えたような顔になる。


女装している時とは大違いのその姿に焦凍は内心混乱する。そして名前の口から告げられた『真実』に更に混乱することとなる。



「お、お母さん、子供は絶対女の子が欲しかったのに、僕が生まれちゃったから・・・男の僕はいらないし、じょ、女装してればお母さん優しいし、周りも優しくしてくれるし・・・だから男の僕は駄目なんだっ」

「・・・・・・」

わぁ闇が深い、と呟いたのは誰だったか。



「しょ、焦凍くんだって男の僕嫌だもんねっ・・・」

「いや、別に・・・」


「嘘だっ、だって焦凍くん、女装してない僕を見て凄く怒ったし、ぼ、僕やっぱり女装してないと無理っ」

これは弁解の余地が無い。

黙った焦凍に名前の身体の震えは一層酷くなる。



「ほ、ほんと駄目なんだ、男の僕。だ、誰も、誰も必要としてないし、は、早く女装しないと、お母さん怒るっ、こ、怖い・・・ごめっ、ごめんなさい・・・男でごめんっ」

明らかにパニック状態だ。

顔は真っ青で冷や汗を掻いており、よろよろと身体をふらつかせる。



「うっ、も、もう無理、焦凍くんごめっ、僕もう帰る、こ、怖いし、は、吐きそう・・・」

そう言うと「うぷっ」と口を押えて後ずさる名前。このままじゃ不味いと思った八百万が「名前さんこれを!」と言いながら駆け寄る。

差し出したのは黒髪ロングのカツラ。名前は驚いた顔をしながらも震える手でそれを受けとり装着する。

すっと名前の体の震えが止まった。



「・・・御見苦しいところをお見せしてしまいました。焦凍さん、名前はそろそろお暇します。A組の皆さんも、お騒がせして申し訳ありません。それでは」

先程のことが無かったように穏やかな笑みを浮かべてそう言った名前はカツラをくれた八百万に丁寧にお礼を言うとそのまま去って行った。








「・・・・・・」

「え、えっと、轟?その、お互い事情があったんだな・・・」

焦凍はとぼとぼと自分の席に戻り、それから崩れ落ちる様に席に着いた。耐え切れない事実だったのか、顔を机に突っ伏している。


「・・・名前に悪いことをした」

漏れ出すようなその声。生徒達は微妙な表情でそれを見守っている。誰があんな事態を想像出来ただろうか。



「アイツはアイツなりに悩んでることが沢山あったのに、俺はそんなことも知らず一方的にアイツを罵倒して・・・それなのにアイツは全然怒ってないし、むしろ男だったことを謝ってて・・・俺は最低だ」

「げ、元気出せって轟!これからちゃんと話し合えば良いって!」

励ます上鳴の言葉に焦凍はゆっくり顔を上げる。



「・・・そうだな。男だとか女だとか、そんなの小さな問題だった」

「ん?お、おう」


「これからは俺が男の名前を受け入れる。何時か名前が男のままでも怯えなくて済む様にしてやる」

「えーっと、が、頑張れよ!」


「あぁ」

何かを決意したような焦凍に上鳴はとりあえず激励の言葉を贈った。







女装してる彼の事情







「名前、俺はお前が男でも好きだ」

「ふふっ、突然どうしたんです焦凍くん。好きだと言って頂けるのは光栄ですが」


「むしろ男であることに怯えるお前を俺が守る。俺に会いに来るときは女装しないでくれ」

「まぁまぁ、焦凍くんったら何故そのような世迷い事を仰るのですか」



「・・・轟の告白が世迷い事扱いされてる」

道のりは長い。



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