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ヒーロー科1年B組、名字名前という少年は酷く泣き虫だ。


綺麗な金髪と青い目を持つ整った顔立ちの少年はまさしく『王子様』と呼ばれて差し支えないはずなのに、いかせん彼は涙もろくていけない。

周囲から『涙の王子』などと噂されるぐらいには、彼は常に涙ぐんでいるし、酷い時には顔を手で覆って泣いている。



何ゆえ彼はそんなに泣くのか。

彼が泣く理由はいくらでもある。


例えば今朝のテレビのニュースで何人かの人間の不幸を知った。泣いた。

例えば国語授業で教科書の中の物語の登場人物の一人に感情移入した。泣いた。

例えばクラスの誰かが怪我をした。泣いた。

例えばクラスの誰かが誰かと喧嘩をした。早く仲直りおしよ、と泣いた。


ほら、理由なんて探せば幾らでも。言い始めたらきりがない。

綺麗な青い目からぽろぽろ流れる涙は正直言って綺麗で、それに見惚れる生徒だって実はこっそり存在する。



そんな彼は最近、ある同じ理由で涙を流すことが多くなった。







「何故お前は俺を見て泣くんだ」


ぼろぼろと涙を流しながら相澤を見る名前に、相澤は呆れたような顔をする。

名前は次々溢れてくる涙をハンカチで拭きながら、へにゃりと眉をされた。



「相澤先生のっ、ん・・・目は赤くて、泣いてる・・・うっ、みたいで」


初めて出会ったのは廊下の真ん中。

正面から歩いて来た相澤の顔がしっかり確認出来る距離まで近づいた瞬間、彼の涙がぼろりと零れた。


目の前で突然泣き出す生徒がいれば教師である相澤は立ち止まらないわけにはいかない。

しかしすぐに名前があの『涙の王子』だと理解し、相澤は自分が厄介ごとに首を突っ込んでしまったのだと知り、立ち止まったことを後悔した。



名前はどんな小さなことにでも泣いてしまうぐらいに涙もろい。つい最近クラスメイトが冗談で「名前はそのうち泣き過ぎてミイラになっちゃいそうで心配だなぁ」と言った。すると名前は泣いた。ミイラになるんじゃないかと心配してくれるその気持ちが嬉しかったのだと言いながら。

因みにそのクラスメイトである物間は照れて赤くなった顔で「そ、そんなことで泣くな!」と怒鳴り、それ以降は不用意な冗談を口にはしていない。





「う、ぐすっ・・・先生、目は痛くないですか?」

「まぁドライアイだからそこそこな」


「やっぱりっ、痛いんですね!」

ぶわっと流れる涙の量が増え、相澤は顔を引き攣らせる。


大丈夫だと言っても「無理をなさってるんですね!」と泣くし、もう何を話したって名前は泣くのだ。ついうんざりだと思ってしまう程に。




「お前はそんなに泣いて、疲れないのか」


「んっ・・・ほぼ無意識に、出ちゃうので」

もはや涙が個性なのでは。



「お前、人を見ただけで泣くのいい加減にしろ。そんなことでヒーローをやっていけると思ってるのか」

涙が流れればそれだけ視界が歪む。視界が歪めばそれだけ隙が出来る。

敵との戦闘中に生じた隙は命とりだ。


相澤の言葉に名前はハンカチで涙を拭いながら「あのっ」と鼻を啜った。


「僕が、一目見ただけで泣いてしまうのは、相澤先生だけです」

涙声で発せられた言葉に、相澤は眉を寄せた。





「先生が痛そうだったり、悲しそうだと、涙が止まらないんです」





ぼろりと大きな雫が綺麗な目から零れ落ちて、床に小さな水玉を作る。


「俺が痛くて悲しいのに、お前が泣いてどうするんだ?」


「先生はきっと、どんな時も涙を我慢しちゃうだろうから、僕が泣くんです。沢山、先生の分まで。だって、先生に涙を我慢して欲しくないから」

そんな台詞の後で、廊下にチャイムが響いた。



名前は慌てたようにまた溢れて来ていた涙を拭い「遅刻しちゃう!相澤先生、ではまた!」と言いながら廊下を駆けて行った。


廊下を走るななんてベタな台詞は吐かない。

その代わり相澤は、去って行く名前の後ろ姿をただ只管に見ていた。






「・・・まるで告白だな」

思わず呟いた言葉に相澤は後悔した。






涙の王子様






涙ばかり流す生徒よりおそらく先に気付いてしまった生徒の恋心を、相澤はどうすべきかまだわからない。




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