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両親が敵です。

妹が最近友達を絞殺して敵になりました。


僕?僕はまだ敵じゃないです。けど、敵になる可能性が高いからと警戒されてます。

勉強も自宅・・・というか施設で勉強です。

両親は既に捕まっているし、敵の子供を引き取りたいなんて人もいないから、国の管理する施設で生活してるんです。


つい最近までは妹も一緒に生活してたんですけど、現在逃亡中のためついに僕一人になってしまいました。世知辛い世の中です。




施設にある自分の部屋で目をさまし、窓際で育てている小さな花の苗に霧吹きで水をやる。これが僕の朝のスタート。

部屋から出れば施設の職員さんがいて、僕は「おはようございます」と挨拶をした。返事はなかった。


洗面所で顔を洗って、僕と同じように施設で生活をする同世代の子達といくつか会話をして、それからご飯を食べる。

お世辞にも豪勢とは言えないけれど空腹を満たす分には申し分ないご飯を食べたら学校に行く同世代の子達を見送る。


僕は施設で勉強しているのに他の子達は学校に行くのかって?施設にはルールがあって、危険視されているレベルが低いと学校に行っても別に構わないんだ。

僕みたいに両親共に敵で、尚且つつい最近妹まで敵になったのだから、僕の危険視レベルは天元突破。

まぁある一定の期間が過ぎれば施設を卒業して普通の生活が出来るそうだから、もうしばらくの我慢なのだ。まだ中学生だから、軽く見積もってもあと数年はこのままだけど。



見送りをしたら少し暇な時間が出来る。

施設の敷地外には出られないけれど、敷地内をぐるぐる散歩することは可能だ。

今日の勉強は部屋で自主学習の予定だし、時間はたっぷりある。





「名前くん、おはよう」

「おはようございます、弔さん」


施設の関係者しか入れないはずの敷地内に施設に似つかわしくない人が現れ始めたのは、半年ぐらい前からだ。

自らを『死柄木弔』と名乗った僕より年上のその人は、敷地内の隅っこにあるベンチによく表れる。どうやって侵入しているのかは知らないけど、それを聞こうとは思わない。どうせ個性だ。




「妹が敵認定受けたらしいじゃん。おめでとう」

「めでたくはないですけどね。おかげで、学校に行ける日が遠のきました」

弔さんが腰かけるベンチに近付いて隣に腰かける。

施設の職員さんは何人かいるけれど、常に見張られているわけじゃない。自由な時間もある程度あるし、朝は特に職員さん達が忙しいから、こうやって僕が侵入者である弔さんと喋っていたって気付かれない。


隣に座った僕に弔さんが笑う。弔さんは割とフレンドリーな人だ。




「名前くんさ、いい加減俺と一緒に来ない?此処、居心地悪いだろ」

初めて会った時は「お前があの雑魚夫婦の餓鬼?へー、思ってたよりマシ」と口にしていたけれど、最近ではこうやって僕を勧誘してくることが増えた。



「確かに施設で毎日監視されてるのは良い気分じゃないですけど、生活し辛いわけじゃないので」

「名前くんの妹の・・・名前何だっけ、忘れたけど、ソイツも保護してやるけど?」


「妹はたぶん一人でも大丈夫です。あいつ、結構タフなので」

ヒーロー三人ぐらいに追われながらも見事逃げ切った妹は今日も何処かで犯罪行動を繰り広げているのだろう。

一度人を殺して吹っ切れたのか、僕の前から姿を消す直前に「お兄ちゃんもやってみると良いよ!」と素晴らしく輝いた笑顔を見せてくれたが、生憎僕は敵になる予定はない。




「つまんねーの」

少し唇を尖らせながらそういう弔さんは、僕より年上のはずなのに妙に子供っぽい。けれどそれを言ったら怒ると思うから、言わない。



「現状に不満が出来たら、お願いします」

「・・・へー、不満出来たら一緒に来てくれんの?」

にたりと何か悪だくみを思いついたような笑みを浮かべる弔さんに下手なことを言っちゃったな、と後悔。



「施設と破壊するとか、施設職員を消しちゃうとかは無しですよ」

「何だよ、我が儘だな」

指と指で両頬を掴まれ、びろんっと引っ張られる。痛い。


僕も対抗して弔さんの頬に手を伸ばしてぐにぐにと手の平の中で頬を押すと、ブニッと唇が突き出た弔さんが「やーめーろー」と更に僕の頬を引っ張った。やっぱり痛い。

お互いにお互いの顔をぐにぐにむにむにと弄っていると、不意に弔さんの手が止まった。



「ちっ、そろそろ時間か。・・・じゃーね、名前くん。また明日来るから」

頬を引っ張る手が離れ、代わりにずいっと近づいてきた弔さんの顔。

ちゅっと軽く弔さんの唇が僕の唇に当たると、そのまま弔さんは黒いもやもやに包まれて消えた。




「・・・不満は無いんだよなぁ」

衣食住はちゃんとある。学校に行けないけど勉強は出来る。暇な時間は自由に使える。こうやって弔さんが毎日僕に会いにくる。親からの愛情も周囲からの愛情もなかったけれど、弔さんからの愛情はある。

ほら、不満なんて何処にもない。



「そろそろ勉強しようかな」

僕はベンチから立って、建物の中に入った。






施設崩壊フラグ







この数日後、施設は敵の襲撃に遭い、複数の施設職員と施設に入居していた子達が重軽傷を負った。急行してきたヒーローのおかげで死者は出なかったことだけが救いだ。


「施設に不満出来た?」

「不満を抱く施設がなくなっちゃったので、どうとも言えません」

「住むとこないなら、俺とおいでよ名前くん」

差し出された手。五本あるうちの一本の指には、くるくると包帯が巻かれている。僕はその指をちらりと見てから、困ったように笑う。



「施設と破壊するとか、施設職員を消しちゃうとかは無しですよって言ったのに」

「施設は壊してないし、誰も死んでないから、セーフだろ?」


「それって屁理屈ですよ、弔さん」

そう言いながら弔さんの手を握ると、弔さんは嬉しそうに笑って、そのまま僕も弔さんも黒いもやもやに包まれた。




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