×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





相澤先生は、僕を気にかけてくれる良い先生だ。


両親共に元雄英生で、相澤先生が学生時代の頃の先輩だったそうだ。

僕は全く覚えていないが、僕がまだ赤ん坊の頃には相澤先生は僕等家族と頻繁に会っていて、僕を腕に抱いたことまであるらしい。
これが事実だと物語るように、僕の家にある古いアルバムには赤ん坊の僕とまだ若い相澤先生のツーショット写真が残されている。


相澤先生が僕等家族と頻繁に会っていたのは僕が赤ん坊の頃だけ。後はお互いの仕事が忙しかったり微妙に休みが合わなかったりでなかなか会えなかったようだ。

・・・まぁ、その後両親はついぞ相澤先生に直接対面することはなかったが。


察しの良い人なら気付いていると思うけれど、はっきり言ってしまえば両親は既にこの世にはいない。

雄英の卒業生らしくヒーローをやっていた両親は、ある日敵にやられて死んでしまったのだ。そんなに有名なヒーローではなかったからか、新聞で小さく記事が載る程度の、小さな小さな事件だった。



僕が相澤先生と出会ったのはお葬式。相澤先生からすれば初対面ではなかったけれど、赤ん坊の記憶が無い僕からすれば事実上初対面だった。

葬儀が終わり、遺骨の入った箱を抱えながらぽつんと立っていた僕に声をかけてきたのが相澤先生。


最初の言葉は何だったかな、あぁ確か「・・・久しぶりだね、名前くん」だったと思う。最後に会ったのが赤ん坊の頃だったからなのか、その口調は何処か小さな子供に掛けるようなものだった。当時僕は中学に入学したあたりだったけれど。



両親を失った僕はもちろんだが身元引受人が必要だった。

身元引受人を探す段階で発覚したことだが、どうやら両親は家族の反対を押し切ってヒーローになったらしく、両親共に家とはほぼ絶縁状態だった。

とはいうものの、誰かが僕を引き取らなければならない。


結局のところ、物語ではよくある『たらい回し』で僕の中学二年間は終わった。

三年生になる頃には「もう一人で生活できるでしょう」と言われ、両親と共に住んでいた家で一人暮らしをすることになった。


中学生相手になんて対応だ、と思うかもしれないが、僕としては僕の身元引受人になってくれた人たちは割かし『良い人』の分類だと思う。

知名度は薄くてもヒーローはヒーロー。死した両親が残した遺産はそこそこあった。しかし身元引受人になってくれた人たちはそれには一切手を付けず、僕が将来一人で生きていくための資金として残してくれた。普通なら、幾らか使いこまれたって可笑しくはないのだ。だからあの人たちは割かし『良い人』なのだ。


そんな良い人たちは一応一人ぼっちの僕を哀れんでくれていて、一人暮らしはさせるもののある程度の仕送りはしてくれた。それにプラスして遺産。うん、結構裕福な暮らしが僕は出来ていた。

何時の間にか料理を覚えた。何時の間にか掃除洗濯を覚えた。

そろそろ受験を考えないといけない時期になる頃には、もうすっかり僕の一人暮らしは板についていた。


受験先はとっくの昔から決めていた。雄英だ。


両親が通っていたからというのもあるし、何より今住んでいる家から近かった。後者が一番の理由だろう。

雄英のヒーロー科は倍率が有り得ないぐらい高いのは知っていたけれど、両親がヒーローでその両親の個性のそれぞれ良いところだけを受け継いでいた僕は何となくヒーロー科を受験した。


何となくで受けたヒーロー科の試験。まぁ途中危ないところはあったけれど、そこそこの成績は残せていたと思う。

その帰り道だ。




「名前くん」

相澤先生と再び再会した。




お葬式の時に声を掛けられたから相澤先生のことは覚えてて、けれどこんなところで会うとは思わなくて絶句する僕に相澤先生は「受験、頑張ってたな」と一言。

聞けば相澤先生は雄英の先生で、受験風景も別室から見ていたらしい。まさか僕が受験するとは思わなかったから驚いたとかいろいろ言っていたけど、よく思い出せない。あ、でもその後に奢って貰ったファミレスの和風ハンバーグの味はよく覚えてる。


僕が和風ハンバーグを食べている間何故か水しか飲んでなかった相澤先生に「今どうしてるんだ」と聞かれ、僕は正直に「一人暮らし」と答えたけれど、その答えを聞いた瞬間の相澤先生の眼光は和風ハンバーグの味の次に忘れられそうにないかもしれない。

そして低い声で「詳しく話してくれ」と言う相澤先生に洗いざらい話した結果、相澤先生は高頻度で僕の家にくるようになった。



結果的に雄英には見事ヒーロー科B組として合格を果たし、晴れて高校生となった。とはいえ世間的にはまだまだ子供な僕が一人暮らしをしているという事実は、ヒーローとしても教師としても見過ごせなかったのかもしれない。

たまにお土産の御惣菜を持ってきてくれるから、正直とても有難かった。











今日も夜玄関のチャイムが鳴って「はいはい」と返事をしながら玄関へと歩く。

今日は何時もより遅かったな。たぶん会議とか何かが長引いたんだ。特に気にしてないけれど。


玄関の扉を開けば相澤先生がそこにいて「悪い、遅くなった」と言いながら慣れたように家に入ってくる。



「別に良いですよ。あ、晩御飯食べます?僕はもう食べちゃったけど」

「いや、良い」

これがあるから、と言ってポケットから取り出したゼリー飲料に内心呆れつつ「そうですか」と頷いた。食べ盛りの身としては、そんな食生活はちょっと考えられない。


毎日この家にくるから、もう相澤先生がこの家に住んでいるんじゃないかと錯覚してしまいそうだ。



「宿題は終わったか」

「マイク先生の宿題は終わりましたけど、ミッドナイト先生のがまだです」

「見てやろうか」

「相澤先生疲れてるでしょ、ソファでゆっくりしてて」

そう言いながらリビングのテーブルの上に広げたままだった宿題と再び向き合った。


僕に言われた通りソファに座った先生は時折こちらを見つつ、夕食代わりらしいゼリー飲料を飲んでいた。





「・・・此処までかな」

一部わからないところがあったけれど、そこはB組のクラスメイトにでも確認しよう。

相澤先生がいるけれど、何となく先生を頼るよりもクラスメイトと聞きあった方が良い気がするのは僕だけだろうか。


「終わったのか?」

「はい、一応」

何時の間にやら僕の傍にいた相澤先生に特に驚くことなく返事をする。僕が宿題をしている間、さぞ暇だったろう。



「あぁ、すみません。碌に相手も出来なくて」

「いや、今日は俺が来るのが遅かったから。名前くんもそろそろ寝た方が良い。明日はB組は一限目から実技だろう」


「もうそんな時間でしたっけ」

相澤先生の言葉に時計の方へ視線を向ければ、確かにもう遅い時間になっていた。

普段なら今より数時間も前に帰るけど、大丈夫だろうか。いや、教員をやってはいるけれど相澤先生はヒーローだし、そこらの敵には負けないだろうけど。



「そうだ、もう遅いなら泊まって行けば良いですよ。うちからだと、雄英近いし」

思いついた言葉をそのまま言えば、相澤先生の目がぱちぱちと瞬いた。


「・・・いいのか?」

「はい。部屋は廊下の突き当りの方を使ってください」

廊下の突き当たりにある部屋は両親が生前使っていた部屋だ。ある程度の片付けはしているものの、使う人間がいなくなったその部屋は少し虚しく感じる。



「前にも泊まったことあるからわかりますよね?朝はタオルとか好きに使って良いんで。あ、歯ブラシの場所覚えてます?」

「あぁ、大丈夫だ。有難う名前くん」

「いえいえ。じゃぁ、おやすみなさい相澤先生」

相澤先生の口から「おやすみ」という言葉を聞いてから、僕は宿題をかき集めて自分の部屋に戻った。













ベッドに入り目を閉じてからしばらく。

一度は沈んだ意識がふいに浮上した。


その時丁度、寝室の扉が小さく音を立てて開かれる。それを僕は気付かないフリをした。

しばらくの沈黙。足音はないけれど、何となく誰かが近づいて来るのを感じた。



「名前くん・・・」

ぎしりとベッドが鳴る。

この声は相澤先生だ、と僕は特に慌てることなくそう思う。


先生は僕が完全に寝入っているものだと思っているらしく、ベッドの軋みは僕の顔の傍まで来た。顔の隣に手が置かれているようだ。

上に覆いかぶさっているような気配。気配を読むのが得意というわけではないが、こうも至近距離だと嫌でもわかる。




それに、実はこういうことは初めてではない。

相澤先生がこの家に泊まるのは何度かあって、そのうちの何回かはこういうことがあった。


深夜にこっそり僕の部屋に侵入して、眠る僕に覆いかぶさる。

最初のうちは特に何かするわけでもなく、ただただ小さな声で僕の名を呼んで、僕の寝顔を見つめていた。


けれど最近になって、その行為は少しずつだがエスカレートしていっている気がする。

まずは頭や頬に触れられるようになった。

手が頬から唇をなぞる様になった。

まるで甘える様に胸元にすり寄られたこともあった。


そして今夜は・・・




「名前くん」

唇にやんわりと合わされた唇。僕は眠っているフリを続けた。


起きている間は絶対こんなことはしない。

あくまで、両親を失い親戚からはたらい回しにされた一人暮らしの不幸な高校生の様子を見に来ているだけ。


もしかしたら僕の寝たフリに気付いているのでは?と思ったことがある。

けれどどうやら、先生は僕に触れたりするのに夢中で気付いていないらしい。それに加え、回数が増えれば増えるだけ僕のフリも上達していた。

時折わざと「んっ」と起きそうになるフリをすれば先生は息を飲む。ほら、気付いてない。




「名前くん・・・ごめん」

また唇が合わさる。夕食代わりに飲んでいたゼリー飲料のせいか、ほんのりと桃の味がした。


「ごめん、ごめん・・・」

謝罪は何度聞いただろうか。

当然か。ヒーローであり教師である存在がが子供に、それも赤ん坊の頃を知っていて、しかも眠っている、そんな子供相手に覆いかぶさってキスをして・・・

バレたらただ事じゃ済まされないことを、相澤先生はしている。




「名前くん・・・好きだ」

唇を離し、僕の口元を指の腹で拭うと先生はゆっくりと僕の上から退いた。

そのまま気配は離れ、最後に扉が閉まるパタンッという小さな音が響く。


そこで僕は漸く目を開けた。



「・・・馬鹿な人だ」

そうは言いつつも、相澤先生のためを思って今日も眠っているフリを続ける僕も、大概馬鹿なのかもしれない。







失格者の愛情表現







勝手にこんなことして勝手に罪悪感感じて、本当にどうしようもない人だ。

もし僕が起きているうちに、起きている先生に不意打ちでキスでもしてやれば、その罪悪感を少しは軽減させてやれるのだろうか。


まぁ良いや、深く考えるのは止めよう。明日は一限目から実技なんだ、ゆっくり休んでおかないと。




戻る