※この物語は長編『深層魔人心理論』の番外編です。
「弥子ちゃん、これはこっちで良い?」
本棚の整理をしていた弥子ちゃんに両手に抱えた段ボールを見せる。
「はい!・・・あー、名前さんが居てくれて助かったぁ。ネウロだったら絶対に手伝ってくれなかったし」
そう言いながら弥子ちゃんは私が床におろした段ボールの中身をせっせと出す。
弥子ちゃんにお願いをされたのは昨日の夕方。
何があってそう思い立ったのかは知らないけれど、弥子ちゃんは「部屋の模様替えをしたいから手伝って欲しい」と私に言った。
部屋の模様替えがしたい。その前に大掃除がしたい。
けれども家には男手なんてなくて、お手伝いさんにもあまり迷惑はかけたくない。
そこで白羽の矢が立ったのが私だったという訳だ。
最初は吾代くんにも頼もうとしたみたいだけどね。
普段から弥子ちゃんにはネウロが迷惑をかけているし、こういうお願いなら可愛いもの。二つの返事で了承した私を弥子ちゃんが拝んでいたのは記憶に新しい。
「名前さん、見た目は人間だけどやっぱり魔人なんだなぁ・・・凄い力持ち」
「まぁ、これぐらいなら軽いよ。机はこっちに移動させる?」
「あ、これはもうちょっとこっちに・・・ほんと、名前さんには頭が上がらないや」
弥子ちゃんが小物を片付けている間に私は大きな家具を移動させる。
その途中、床の上に置き去りになっていた本を見つけ、家具を片手で持ちながらそれを拾った。
「弥子ちゃん、これは?」
「あっ、それは私のアルバム・・・わ!これ懐かしい!」
私から受け取った冊子を開いた途端にパッと顔を輝かせた弥子ちゃん。
覗きこめば、今よりも小さな弥子ちゃんが写真の中に納まっていた。
「へぇ、可愛いね弥子ちゃん」
「有難う名前さん。・・・あ!ねぇ名前さん、名前さんの小さい頃って、どんな感じだったの?というか、魔人に子供時代ってあるの?」
「んー、最初から大きく生まれてくるのもいるし、そうじゃないのもいるけど・・・」
「名前さんは?」
「私の場合は・・・んー、秘密かな」
私の言葉に「えー!残念!」という弥子ちゃんについつい笑ってしまう。
「じゃぁ、子供の姿だけでも見る?」
「え!?子供の頃の写真とかあるんですか!?」
「写真とかじゃなくて」
私は家具を床におろしてから、ちょっと力を込めた。
するとあっという間に私の目線は弥子ちゃんより低くなる。
唖然と私を見下ろす弥子ちゃん。
「じゃぁ、模様替えの続きをしようか」
「いやいやいや!何普通に家具持ち上げてるの、名前さん!」
まぁ小学校低学年ぐらいの姿をしたものが自分の場合以上はある家具を片手で持ち上げたら驚くか。
「・・・ということで、名前さんが小さくなってしまいました」
「ほぉ」
弥子ちゃんの部屋の模様替えは案外すぐに終わった。
途中部屋の様子を見に来た弥子ちゃんの母親に「あら?その子は?」と聞かれ「名前さんの親戚の子!」と慌てた様子で応えていた弥子ちゃんは、部屋の模様替えが終るとすぐに私を事務所へと連れてきた。
手を繋いで「歩くの速くない?抱っこする?」と私を気遣ってくれていたけれど、小さいのは見た目だということを弥子ちゃんはあまり理解出来ていないのかもしれない。
「随分面白い姿に化けたな、名前」
椅子から腰を上げたネウロがつかつかとこちらに近付いてきて、僕を見下ろす。
弥子ちゃんよりも身長が高いから、まさに見下ろしている状態。
けれども普段とは違うそれにネウロが慣れなかったのか、唐突に首根っこを掴んで持ち上げ目線を合わせてきた。
「あ!ちょっとネウロ!名前さんに乱暴しないでよ!」
「ふんっ、このゾウリムシめ。名前が幼いのは姿だけで、後は何も変わりないぞ」
「傍から見たら子供虐めてるようにしか見えないの!」
バッとネウロの手から私を奪い、ぎゅーっと抱き締めて来た弥子ちゃんに苦笑い。
「弥子ちゃん、大丈夫だから気にしないで」
「名前さん・・・」
「ね?」
笑顔でそう言えば、弥子ちゃんは渋々といった感じではあるけれど私を離してくれた。
それからしばらくして弥子ちゃんは「じゃぁ私帰るけど・・・ネウロ!名前さんに酷いことしないでよね!」と言い残して事務所から帰って行った。
残されたのは私とネウロと、それからアカネちゃん。この身長だとアカネちゃんの毛先に触れるので精一杯。
「名前」
「ん?どうかした、ネウロ」
アカネちゃんの毛先を指で触れていた私の身体が浮く。またネウロが首根っこを掴んだからだ。
私を持ち上げたままソファへと歩き、そのままドサッとソファに座ったネウロ。その膝の上に私が座らされる。
「こうやって名前を膝に乗せるのも悪くないな」
「普段は私が膝にのせているからね」
ネウロの長い腕が、ネウロの身体を背もたれにして座る私の身体を包む。
「腕にすっぽり収まる」
肩に顎が載せられて少しくすぐったい。
「ふふっ、随分楽しそうだね、ネウロ」
すりっとネウロが私の頬に顔を摺り寄せたあたりでそう言うと、ネウロが私の頬に口付けニヤリと笑った。
「悪くないな」
「それは普段の私より良いって意味かな?」
くるりと振り返ってネウロの唇にキスをすればすんなりと受け入れられ、深いキスへと変わる。
身体が小さいから、当然口も舌も小さくて、少し新鮮。それはネウロも同じだったみたいで、唇が離れると心底愉しそうな顔で笑った。私も笑う。
「お前だから良いに決まってるだろう」
「それを聞いて安心したよ」
「ただ」
「ただ?」
「この状態のお前も良いな」
まぁ、わからないでもないけどね。
「ネウロが気に入ったなら、しばらくこれでいようかな」
「それは駄目だ。あのゾウリムシが名前にべたべた鬱陶しい」
ぎゅーっと私を抱き締めながら言うネウロに、私は声を上げて笑った。
「成程、嫉妬か」
「悪いか?」
「ううん。悪くないよ」
私は普段よりも細くて短い腕をネウロの首に回し、ぎゅっと抱き付いた。
お膝にお座りよ
この状態も悪くないなぁ、癖になりそうだ。
あとがき
本編が亀更新のせいで久しぶりにリム君を書きました。・・・更新、頑張りたいです。
個人的な話ですが、小さい子供が大人を攻めてると楽しいです。