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※ロジャー恋人設定。



名前さんとお付き合いするようになってから、どれぐらい経っただろうか。

思いの丈を伝え、名前さんが頷いてくれた瞬間を私は一生忘れることはないだろう。


愛する人と一緒になることが出来た幸せ。けれど不安もある。

私も名前さんも、互いに仕事を持つ立派な大人だ。名前さんは学校の臨時教員と薬問屋の経営、それから数いる弟子達の教育を担っている。私は言わずもがな魔法の国のエージェントだ。


普段は私のエージェントとしての活動のせいで満足に二人の時間が取れず、内心では少し・・・いや、大分不安だった。

そこで私は行動を起こした。


ここ一ヶ月、普段よりも精一杯エージェントとして活動し、やっとの思い出勝ち取った三日間の休暇。あれだけ働いてもきっちりと取れた休みが三日間だけだとは、エージェントの勤務体制に少し問題があるんじゃないか?まぁ、そんなことを気にし始めたのは名前さんとお付き合いを始めてからなのだが。



そして今日は三日間の休暇の栄えある一日目。


当然名前さんという恋人がいる私は、名前さんの自宅へ。

普段は真面目に働いている私だが、恋人と休日を過ごすことに対し憧れが全くないわけではない。


折角の休みなのだ。名前さんの家で名前さんとゆっくりしたい。






「さて、ここまでの調合の手順は覚えたか?次はこれらの薬草を磨り潰していくんだが、ちょっとコツがあって・・・」



だというのにこの人は!

前もって今日私が休みであることを伝えていたはずなのに、何故今日に限って弟子達を集めたんだ!普通そこは、恋人の私と過ごすべきだろう!


弟子に対する教育にも自身の研究に対しても熱心なのは知っている。そんなところも好きになった要因の一つだと言えるが、それとこれとは話が別だ。


憎らしくも愛する人を見詰めても、こちらに視線が向くことは無い。

代わりにちらちらとこちらを気にする名前さんの弟子達が酷く恨めしい。


恋人である私よりも弟子達の方が親しげとはどういうことだ。いや、彼等に嫉妬するのはお門違いだとわかっている。けれどこればっかりは仕方ないだろう。





「・・・じゃぁ此処からは実践だ。各自これまでの説明を踏まえてやるように。わからないところがあれば遠慮なく聞きなさい」

やっと一段落ついたのか、名前さんの声が止む。


弟子達が調合を始めたのを尻目に私はつかつかと名前さんに近付き「どういうつもりですか」と問いかけた。



「何が?」

「予め連絡を入れておいたはずです。今日、私は休みだと」

名前さんが首を傾げる。



「休みだとは聞いたけど、別に何か約束をしたわけじゃない」

息が詰まるような気分だ。


確かにそうだが、普段一緒に過ごせない恋人が休みだと言っているのだから、普通は察するだろう!


そう怒鳴ってやりたいが、別に私は喧嘩をしたくて此処に来たわけじゃない。

ぐっと怒鳴るのを我慢するも、表情には出てしまっていたのか名前さんが「不満だったか」とため息を吐いた。止めて欲しい。まるで彼は私と一緒に過ごすことに興味が無いように見えて、泣きたくなる。



唇を噛み締め、少し下を向く私を名前さんは面倒臭いと思うだろうか。

恋人同士になれただけでも幸せだった。けれど、一度幸せを掴んでしまえばもっともっとと願ってしまう。それは、いけないことだろうか。



・・・所詮私は、名前さんにとってその程度の存在だったのだろう。



もう駄目だ、泣いてしまう。いや駄目だ、そんな醜態を名前さんやその弟子達の前で晒すわけにはいかない。


泣き出しそうなのを抑え、名前さんに背を向けようとした。

しかしそれが出来なかった。




「ロジャー」

名前さんが私を止めたからだ。




私の手を掴んで軽く引いて、そっと私の頬へと手をやる。

泣きそうな顔だ、と呟きながら眉を下げる名前さんに「離してください」と言えば掴まれたままの手が更に強く握られた。



「離してくださいと言っている。私がいても貴方の講義の邪魔になるだけでしょう?私だって別に、貴方の邪魔をしたくて此処に来たわけじゃ・・・」

言葉が止まる。いや、言葉どころか私の動きまで完全に止まった。硬直したと言っても良い。


触れたのだ。名前さんの唇が、私の唇に。

ちょんっと触れる程度の口付け。けれどまさか名前さんからそんなことをして貰えるとは思わず、思わず顔が熱くなるのを感じた。


それと同時にハッとして弟子達の様子をチラ見するが、彼等は気を遣ってくれているのかこっちに視線一つ向けない。

名前さんは眉を下げた困った表情のまま私を見て、口を開いた。






「特に何をやるか決めてなかったから、僕の普段の仕事風景でも見て貰おうかと思ったんだけど・・・どうやら見当違いだったらしい」

「えっ」


「ロジャーはこうやってこの子達に何かを教えているところをあまり見たことがないだろうと思ったんだけど、失敗だった。この子達にも言われたんだ、ロジャーが折角休みなら、今日は止めた方が良いんじゃないかって」


話の流れがわからない。

彼の言葉が本当なら、何か?彼は、私のことを顧みず弟子達を集めたのではなく、私に見せるために・・・




「でも、ロジャーに少し良い格好を見せたかったんだ。ごめん」




私はこれほどまで単純だっただろうか。

彼のその一言で、今までのことが全部許せた。許せるどころか、これまでの彼の行動が全部プラスに感じてしまう。



「今日は講義も早く切り上げる。この子達もさっきから視線で訴えてくるし・・・」

「つ、続きはしないんですか?」


顔が熱い。今すぐにでも彼に抱き付きたい。

けれど今は我慢だ。




「まったく!私に見て欲しいなら、初めからそう言ってください。私の休暇の一日目を勝手に決めたんですから、中途半端な講義では許しませんからね!」

「・・・だそうだ、皆。今日はロジャーが見てるから、普段より真面目にやろう」


弟子達が笑いながら「はい」と返事をするのを見届け、私は格好良い名前さんを見ることにした。







貴方の一番格好良い姿







この講義が終ったら・・・私だけの名前さんになって貰おう。それぐらい望んだって構わないはずだ。



あとがき

普段は研究中のぐちゃぐちゃボロボロな状態ばかり見せているから、たまには弟子達に知識を与える格好良い自分・・・を見せたかった、ちょっとだけ格好付け主。
この後ロジャーとラブラブしたと思われます。



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