※黒の組織(ジン)贔屓。
「名前、そっちはどう?」
カフェの一番奥の席、向かい合って座る男女のうちの一人 FBIのジョディは目の前の名前にそう問いかけた。
「心配ないよジョディ。全部上手くいってる」
「・・・貴方だから大丈夫だろうけど、くれぐれもミスのないようにね」
任務だから仕方ないとはいえ、彼女の目には彼を心配する色がありありと浮かんでいる。
名前はそんな彼女ににこりと微笑みかけ、珈琲を一口。
「わかってるよ。君こそ、働き過ぎないようにね。君のような美人の顔に疲れの色が見えるとそれだけで俺の心が痛んでしまうからね」
「・・・その台詞、別の誰かに言ってあげたら?」
「例えば?」
「私の口から言わせる気?」
彼女の言う『誰か』に心当たりがあるのか、名前は「意地悪が過ぎたかな」と小さく笑った。
「どうせ潜入先は同じなんだ。次に会った時にでも、言っておくさ」
「悪い人ね、貴方って」
「これぐらい悪くなくちゃ、組織に潜入なんて出来ないさ」
冗談っぽくそう言うと残りの珈琲を飲み干し名前は席を立った。
その手に握られているのは店の伝票。
「先に行くよ。君はごゆっくり」
「えぇ、そうさせて貰うわ」
彼女の微笑みを見届けて、名前は喫茶店を出て行った。
出て行った先、迷うことなくとある場所へと向かう。
無機質な扉。それを開いた向こう側にいるのは美しい女性。名前は一番に視界に入った彼女にそっと近づいた。
「やぁ、ベルモット。相変わらず美しいね君は・・・今夜、どうだい?」
「あら、名前・・・ふふっ、素敵なお誘いだけど、止めておくわ。嫉妬で殺されるなんて御免だもの」
「嫉妬?君のような美しい女性は常に嫉妬の的だろうに」
そっと引き寄せられた腰と名前の長い指によって弄られる髪。それを甘受するベルモットはわざとらしく肩をすくめて笑う。
「わかっててそんなことを言うなんて酷い人。そろそろ、あっちの相手もしてあげたらどうかしら」
「美しい君の頼みだ。我が儘な子猫のところへ行こうかな」
「その子猫に噛み殺されないように気を付けて」
ベルモットの言葉を背にひらりと片手を振った名前は、ソファに座って酒を飲んでいるジンへと近づいた。
「やぁ、ジン。ご機嫌は如何かな?」
「お前が来るまでは最高だった」
「それはそれは。じゃぁご機嫌取りに、酌でもしようか?」
隣にどさっと座ればジンから睨むような視線が向けられる。しかし名前は気にしない。
何事にも動じない、掴みどころのない男なのだ。名前という男は。
ジンの手にあるグラスに勝手に酒を注ぎ始める名前に、ジンは少し眉を寄せるも何も言わずその酒を一口飲んだ。
「・・・また、FBIの奴等のところにいたようだな」
「そりゃもう、俺はFBIの一員だから」
「お前の居場所は組織だ」
ジンに睨まれながら、名前はテーブルにあった別のグラスに自分の分の酒を注ぐ。
「俺の居場所を決めるのはお前じゃないよ、ジン」
くいっと一気に煽られたグラスの中から酒が消える。ジンの眼光の鋭さが増した。
カチャリと音がしたかと思えば、名前の米神に冷たい銃口が押し付けられる。
「お前の、居場所は此処だ」
「暴力的な愛は嫌いじゃないが、死にたくはないなぁ」
名前はくすくすと笑い、銃口など全く気にせずグラスに酒を注ぎ直す。
「あぁ、最近はジンのように積極的にラブコールを送ってくれる可愛い子が多くて嬉しい限りだ」
目の前の彼にしても、FBIの彼にしても、公安のあの子しても。
もちろんジンが目の前にいる今は他の誰かのことなんてはっきりとは口にしない。した瞬間、米神の銃口から鉛玉が飛び出すことはわかりきっている。彼自身が言うように、彼は死にたいわけではないのだから。
しかしながら向けられた銃口すらも愛おしいとでも言うように、名前は伸ばした手でジンの身体を引き寄せる。
「嫉妬する君は可愛らしいね、ジン」
「どうやら今すぐ死にてぇらしいな、名前」
物騒なことを言いつつも名前の唇に噛みつく様なキスをしたジンに、唇に血を滲ませた名前は「やっぱり愛が暴力的だなぁ」と笑った。
居付かない彼
「明日は『公安の』名前だから。よろしく頼むよ、ジン」
「精々バレて殺されねぇようにな」
「さてさて、そんなヘマする程俺は馬鹿じゃないよ」
「ふんっ、どうだかな」
さて、彼が本当に所属するのは一体何処なのか。
あとがき
公安、FBI、黒の組織お相手の最強主ということで、相手の指定がなかったので取りあえずジン贔屓になってしまいました。FBIの彼や公安のあの子とは、言わずもがな・・・
主はFBIから黒の組織への潜入が決まり、黒の組織からFBIと公安への潜入が決まり、公安から黒の組織への潜入が決まり・・・正直、どの組織も主は本当は自分のところ所属だと信じて疑いませんが、本当の所属を知っているのは主本人のみ。あ、ある意味最強扱いで良いですかね?(冷汗)
リクエストを勘違いしていたら申し訳ありません。