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※『暗黒空間』シリーズ続編。



「へー!貴方が名前お兄ちゃんのお嫁さんなんですかー!ほんとに男の人で吃驚です!」

「レンから話には聞いていたが・・・悪くない」

「殺人鬼に目を付けられるなんて、相手が名前ってことを差し引いても災難っちゃねー。でもまぁ相手が名前ってことをまず喜ぶべきっちゃよ」


ちゃぶ台の上に置かれたお茶とお茶菓子。自分に興味深々という風な態度の見知らぬ人間複数。

それを目の前にした静雄は、ぱちぱちと目を瞬かせたまま内心は随分と混乱していた。







彼、平和島静雄は普段通りの仕事をこなし、休憩に煙草を吸おうとした。けれども運の悪いことに、煙草が切れていた。


少しイライラしながら煙草を買いに行った直後、目の前に現れたのはニコニコとした笑顔を張り付けた針金細工のような体つきをした長身の男。

その男がつい最近知り合った「正々堂々正面きって、お前を殺したい」などとふざけたことを口にする男の兄だと気付いた瞬間、嫌な予感はしたのだ。


けれどもその時相手は別に自分に危害を加えたわけでもなかったし、正直彼が『ノミ蟲』と称して嫌う相手よりは幾分かマシな存在だったし・・・



油断した、と言えば話は早いだろう。

現に彼はふざけたことを口にする男、零崎名前の兄である零崎双識によって拉致され、あれよあれよと見知らぬマンションの一室まで連れて来られてしまったのだから。


もちろん抵抗はした。池袋の喧嘩人形と呼ばれる所以である力を存分に発揮したつもりだった。

でも気付けばこんなところにいる。何が起こったのかわからないが、此処に来るまでに気絶していた空白の時間の直前に『赤』を見た気がする。鮮やか過ぎる赤は女性の姿をしていた気がするが、生憎直後の気絶が原因であまり深くは思い出せない。





「あー・・・帰って良いっすか。俺、まだ仕事中なんで」


苛立ちよりも混乱の方が大きい静雄の言葉に、キッチンの方から「駄目だよー!」という声が上がった。

キッチンから飛び出してきたエプロン姿の双識は手に持ったおたまをビシッと静雄に向ける。




「今折角君の分の夕食も用意してるんだ!今日は絶対に帰さないからね!それに明日は裏世界の友人知人に君のことを紹介するって決めてるんだよ!」

折角赤色に協力して貰ったんだから、と小さく付け加える双識に兄弟の一人である曲識は「そんなことの為に彼女を・・・」と若干呆れた眼で双識を見た。






「そういえば、名前お兄ちゃんは何時来るんですかー?」

「そうだっちゃ。レン、名前はどうしたっちゃ?」

「今日は名前が自分の嫁を紹介すると言うから来たんだが・・・」


零崎一賊の三名の台詞に、静雄は硬直した。


名前が自分の嫁を紹介する?誰を?

今の状況から『嫁』が誰を示すかなんてわからないわけがない。


ブワッ!と顔に熱が集まるのと同時に勢いよく立ち上がった静雄は「帰る!」と声を上げながら玄関まで走った。




「あー!帰っちゃ駄目だってば!」

「あ、おいレン・・・」


逃げ出そうとする静雄に向かって自殺志願を取り出した双識に若干の不味さを感じた他三名がそれを止めようとした瞬間――








「今此処で黙って死ぬか、大人しく殺されるか、選べ」








静雄の背後まで迫っていた双識の身体が後ろへと吹っ飛んだ。

正確に言うならば、突如として開いた玄関から姿を現した名前が静雄の肩越しに双識の顔面をぶん殴り吹っ飛ばした、だ。


あいたたた、と言いながら顔を抑えて起き上がる双識は、自身を感情の籠っていない目・・・さながらゴミかそれに等しい何かを見る様な目を向ける弟に、苦笑を浮かべた。



「うーん、どっちにしても私は死んでしまうのかな?」

「お望みなら自害も許してやる」


ナイフを取り出し真っ直ぐと双識に向ける名前の後ろから「あー、やっぱりこうなったか」と声を上げるのは今まで姿が見えなかった人識。




「災難だったなー、あんた。トムが捜してたぜ?」

「トムさんが・・・っていうか、何で・・・」


人識と名前を困惑した面持ちで見比べる静雄に、名前はちらりと視線を向けてからすぐに目を逸らす。




「名前、折角あんたに会いに行ったのにあんたが居なくて、すっげーイライラしてんの。で、見かねた俺があんたの上司のトムに話を聞いたら、煙草買いに行くと言ってから戻ってこないって言うし・・・こりゃ何かあったなって思ったところで、この間そこの馬鹿長男が『名前のお嫁さんを皆に紹介しないと』って言ってたのを思い出して、もしかすると此処にいるんじゃねぇかって名前に教えたんだ。それからの名前の行動は早かったぜ?池袋の寿司屋で昼飯食ってた人類最強捕まえて此処まで運転させて、玄関開けた瞬間に長男に顔面パンチ」

名前に代わり事のあらましを静雄に説明する人識に静雄は更に困惑し、後ろで聞いていた零崎三名は双識に冷ややかな視線を送る。



「飯の最中だった人類最強に此処まで運転させたんだ。後で何を要求されるかわかったもんじゃない。・・・こいつのこと、心配したんだろ?兄貴」

「・・・口が過ぎるよ、人識」


興醒めとでもいうようにため息を吐きながらナイフを仕舞った名前に双識は一人ほっと息を吐いた。




「・・・おい」

「な、何だよ」


真っ直ぐと静雄の方を見た名前に静雄は少し後ずさった。

人識の説明で困惑していたが、今更になって『嫁』だの『紹介』だのといった単語を思い出してしまい、顔に再び熱が集まる。




「うちのクソ双識が悪かった」

「あ、いや・・・俺も、油断してたし・・・」


まさかそんなに素直に謝られるとは思わず、静雄は慌てて返事をする。



「・・・変な事、言われなかった?」

「へ、変な事か?・・・別に」

自然と目を逸らす静雄に名前は「・・・そうか」と頷いた。何となく分かっているのか、聞き出そうとはしない。




「お前はまだ仕事の途中なんだろう。外に赤色がいるから、送って貰え」

「あぁ・・・あ、有難う、な。俺を探してくれたんだろう?」


「・・・うちの馬鹿の後始末をしただけだ」

「そう、だな」



「お前は俺が殺すんだ。今回はこの馬鹿が相手だったから良かったものの、下手に油断するな」

「わ、わかった」


早く静雄をマンションから出したいのか、そう言うや否や静雄の腕を掴んで「行くよ」と引っ張った。

そこでハッ!とした双識が「まって!せめて夕食だけでも!」と言うのを他の兄弟たちが抑える中、二人はその場から離れて行った。







勝手に紹介される








「友達以上恋人未満ってヤツですか?少女漫画みたいです」

「レンの言うとおり、本当に嫁になりそうだな・・・悪くない」

「たぶんもう名前は帰って来ないし、解散しても良いっちゃ?」


その場にいる双識以外の面々がマンションを出て行こうとするのを「えー!皆待ってよ!折角夕食作ったんだから!」と双識が止めようとしたが、誰も聞き入れることはなかった。



あとがき

最後に『暗黒空間』シリーズを書いたのがもう何年も前になるのでキャラがちゃんと再現出来ているか不安が残ります・・・シリーズどころか、首も戯言も久しぶりでした。
お気づきだと思いますが、赤色が寿司を食べていた店はサイモンさんがいるあのお店です。



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