※セブルス成長IF。今のところ本編とは関係ありません。
セブルス・スネイプにとって、兄とは憧れの象徴だ。
幼い頃から自分を大事に護ってきてくれた兄。頭が良く聡明で、自然と人を惹きつける魅力もあって・・・
弟という立場にいるセブルスでさえ、時折ついつい兄に見惚れてしまう程に、兄は昔から完璧だった。
セブルス自身が兄と同じくホグワーツに入学してから既に数年が経過しているが、いまだに兄よりも優れ兄よりも素晴らしいと思える人間を見つけたことはない。
「兄様、失礼します」
ホグワーツが長期休暇になってスピナーズエンドの実家へと帰って来たセブルスは、そんな自分に合わせて休みをとってきてくれた兄の部屋へと足を運んだ。
しかしノックをしても中からは返事は無く、仕方なく一言添えながら鍵のかかっていない扉を開いて中を確認。
どうやら部屋の主である兄は眠ったままだったようで、セブルスはそっとベッドに近付いた。
普段ならセブルスよりも早く起きて朝食の準備をしているはずの兄。それが今では、セブルスが部屋に入ってきたのも気付かず熟睡している。
セブルスがホグワーツに入学してすぐ、兄の名前はとっくにホグワーツを卒業して、今では社会人として忙しい身。
疲れていたのだろう。ベッドの上で深く深く眠る兄を、セブルスは起こそうとは思わなかった。
もしセブルスが声を掛ければ、兄は優しい声で「おはよう」と言って微笑んでくれるだろう。本当はまだ疲れが残る身体を起こし、セブルスのために朝食を作ってくれるだろう。
兄の作る料理は何時だって絶品で、兄が作る料理なら元来小食であるはずのセブルスでもぺろりと平らげてしまえる。
朝食のことを考えて少し空腹が増してしまったが、それよりもセブルスは名前の寝姿から目が離せない。こうやって眠っている兄の姿は新鮮なのだ。
セブルスは眠っている名前をしばらく見つめていたが、ふとその唇に目が行った。
何時もは優しい笑みの形をした唇。
今は薄らと開いたその唇から目が離せない。
まるで吸い寄せられるように、セブルスは名前の眠るベッドに手をついて、身を乗り出す。
自らの兄を見下ろせば自身の影がかかって、何やら悪いことをしている気分になった。
違う違う、自分は兄の眠る姿が珍しいから、ちょっと見てしまっているだけ。もう少しよく見ようと身を乗り出しただけ。後ろめたいことなんて何もない。
そう自分に言い聞かせながらも、セブルスはついごくりと息を飲んでしまう。
唇から、目が離せない。
もしもう少し兄に顔を近づけたら、どうなるだろうか。
自分の唇が兄のそれと重なるかもしれない。
それは口付けだろうか。
邪な気持ちを抱いていないならそれは事故だ。事故で済ませられる。
「・・・兄様」
顔が少し、近づいた。もう少し、もう少しだけ・・・
「セブルス」
「えっ、あ!」
突然伸びてきた腕がセブルスの頭に添えられ、ぐいっと名前の胸へと押し付けられる。
吃驚して名前の胸から顔を上げれば、ぱっちりと開いた兄の目と視線が交わった。
驚きのあまり心臓が止まりそうになるセブルスに、彼の兄はくすくすと楽しそうに笑った。
「寝てる相手に襲い掛かるなんて、悪い子だねセブルス」
「お、襲うだなんて・・・!」
否定しようとするセブルスの唇にぴとりと一本の指が添えられる。
言い訳は結構、とでも言いたげな兄の視線に、セブルスは観念したように言葉を発するのを止めた。
「悪い子には、お仕置きが必要だ」
お仕置き、という言葉に思わず肩を震わせるセブルスに、名前は可笑しそうに笑う。
名前の手はセブルスの頬へと添えられ、くいっと引かれる。
「あっ・・・」
思わず声を漏らすセブルスの唇に、名前の唇が重なった。
触れるだけのそれは、お仕置きと言いながらも優しい。
「眠っている間にセブルスの可愛らしい姿を見逃すのは惜しい。こういうことは、私が起きている間にしてくれないかい?」
優しく諭すような声で、セブルスにとっては恥ずかしくて仕方のないことをお願いする名前に、セブルスは顔を真っ赤にしながら押し黙った。
眠り姫のキスなんて
「さて、目が覚めたことだし朝食にしよう。おいで、セブルス」
顔を真っ赤にしたセブルスを余所にさっさとベッドから降りて軽い身支度を整える自らの兄に、セブルスは絞り出すように「はい」と返事をした。
兄が作る朝食は相変わらず美味しかったが、心臓の高鳴りが治まらないセブルスにとってはそれどころではなかった。
あとがき
兄、社会人。弟、学生。
思春期真っ盛りでも、兄相手には素直だと良いなと思います。
恋愛要素としてはちょっと弱かったかもしれません。