僕が気付いた時には、僕は『ヒソカ』という人間だった。
いや、正確にはヒソカという人間の立ち位置に成り代わった人間だ。
それに気付いたのは、生まれてからもう随分と経ったある日、気まぐれに受けたハンター試験がキッカケだった。
第287期ハンター試験。会場で受け取ったのは44番のプレート。
受け取ったプレートを手に唖然とする僕に「やっほ、名前も来てたんだ」と真顔で・・・というかギタラクル顔で声をかけてきた数少ない友達のイルミに気付いた。あ、僕ってヒソカだ、と。
いや決めつけるにはまだ早すぎる!と本物のヒソカの登場を待ってみたが不在。どんな勘違いが働いたのか何時の間にか主人公組に警戒される立場になっていた僕。
違うんだよ、別に物騒な理由できょろきょろ視線を巡らせてたわけじゃないんだよ、決して「良い得物はいないかな?」的な理由じゃないんだよ。・・・まぁ、話しかけたらかけたで警戒心アップさせるだけだろうから、弁解も何もしなかったけどね。
その後も起きる出来事出来事が完全にヒソカをなぞらえていたのだから、もう認めるしかない。僕、ヒソカでした。
ここで僕が勘違いしてほしくないことは、別に将来性のある若者を見つけても下半身は反応したりなんてしないということだ。精々『成長が楽しみだなぁ』と心の中で思う程度。残念ながら僕は変態じゃない、と自分では思っている。
正直な話、ヒソカという人間がどんな人生を歩んであんな性格になったのかはわからない。こんな時ヒソカだったらどんな風に考えるのかとか、実際ヒソカという人間に関わったことの無い人間からすればマネのしようも無い。わかってるのは、紙面で呼んだレベルのみ。
だからこそ、僕はわからないのだ。
「やぁ、クロロ」
「・・・あぁ、名前か」
紙面以外で、ヒソカとクロロはどんな風に接していたのかが。
・・・というか語尾にハートだとかスペードだとかを出すってどうやれば良いんだ。あれって、文面だからわかるものであって、口頭じゃまずわからないよね?僕にどうしろって言うんだ。
原作通り旅団の一員(仮)になった僕だが、別に原作を守りたいとかそういう殊勝な考えの持ち主だからなのではない。
こうやって原作通りにやっておいた方が後々に面白いことがあると知っているからだ。ヒソカ程変態ではないが、僕だって愉しいことが大好きなのだから。
そんな僕が一番よく接するのはもちろんマチ。原作でも喋ってる様子が印象的だった分、接するのも割と簡単だった。むしろ原作より変態性が無いから、マチからゴミを見る様な眼を向けられることもない。
友達がイルミしかいなかったから、あわよくばマチともお友達に!とこっそり考えていた。そんな相手から「少しは団長と話しておいて損は無い」と言われたからこそ、こうやってクロロに話しかけているわけだけど・・・
「何か用でもあるのか」
「んー、特には無いけどねぇ」
どう接すれば良いんだ。旅団入りしてからまともに会話したことなんてなかったから、困る困る。
でもなぁ、マチがちゃんと話すんだよって念を押されたし・・・
「君と、ちょっとだけ仲良しになろうと思ってね」
「仲良し?ふんっ・・・面白いことを言うな、名前」
読んでいた本をぱたんっと閉じてこちらを見るクロロ。確かに僕がこういうことを言うのは珍しいか。普段はマチとばっかりだし。
「それで?どうやって仲良くなるつもりだ?」
心なしか何やら楽しそうな声色で言うクロロに僕は「さてねぇ、どうしようか」と笑みを返す。
本当にどうしようか。正直なところ、無計画だ。
取りあえず、仲良くなるのに大事なのは距離感だと思う。・・・まぁ、友達一号のイルミと仲良くなった時は、距離感とか関係なかったけど。むしろイルミが僕を『目撃者』として殺そうとしてたから、物理的距離感はほぼゼロだったけど。今思えば、今こうやってイルミと友達になっているのは奇跡に近いな。今度遊びに行こう。
「おい」
「・・・おっと」
イルミの事を考えているうちにクロロが目の前に来ていた。
クロロは先程の楽しそうな様子から一変、何やら苛立ったような顔で僕を見ている。
「仲良く、と言いながらどうやら別のことを考えているようだな」
「バレてしまったか」
「大方、マチにでも言われて来たんだろう」
ばればれだったらしい。
けれども別にバレて困る事じゃないからと「わかっちゃったか」と開き直った風に笑う。
クロロは小さくため息を吐いて「まぁ良い」と僕に背を向ける。もしここでその背中を攻撃したらどんな顔をするのかなとか思うが、今はしない。まだその時ではないし、案外僕はクロロと仲良くなってみたい。何だか面白そうだし。
・・・もしかすると、こういう思考はヒソカと似ているのかもしれない。最終的に変態にならないように気を付けよう。
「ほら」
「ん?」
目の前に出されたのは、この間の略奪で旅団の誰かが運んでいた酒。ぱっと見でも分かる高級そうなソレを咄嗟に受け取れば、クロロがにやりと笑った。
「仲良くなるんだろう?少し、付き合え」
「君って酒にあまり強くないイメージがあるんだよね、特に前髪を降ろした時とか」
オールバックだとそうでもないのに、前髪降ろすだけで一気に若返るなんて、ある意味念能力みたい。
「さぁな。それは一緒に飲んでから見極めろ」
「君が酔い潰れる姿は面白そうだけどねぇ」
「一緒に飲むのは不満か?」
ぽんっと肩に置かれた手が、するっと肩から胸をなぞる。
「まさか!君と飲むなんて心が躍るよ」
小さく笑いながらクロロの真似をして手でクロロの腰から太腿にかけてなぞれば、クロロの身体がぴくんと震えた。
「・・・ほぉ?じゃぁ、とことん付き合って貰おうか」
クロロの腕が首に回ってきたあたりで「あれ?」とは思ったが、取りあえず後日マチに良い報告が出来る様に「もちろん」と頷いた。
これは罠ですか?
「マチ、良くやった」
「まぁ団長の頼みだからね。今後も団長には協力するから、いい加減嫉妬混じりの視線を向けてくるのはよしてくれよ」
「善処しよう」
クロロとグルだったマチは、その返事に困ったように肩をすくめた。
あとがき
知らないうちにクロロに狙われてるヒソカ成代り主。
たぶん成代り主除く旅団メンバーは知ってる。
成代り主は『自分がクロロを突け狙う側』って思ってるから、気付くの遅れる。気付いたら外堀は完全に埋まってる。