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目が覚めた時、僕はガラスいっぱいの水の中にぷかぷか浮いていた。


此処は何処?僕はどうしてこんな場所にいるの?そもそも僕って何?

そんな風に疑問符ばかり浮かべる僕の目の前に、その人は現れたんだ。



ガラスの向こう側。僕はその人に、一目惚れした。










「うぇすか!うぇすかー!」

「こら、名前やめろ」


「うぇーすかー!」



ガラスいっぱいの水の中から出して貰えた僕は『完成品』らしい。

僕が入っていたガラスの他にも沢山のガラスがあったけど、中に入っていたのは変な形のもぞもぞした肉塊とか、顔はあるのに身体がへんてこなのとか・・・

ちゃんとした形なのは僕だけなんだって!



僕が一目ぼれした相手はウェスカーって名前で、僕の『所有者』らしいけど、難しいことは考えなくても良いよね。



いっつもいっつも変な形の生き物と戦ったり身体に機械を繋げられて何かを測定されたりしてるけど、ウェスカーが傍にいてくれれば我慢出来るよ!前にウェスカーがいなかったからと周りの奴等の首ぽきぽき折ったら、次からは何時もいてくれるようになった!ウェスカー優しい!大好き!

今日も変な生き物と戦って・・・あ!今日はいつもと違って、何だか重装備して銃を持ったのと戦ったなぁ。ちょっとお腹開いただけで動かなくなっちゃったけど。


頑張ったご褒美が欲しくってウェスカーにくっ付いてたら、蹴り倒されちゃった。全然痛くないけど。

ウェスカーは僕よりちょっとだけ小さいから、ぎゅーってするのに丁度良いんだ。けどぎゅーってしたらすぐお腹を殴られちゃう。鳩尾って場所だった気がする。あまり痛くないから大丈夫だけど。




「うぇすかー、すきー!」

「・・・まったく」


ため息を吐いたウェスカーは僕の恋心に気付いてくれない。

こうやって全身で大好きを表現してるのに、ウェスカーには僕がじゃれ付いているようにしか見えないらしい!なんてこった!僕はこんなにウェスカーが大好きなのに!





「うぇすかー、うぇーすかー、うぇっすっかー!あぶっ」

「いい加減にしろ、名前」


頬を掴まれ、ぶにーっと潰される。




「うぇふはー!」

でも気にせずウェスカーの名前を呼べば、またため息を吐かれてしまった。心外!


ウェスカーはどうして僕の恋心に気付いてくれないのかな?

もっと積極的にすれば気付いてくれるかな?




「うぇすかー!うぇすかー!うぇすかー!すきすきー!」

「・・・お前はそれしか言えないのか。まったく、能力値は悪くないのに、こうも頭が足りないようでは・・・まだ実践には出せないな」


ウェスカーのことは大好きだけど、言ってることはよくわからない。




「あと、対象を殺す時に遊ぶ癖は止めろ。時間の無駄だ」

「うぇーすかー」


「・・・言っても無駄か」



あれ?頭痛いの?大丈夫?

心配になってウェスカーの頭を撫でれば手をべしっと叩かれた。痛くないけど。









そんなこんなの、大好きなウェスカーと過ごす毎日に、ある日変わったことが起こった。

何か、真っ赤なランプがビーッビーッて不快な音を立てたと思ったら、外で大爆発。悲鳴とか怒声とか銃声とかが聴こえ始めて、そしたらウェスカーが「行くぞ、名前」って普段は近づくなって言われてる扉の方まで僕を連れて来たんだ。



「この扉の向こう側は外だ。良いか、余計なことはするな。私の命令だけに従え」


ウェスカーの言う事だけ聞くのは当たり前!だって大好きなんだから!

僕が笑顔でこくこくと頷くのを見たウェスカーは、扉を開けた。


初めての外は暗くて、爆薬とか血肉のニオイがして、中とあまり変わらなかった。あ!けど、暗い中で見るウェスカーも好き!




「行くぞ」

ウェスカーが銃を構えながら進んでいく。僕はその傍を歩く。

そういえば僕って外でても良いのかな?何時もは扉に近付くだけでも怒られるのに。



「この研究所は捨てるしかないな。次の場所に移る」

移る?


「奴等に場所がばれたからな。しつこい奴等だ」

しつこい奴等?ウェスカーに付きまとってる奴等がいるの?何て奴等!僕がウェスカーを守らなきゃ!




「良いか、お前は『兵器』だ。余計なことは考えるな。計画の邪魔をする者は殺せ、良いな」

「うぇすかー」


「・・・能力値的には完成品だが、頭の悪さは重大な欠陥だな」



完成品だけど欠陥?ウェスカーの言ってること、やっぱりわからないなぁ。

あ、ウェスカーに向かって銃を向けているヤツがいる。


銃って、あの筒の中から出てくる弾が身体に当たるとちょっと痛いんだよねー。すぐに内側から押し出しちゃえば治るから良いんだけど、ウェスカーって僕みたいに出来るのかな?もしかしえ出来ない?





「うぇすかー」

バッとウェスカーに覆いかぶさった瞬間、連続して鳴り響く銃声。背中に衝撃。


わー酷い。一発じゃなくって何発も撃ってきた。そこまで強い銃じゃなかったみたいで、そこまで痛くないけど。




「・・・名前、退け」

「うぇすかー?」


ぐいっと胸を押されて仕方なく離れると、ウェスカーは僕の背後に向かって銃を向けて発砲した。あ、命中したっぽい。




「背中を見せろ。・・・自己修復機能に異常は無さそうだな」

「うぇすかー!」


褒めてー!と抱き付けば殴られた。痛くないけど。




「一々抱き付くな。この先に車がある。お前は邪魔者を排除しろ」

ウェスカーと僕の恋の邪魔をする奴等だね!わかってるよ!


「・・・その顔はわかってないな」

またため息をつたウェスカーに向けて放たれたボーガンを片手で圧し折りながら、僕は首を傾げた。








愛することしか出来ない








ウェスカーは自分を守りながら、というよりも視界に入ったものを片っ端から殺しながら進んでいく『完成品』を見てため息を吐いた。


見た目は何処にでもいそうな青年。しかしその身体には想像を絶する程のウイルスが犇めき合い、その影響なのか知能は然程高くは無く、自身を見て「大好き」だとのたまう始末。

まぁ使えればそれで良いか。そう思うウェスカーに名前の想いが通じて恋が成就するまで、まだまだ時間がかかりそうだ。



あとがき

滅茶苦茶強いのに知能が壊滅的。まさに見た目は大人、頭脳は子供な人外主でした。
ウェスカーに殴られたりしても痛くないと言っているのは、別に手加減されてるとかそういうわけではなく、単純に人外主の防御力がカンストしてるだけで。たぶん普通の人間だったら気絶するそうな攻撃が繰り出されてると思われ・・・。



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