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※カラ松がバスケ部。



ダンダンッとボールがバウンドする音。


ゴールまで一直線に走って行き、ゴール前でシュートの構えを取る。キュッとシューズが甲高い音を立てて、その生徒の手からボールが放たれた。

放たれたボールは綺麗な弧を描き、丸いゴールへと落ちる。


床に転がって行くボールを見ながら流れる汗を鬱陶しそうに手の甲で拭うその生徒。長時間に及ぶ練習のせいか、呼吸も浅く汗の量も多い。



コートの外で腕を組みながら様子を見守っていた俺は首から下げていた笛をピッ!と鋭く鳴らした。

笛の音で動きを止めた生徒が「えっ、先生・・・」と声をあげる。どうやら俺の存在に気付かない程熱心に練習していたようだ。



「松野!休憩だ」

「あ、はい」


「熱心なのは良いことだが、無理はするなよ」




他の部員達が帰った後、松野個人が行っている自主練。

もちろん自主練をするのは松野だけではないが、最近の松野の自主練は他の部員よりも長い。


つい先日の発表でレギュラー入りしてからというもの、妙に気を張り過ぎている気がする。

まぁ選ばれなかった部員に失礼がないように精一杯やっているのだとすれば、好感が持てる。


だが、自身の身体を酷使するような自主練は、顧問としてはあまり関心しない。





「今日はもう着替えて来い。体育館も閉めるぞ」

「す、すみません」


慌てて更衣室へと消えて行った松野の背中を見送り、俺は右ポケットの中に入っていた小銭を手に体育館の外へと出た。



体育館のすぐ傍にある自販機で小銭とスポーツドリンクの入ったペットボトルを交換してから体育館に戻ってくると松野はいない。どうやらまだ更衣室にいるようだ。

着替えに何時までかけるつもりだと思いながら更衣室の扉を開ければ、まだ着替えていない松野の姿が見えた。


更衣室のベンチに腰掛け、ぐったりとしている松野にため息が出そうになる。

俯いている松野の首筋に冷たいペットボトルをぴとりと当てた。




「ひえっ!?」

「飲め」


「えっ、先生!?あ、えっと、これ・・・」

俺と差し出され咄嗟に受け取ったペットボトルを交互に見て目を白黒させる松野。



「他の奴等には内緒だぞ。知られたら、ずるいずるい言われるからな」

下手すると部員全員に買ってやらなくちゃいけなくなる。


俺の言葉に松野は戸惑った表情を隠すことなく、ただただ冷たいペットボトルを握りしめている。




「飲まないのか」

「あっ、えっと・・・飲んで良いんですか、これ」


「飲めと言っているんだ。良いに決まってる」

俺の言葉で漸く松野はペットボトルを捻り開け、軽く煽った。



「うっ!げほっ!!!」

「何やってるんだ・・・」


器官に入ったのか激しく咳き込む松野の背を撫でると松野がびくりと身体を震わせながら小さく悲鳴を上げた。

本当に何をやっているんだ、この生徒は。





「落ち着け松野。何がしたいんだ、お前は」

「だ、だって、先生が突然・・・」


「俺が何だ」

「・・・何でもないです」

しばらくして松野は何とか呼吸を落ち着かせる。


それを見計らい、俺は『本題』に入った。






「・・・で、だ。松野、お前は自分の自主練が身体を酷使していることを理解しているのか」

俺の言葉に目をぱちぱちと瞬かせる松野。あぁ、コイツはこういう奴だ。何も考えてない。


「このままだと身体の何処かしらに異常が出る。自主練は結構だが、もう少し自分を大事にしろ。いいな?」

「で、でも、先生!俺、レギュラーの中じゃまだ全然・・・」


松野の言うとおり、松野は部員の中では上手い方だが、レギュラーの中では中の下程の実力しかない。しかしそれも今だけだ。俺は松野が成長することを心の中で確信している。まぁ、生徒一人を贔屓出来ないから、あまり口には出さないけれども。

俺が何も言わないからか、松野は落ち込んだような顔つきをして、ベンチの上で膝を抱える。




「だからと言って、身体を酷使すれば良いというわけではない。お前がチームの為に強くなろうとしていることは良いことだが、自分を犠牲にするのは止めろ。お前に何かあったら迷惑するのはチームだ。それに、チームメイトもお前を心配するぞ」

「えっ、違います」


突然の否定の言葉に俺は言葉を止める。あ?何が違うって?

松野は俺をちらちら見ながら、ぽぽぽっと顔を赤くし始めた。何だ?




「せ、先生が俺をレギュラーに選んでくれたから・・・その、結果を残したくて」

頬を林檎のように真っ赤に染めながら言う松野に、俺はつい「あ?」と声を上げてしまった。



選んでくれたから結果を残したい?

まぁ、期待に応えたかったとかそういう意味だろう。




「それでこんな時間まで自主練してたのか?・・・まったく、お前は変なところで真面目というか」

「ま、真面目、ですか?俺、先生に褒めて貰いたかっただけで・・・」


何やら自分で言っていた恥ずかしくなったのか、膝に顔を押し付けて隠れてしまった。

俺に褒められたかっただけとは・・・


別に普段全然褒めてないとかそういう訳ではないはずだが。基本、飴と鞭は使い分ける方だし。

もしや松野的にはもう少し褒めて伸ばしてほしいとか、そういう要望なのだろうかこれは。



まぁ松野も最近特に頑張っているし、注意はさっきのでもう十分だし、今度は褒めてみるか。叱るだけでは伸びるものも伸びない。





「松野」

ぽんっと松野の頭に手を置いて、ぐりぐり撫でる。





「お前はよく頑張っているよ。俺の誇りだ」

ばっ!と松野が顔を上げた。




林檎みたいな頬はそのままに、目はきらきらと輝いて・・・

何と言うか、純粋なヤツだなと思った。








ボール遊びも程々に









「げっ、カラ松兄さん何してんの?」

「名前先生が俺にくれたペットボトルを永久保存している」


「この間は先生が捨てたインク切れのボールペンだったよね!?いい加減止めてよね!先生もカラ松兄さんのそんな姿知ったら引くよ!?ドン引きだよ!?」

「何故だ?先生は今日、俺が先生の誇りだとはっきり言ってくれたんだ。これは結婚するしかないだろう」



「・・・先生、早くカラ松兄さんの本性に気付いてよぉ」

先生に一目惚れしたという理由だけでバスケ部に入部したサイコパス無自覚ストーカーの兄を持つトド松は、がくりと項垂れた。



あとがき

先生と直接会話するのは恥ずかしいけど、影からこっそり見守る(ストーカーする)のは全然大丈夫な純情そうでそうでもないカラ松くんは・・・何処にいますか?
何だかあまりバスケ部関係なかったような気がします。ごめんなさい。



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