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長期休暇に入ってホグワーツから自宅に戻ると、セドリックを待っていたのは優しい笑みを浮かべた名前という使用人だった。

セドリックがまだ小さかった頃に父親が雇った彼は兎に角優秀で、何より優しい人。




「お帰りなさいませ、坊ちゃん」

「うん。ただいま、名前さん」


父親が魔法省に勤めているために家は割と裕福で、屋敷しもべ妖精も勿論いる。けれども全てを屋敷しもべ妖精に任せられるわけもなく、名前の他にも数人の使用人がいた。



「お疲れでしょう。お荷物、お持ちしますよ」

「それぐらい自分で出来るよ。名前さんだって忙しいんだから、僕にばっかり構ってなくても良いのに」



長年この家に勤めてきた名前はその優秀さを買われ、セドリックがハッフルパフの監督生になる頃には使用人達のリーダーのような立場になった。

そんな彼にはやることがいっぱいある事を、セドリックは理解してる。だからこそ、あまり迷惑はかけたくないのだ。



「そんなこと、坊ちゃんが気にすることではありませんよ」

にこにこと笑いながらセドリックのトランクを持ってしまった名前に「別に良いのに」と言いつつも口元が緩んでしまうセドリックは、昔から名前のことを慕っている。



昔から彼はセドリックに優しくて、どんなに忙しい時でも時間を作ってはセドリックの相手をしてくれた。

両親にも相談出来ないようなことも、名前には言うことが出来た。




「それに、今日は坊ちゃんが帰ってくるからと早めに仕事を終わらせましたので。残っているのは、夕食の準備くらいです」

「そうなんだ。あ、メニューはもう決まってる?」


自室に向かって歩くその斜め後ろをトランクを手に歩く名前を振り返り問う。




「旦那様も奥様も、本日は魔法省主催の食事会で遅くなるそうですから、夕食は坊ちゃんの好きなものを沢山作りますからね」

その言葉に思わず「やった」と声を上げたセドリックに名前は優しい微笑みのまま「喜んでいただけたようで何よりです」と言った。




「あ、父さんも母さんもいないなら、その・・・名前さんも一緒に夕飯食べる、よね?」

「ご一緒して宜しいなら」


「勿論だよ!あ、他の人達もちゃんと呼んで、皆で食べよう」

「坊ちゃんの提案なら、皆も喜びますよ。折角セドリック坊ちゃんがお帰りになったのですから、賑やかにしましょうね」






セドリックの自室に辿り着き、トランクが音も無くそっと置かれる。

あ、そうだ。と言いながらセドリックがそのトランクを開くと、沢山の荷物が溢れた。



「おやおや、沢山持って帰って来ましたねぇ」

「父さんたちへのお土産と・・・あ、ほら!これは名前の分」

「私の分ですか?お気遣い有難う御座います」


ホグズミートで購入したものや自宅へ帰る途中にあった店で立ち寄って買ったもの、沢山のお土産の中から名前のお土産を見つけ出したセドリックは、笑顔でそれを手渡した。

同じく笑顔でお土産を受け取った名前は「今開けてみて」というセドリックの言葉に従って、小さな紙の包みを丁寧に開いた。




「ふふっ、カエルチョコなんて懐かしいですねぇ」

「前に名前さんが列車の中で食べるカエルチョコが好きだったって言ってたのを思い出して、帰りの列車で買って来たんだ」


「随分前のことをよく覚えていましたね。有難う御座います、大切に食べます」

「中のカード、後で見せてね」

「えぇ、勿論」



特別中のカードに興味があるわけではないけれど、これで名前ともっとお喋り出来るなら。

セドリックは大事そうにカエルチョコの箱を持つ名前に、満足そうに笑った。







「ところで坊ちゃん、ホグワーツではどうですか?」

「毎月手紙を送ってるから、知ってるくせに」


「坊ちゃんの御口から聞きたいのです」

「仕方ないなぁ」

そうは言いつつも、セドリックの口元から笑みは消えない。



「長くなるからね、今更キャンセルは出来ないから」

「えぇ。坊ちゃんのお話を聞くための準備は出来ていますから」


そう言って懐から出した杖をくるりと回すと、自室にあるテーブルの上には紅茶とケーキのセットが現れた。



「ゆっくり、沢山お話しましょうね」

「勿論」



本当は、学校であったことを誰より早く名前に教えたかった。

そんなセドリックの心情なんて、長年一緒にいた名前にはお見通しだったのかもしれない。



ソファに座って、正面の名前に向かって身振り手振りを交えて今年ホグワーツで起こったことを伝えるセドリックに、名前は頷いたり時折可笑しそうに笑ったり・・・





「あ、ごめん名前さん、つい時間を忘れて・・・」

気付けば夕食の時間になっていたことに気付いたセドリックは、しまったなと眉を下げた。

そんなセドリックに名前は笑顔で首を振る。



「いいえ、坊ちゃんの話は何時も面白くて、私も時間を忘れていました」

「そうだ!お詫びに夕食の支度を手伝うよ」


少しでも名前の傍にいたくて申し出た手伝い。名前はぱちぱちと目を瞬かせた。




「坊ちゃんがですか?」

「逆に邪魔になっちゃうかもしれないけど」

「ふふっ、構いませんよ。では、坊ちゃんにもお手伝いして頂きましょう」


空になったティーセットは杖を振るえばパッと消える。




名前や他の使用人、それから屋敷しもべ妖精たちと共にキッチンに立ってセドリックは、慣れない手つきながらも精一杯手伝った。



「坊ちゃんのおかげで、キッチンが何時もより賑やかでしたね。坊ちゃんの手際が前よりも良くなっていて、驚きました」

「僕だって成長するさ。それに、切ったり煮込んだりする作業は、魔法薬学にもちょっと通じるところがあるし」


「おやおや、そうでしたか。坊ちゃんは偉いですね」

優秀ですねだとか、勤勉ですねだとか、そういう言葉ではなく『偉い』なんて褒めるのは名前の癖のようなもので、セドリックはそんなところも気に入っていた。





「ふふっ、僕って偉い?」

「えぇ、とっても」


「どれぐらい?」

「思わずその頭を撫でまわしてあげたくなるほどに」

「じゃぁやってよ」

セドリックの言葉に、名前の笑みは深まった。



「えぇ、勿論」

優しく優しく自身の頭を撫でる名前に、セドリックはへにゃりと笑った。







徹夜覚悟の報告会







「夕飯の後は、話の続きをするから!覚悟しててよね!」

「えぇ、勿論ですよ坊ちゃん。くれぐれも、途中で寝てしまわないでくださいね?私は話の続きが気になって、夜も眠れなくなってしまいますから」


学校での彼とは違い思う存分甘えるセドリックを、名前も少し離れた場所から見守っていた使用人や屋敷しもべ妖精たちも、優しく優しく見守っていた。



あとがき

セドリックを甘やかすことが出来たかちょっと不安が残りますが、たぶんこの二人は今夜徹夜ですね。
ちょっとした蛇足ですが、使用人主はホグワーツ出身で卒業後すぐにディゴリー家の使用人に。



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