「・・・・・・」
「兄さん。そんな顔しないで?」
ムゥッと何かを訴えるような顔をしている兄。
玄関で靴を履いているキョウは困ったような顔をする。
「ごめんね、兄さん。初詣は、徹ちゃん達ともう約束しちゃったんだ」
実は先程宗貴から「後で智寿子たちと初詣に行くんだが、一緒に行かないか?」と誘われたのだ。
誰があの女となんか行くか。と心の奥底で思ったキョウは、それを顔には出さずに「ごめんね」と断った。
徹たちと初詣の約束をしているのは本当だ。その後、敏夫と静信のところに新年の挨拶をしにいく予定もある。
「宗貴兄さん。帰ってきたら、一緒に御節食べよう。ね?」
「・・・・・・」
更に困った顔をしたキョウは「ねぇ、兄さんったら」と声を上げる。しかし、返事は無い。
キョウは苦笑を浮べ、靴を履いた足でスッと立ち上がる。
玄関に立っている宗貴の手をギューッと握り「宗貴兄さん」と笑いかける。
「僕、ちゃんと帰ってくるから。帰ってきたら、まっさきに兄さんのところに言って、ただいまって言って、ギューッてしてもらいに行くから。・・・いってきます、宗貴兄さん」
「・・・!」
チュッと宗貴の唇に小さくキスをしたキョウは、満面の笑みを浮かべて「大好き兄さん」と笑い、家を出て行った。
「・・・・・・」
口を押さえて無言だった宗貴は、真っ赤な顔のまま大人しく智寿子たちと共に初詣に行く準備を始めた。