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※『愛が無ければ生きられない』の屍鬼SIDE


悲劇としか言いようのない光景だった。


とある世界、誰よりも愛された少年がいた。

その愛は何より歪んでいて、お世辞にも真っ当な愛とは言えなかった。

それでも少年は愛されていた。その愛は何処までも狂おしく、何処までも深く、何処までも強く・・・

そんな少年だ。そんな少年だった。しかし、しかしだ。その少年は――



ある日突然消えてしまった。



少年が消えてからすぐに異変が起こり始めた。

少年を愛する者達の“崩壊”が始まった。









「キョウ・・・どうして帰ってきてくれないんだ?もうこの家が嫌になったのか?なぁキョウ、俺が悪いならちゃんと謝る。だから黙っていなくなるなんて止めてくれ、なぁ、何処かで聞いているんだろキョウ。良い子だから性質の悪い冗談は止めてくれ。苦しいんだ、お前がいないと苦しいよ・・・どうしてなんだキョウ、どうして突然何も言わずいなくなってしまったんだ。もう俺の事は愛してくれないのか、俺の愛はいらなくなったのか、もう嫌だ、もう駄目だ、キョウがいないと生きていけない。キョウ以外要らない。キョウが欲しいっ、キョウキョウキョウキョウ――」

少年の兄は夜な夜な弟を想って泣いた。弟の使っていた部屋に籠り、鍵をかけ、外からの声を一切無視して、ただ只管に弟の帰還を願った。




「キョウ君・・・君を愛しているよ。もう君しかいらないぐらい、君を愛してる。もしかして君は怒っているのかな?俺が屍鬼のことにばかり熱中していたから。けど大丈夫。屍鬼がいなくなれば、俺はもうキョウ君しか見ない。そうか、屍鬼がいたからキョウ君はいなくなってしまったのか。じゃぁやることは一つじゃないか。俺とキョウ君の愛を邪魔をするヤツは全部殺してしまわないと。そうしないとキョウ君は帰ってこないんだ。大丈夫だからね、キョウ君。俺が全ての屍鬼を殺してあげるからね。だから安心して帰っておいで、キョウ君。大丈夫、俺はキョウ君を愛しているから。永遠に愛しているから。深く深く愛しているから。だから、だからだからだから・・・お願いっ、帰ってきて・・・!」

村の医者は、少年に対する愛をまるで呪詛のように吐き続けながら起き上がりを墓へ還した。




「ごめんなさいごめんなさい、キョウごめんなさい、毎日会いに来てなんて我が儘言わないから、せめて帰ってきてよキョウ、嫌だよキョウ、また徹ちゃんって呼んでよ、俺を抱き締めてよ、俺に笑いかけてよ、俺の傍に来てよ、ああぁぁぁあッ嫌だよキョウ、俺良い子になるよ!良い子になるから、俺を捨てないで!我が儘言わない。いてくれるだけで良い、それ以上求めないよ!だから捨てないで、お願いだから捨てないで、キョウが良いよ。キョウがいてよ。キョウじゃなきゃヤダよっ、あぁごめんなさいごめんなさい、許してキョウ、我が儘な俺を許して、お願い愛してよ帰ってきてよ一人にしないでよ傍にいてよ辛いよ寂しいよ苦しいよ、キョウ――」

少年の幼馴染の少年は、良い子にするからと泣き喚いた。




「・・・あぁ、蝉が煩いなぁ、他の音が聞こえないぐらい、煩い・・・」

息子だけでなく最愛の少年を失った男は、少年が消えてから一気に増した頭を割りそうな蝉の声に静かに目を伏せた。




「キョウが、いなくなった・・・何でだ?そんな前兆無かったじゃないか、キョウが消えるなんて、どうして?どうしてキョウが消えなくちゃいけないんだ?他の奴じゃいけなかったのか?キョウは?キョウは一体何処に消えたんだ?どうして?どうして消えたんだ?何で消えてしまったんだ?消えたキョウは何処にいるんだ?何処?キョウ何処?あれ?俺、キョウにもう会えないのか?何で?・・・何で?」

村を出たがった人狼の少年は、呆然としながら「何で」を繰り返した。




「沙子、嘘だと言ってくれないか、キョウ君がいなくなるわけないじゃないか。そんなの悪い冗談だ。キョウ君は言ってくれたんだ、愛していると言ってくれたんだ。そんな彼が目の前からいなくなるなんて、それこそありえない話じゃないか。ねぇ、嘘だろう?嘘だって言って、嘘だ、信じない。だって有り得ない。キョウ君が消えるなんてありえない。全部嘘だ。悪い冗談だ。全部全部嘘、マヤカシ。だからほら、沙子・・・本当のことを教えてくれないか?」

村の若御院は現実を受け止められず、全てを偽りと称した。




「あぁ、やはり君の存在は大きかった。君一人がいなくなっただけで、君を愛する全ての人間が可笑しくなった。もうこの村は機能しないだろう。君を失った人間は、もう生きる気力すら感じないだろう。なぁキョウ、君は嬉しいかい?自分を失っただけで壊れる俺達の姿を見たら、きっと自分がどれだけ愛されていたかわかるだろう。愛されたい君はきっとその事実に喜ぶだろう。なぁ、見ているか?見ているのか?俺達の惨状を、俺達の絶望を・・・なぁ、俺の、この苦痛を・・・」

一人の人狼はその顔に笑みを浮かべながら、しかし自身の中の確かな崩壊を感じながら、村の終わりを感じていた。







少年を愛した彼等は、己の中の狂気に呑まれ、その深い悲しみから・・・

ただただ崩壊するしかなかった。







愛の化身を失った






その結果は、ただの悲惨な結末だけ。



あとがき

四周年記念にあった『愛が無ければ生きられない』の屍鬼SIDEということで・・・
取りあえずキョウ君を失って壊れてく村の人たちのお話を作ってみましたが・・・はい。相変わらずの残念な仕上がり。
申し訳なさで一杯です。失礼しました。



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